2023.12.27

目的を叶える手段として訴訟を提起する若い世代に刺激を受けています

山内マリコさん(作家)
#わたしと公共訴訟 山内マリコ

早くからSNS上でCALL4の公式アカウントをフォローしてくださっていた山内マリコさん。

「CALL4の活動には興味がありましたし、ケースに挙がっている公共訴訟を応援したい気持ちはありました。ただ、どのケースを支援するか、なかなか決められなくて……」

そう話す山内さんにとって支援の契機になったのは、「立候補年齢引き下げ訴訟」の原告で、NO YOUTH NO JAPAN(NYNJ)代表の能條桃子さんの話を直接、聞いたことだったという。

切羽詰まらず、社会問題に取り組む世代への期待

CALL4はサイトデザインも信頼できるし、取り扱うケースも着々と増えていたので、SNS経由で情報を見ながら「しっかり活動している団体だな」と思っていました。ただ、なかなかケースや関連ストーリーなどをよく読む時間が取れず、どのケースを応援するか、決められなくて。

そんなとき、私が出演しているラジオ番組に、NYNJの能條さんがいらしたんです。ご本人が「立候補年齢引き下げ訴訟」について話すのを聞きながら、生放送の番組中に「応援します!」と、伝えていました(笑)。

実はNYNJの公式アカウントも、能條さんのことをよく知る前からフォローしていました。カラーコーディネートされたデザインで、情報の見せ方が上手。若い人がああいう取り組みをしているのを見ると頭が下がるし、刺激を受けます。

能條さんの活動を見ていて感じるのは、彼女たちは学生時代からちゃんと社会のことを考え、学び、そして行動しているということです。

彼女たちが原告のこの訴訟は、命を削ってやっているという切羽詰まった感はありませんよね。訴訟は人生のすべてを注ぐ大変なもの、という印象がありましたが、彼女たちの場合、訴訟をツールにして社会問題を変えていこうとしているのが、すごくいいと思いました。

支援活動は生半可ではできないなと思って腰が引けていましたが、このケースは社会への問題提起が目的でもあり、自分が公共訴訟を応援する上で、最初の一歩にぴったりでした。

自分の年齢が上がり、下の世代の活躍を見るにつれ、バックアップに回れる良き大人でありたいと思います。間違っても、彼らの邪魔はしちゃいけない。「口は出さずにお金を出す」というスタンスで応援できればと。

立候補年齢引き下げ訴訟……戦後から変わらず25歳以上、30歳以上と年齢制限されている日本の立候補年齢(被選挙権)の引き下げを求めているケース。若い世代の声が届く社会に向けて、10代〜20代の原告6人が訴訟を提起。左から3番目がNO YOUTH NO JAPAN代表の能條桃子さん

“アクティブ・バイスタンダー”として声をあげる

社会をよくしたいという思いはあったものの、東日本震災が起きるまで、わたしは社会問題にほとんどコネクトしていませんでした。震災と、30代になったのと作家になったことが重なって、ようやく社会に目を向けるようになったという感じです。

わたしが社会に対して初めて声をあげたのは、2022年に映画界の性暴力の問題が表面化したときで、柚木麻子さんと一緒に発起人になって18名の作家の連名で「原作者として、映画界の性暴力・性加害の撲滅を求めます。」というステートメントを出しました。

最初は本当に任侠心だけで動き出して、自分たちの行動の意味を自覚していなかったのですが、あとになって自分たちのやっていたことは“アクティブ・バイスタンダー(行動する傍観者)”に当たるのかな、と気づきました。

被害を受けた当事者の方は、なかなか声をあげられません。そんな中、ハラスメントを目撃した第三者はどう振る舞えばよいか。

当事者じゃないからこそ言えること、ありますよね。直接は傷ついていないからこそ、とれる態度や、できる行動もある。

被害者・加害者だけの問題にせず、誰かが間に入ることはとても大切だと思います。映画界における原作者は、実は蚊帳の外の存在なのですが、世間的にはそう思われていない。この立場を使って物申そうと考えました。

傍聴体験記を書いてみたい

CALL4のケースでは、「立候補年齢引き下げ訴訟」のほかに、「日米同性カップル在留資格訴訟」にも関心があります。

知人から「こういう訴訟を応援しているんです」とチラシをもらって、アンドリューさんと康平さんがどんな状況に置かれているかを知り、すぐに支援しました。

アンドリューさんのInstagramをフォローして、YouTubeで会見も見ましたが、原告の主張が裁判所で認められなかったことはショックでした。

日米同性カップル在留資格訴訟……アメリカ国籍のアンドリューさんに、同性パートナーである日本国籍の康平さんとの関係に基づく安定した「定住者」の在留資格を認めること及び国家賠償を求めているケース。2023年11月2日の控訴審判決では原告側の主張が認められず、ふたりは上告している

今、政治や社会で起きていることを見ていると、心を死なせている人が権力を持っているのだなぁと感じます。もしくは、心を死なせなければ権力の座につけない世の中になっている。意思決定層の冷たい態度が、社会全体の閉塞感につながっていると、そんなふうに思います。

実は一度、傍聴に足を運んだことはあるんです。ただ、時間を間違えてしまい、聞く予定だった裁判は終わっていて……。せっかく裁判所まで来たのだからと、そのときは別の裁判を傍聴して帰りました。

傍聴者がたくさんいることは、世論が応援しているということ。裁判官もよい判決文を書きやすくなる、という話を聞いたので、ぜひ傍聴に行って、空気を変えたいですね。

少し先になりそうですが、世直しをテーマにした小説を構想中で、弁護士や裁判官、法曹関係者の仕事にも興味があります。CALL4は裁判傍聴ツアーをやっているので、ぜひ参加して、傍聴体験記を書いてみたいなと思っています。

CALL4については褒めるところしかない、ですね。サイトのデザインが信頼できるし、寄付までの段取りもとてもスムーズです。

スマホで見たとき、大丈夫?と思うようなデザインや不親切な設計だと、継続性があやしくて、信頼度が下がってしまうんですよね。その点、CALL4はロゴもデザイン・フォーマットもすごくいい。

CALL4のアカウントをフォローしてから数年経ち、少しずつ接点を持てるケースが増えてきました。まずはこの2つの裁判の行方を見届けたいと思っています。

直接の知人ではないケースにも、ゆくゆく寄付したいです。知り合いではない人と人を、このプラットフォームでつなげられることが、CALL4の一番の強みですもんね。

やまうちまりこ●1980年富山県生まれ。R-18文学賞・読者賞受賞作を含む短編集『ここは退屈迎えに来て』でデビュー。同作や『あのこは貴族』など、映画化された原作も多い。近著に『すべてのことはメッセージ 小説ユーミン』など。文化放送の『西川あやの おいでよ! クリエイティブ』に毎週月曜日レギュラー出演中。
取材・文/塚田恭子(Kyoko Tsukada)
編集/丸山央里絵(Orie Maruyama)