2023.7.8

裁判をサポートできることは、発見であり、喜びでした

中島京子さん(作家)
#わたしと公共訴訟

この小説を読んで、入管(※1)という場所やその存在を初めて知った――そんな声も聞かれたように、中島京子さんの小説『やさしい猫』は、世間の、入管への関心をひらくきっかけとなった作品だ。

入管問題に関心を寄せるなかでCALL4を知り、ケースやCALL4の団体への支援もしてくださっている中島さんは「公共訴訟は社会をよい方向に変えていくための力になる。CALL4の活動を見て、そんなことを感じています」と話す。

※1 :入管とは、法務省の外局・出入国在留管理庁のこと。在留資格のない非正規収容者を収容している施設のことも指す。

共感を覚えたCALL4創設ストーリー

私が入管問題に関心を持ったのは、東日本入国管理センター(牛久入管)でベトナムの方が亡くなった事件を知ったことがきっかけでした。どうして国の管理する収容施設内で、そんなことが起きてしまうのか。すごくショックを受けて、そこから入管に注目するようになったんです。

CALL4の活動は、友人がFacebookにアップする入管についての投稿を通じて知りました。ちょうど『やさしい猫』を新聞で連載している頃だったと思います。

CALL4の記事で印象に残っているのは、代表の谷口さんのコラムです。職員の制圧によって亡くなった男性の国賠訴訟に関わっていた谷口さんは、地裁で勝ったのに高裁で一転、敗訴という判決に心が折れて、アメリカに留学します。そのアメリカ滞在中に起きたのが、移民排斥を主張するトランプ大統領(当時)による、中東諸国の人々への入国制限措置でした。

このとき、弁護士をはじめ多くの市民が反対を訴え、トランプの出した大統領令「Muslim Bun(イスラム教徒追放令)」が、司法の力で覆される様子を目の当たりにしたことが、CALL4を始めるきっかけだったという話に共感を覚えました。

訴訟を起こした原告には支援者がいて、応援したり、傍聴したり、判決が出ると旗だしをしたり……。そういうことはニュースで見ていましたが、裁判は当事者である原告の方と弁護士さん、裁判所の人たちだけがやっているものだと思っていました。

でも、CALL4というプラットフォームを利用すれば、クラウドファンディングを通じてささやかではあれ支援ができるし、今、どんな公共訴訟が起きているか、サイトで情報をチェックすることもできます。

裁判は自分から遠いものと思っていたし、仕組みもよくわかっていませんでしたが、こんなふうに訴訟をサポートできることは、発見であると同時に嬉しいことで、世界が広がった感じでした。

状況を知れば、誰もがおかしいと思うはず

6月下旬から放映中の『やさしい猫』は、1年前にドラマ化の話をいただきました。放映も最初からこの時期で、と打診されていたのですが、通常国会で入管法改定について審議しているあいだに放映が始まっていたら……と思うところはありましたね。

撮影現場にもうかがいましたが、とても和気あいあいとした雰囲気で、みなさん、多くの視聴者に届くようにと、情熱を持って制作していることが伝わってきて、ありがたかったです。

ドラマは、家族3人の日常を大切に映しつつ、そこにある小さな偏見をさりげなく伝えています。たとえば外国人というだけで警察官が職務質問したり、市井の人たちが気づかぬうちに外国人を色眼鏡で見ていたり……。マイクロアグレッション(無自覚な差別)、レイシャルプロファイリング(人種に基づく捜査対象の選別)の描き方にも、制作側の真摯な姿勢が表れていると思いました。

最初にお話ししたように、私は牛久入管でベトナムの方が亡くなったことにショックを受けて、自分でもいろいろ調べ始めましたが、入管で起きていることは、もしそれを知ったら、たいていの人がおかしいと感じることだと思うんです。

リベラルな人じゃないとそう思えないとか、主義主張とは関係なく、事実を知れば、こんなひどい目に遭わせることや、収容施設内で人が死ぬようなことはやはりおかしいと、多くの人がそう思うだろう、と。

『やさしい猫』は新聞連載でしたが、新聞小説はファンじゃない方にも読んでいただける媒体なので、なるべく不特定多数の方に読んでもらえるようにはどうすればよいか、その点はいろいろ考えました。

『やさしい猫』中央公論新社・2021年8月発行

裁判によって、社会をよい方向に変えてゆく

CALL4を見ていると、公共訴訟は被害を受けた当事者と加害者のあいだのもめ事を解決するだけでなく、社会をよい方向に変えていくための力になるのだと、最近はそんなことも感じています。

ウィシュマさんのケースも含めて入管関係は気になりますが、私のなかでとりわけ印象に残っているのは、「ベトナム人技能実習生リンさんの死体遺棄刑事事件」です。彼女が有罪になるような国はいやだと思ったし、もしそうなったら、日本は女性が安心して暮らせる社会ではないだろう、と。

最終的に最高裁の重い扉が開いて、リンさんは無罪になりましたが、これは本当にみんなで応援しなければいけないし、自分にとってというだけでなく、日本社会にとって大事な裁判だったと思っています。

収容施設内で亡くなったウィシュマさんやカメルーンの男性、施設内で暴行を受けたクルド人のデニスさんの事件など、最近は、裁判の証拠資料として映像の開示も進んでいますよね。

弁護士の方が証拠保全の手続きをして、入管が記録用に撮影している映像を提出させる。開示された映像が報道され、世論の関心も高まる。今まで公(おおやけ)にされなかった内部の状況を目にして、この問題に関心を持った人もいるでしょう。

入管問題に限らず、社会課題への関心が少しずつ高まっている背景には、CALL4の存在があると思います。それぞれの方法で訴訟を応援できるのはありがたいことだし、精神衛生的に助けられてもいます(笑)。

応援したい公共訴訟はいろいろあるのですが、全てのケースに寄付をできるわけではないので、自分が関心を寄せているケースだけでなく、公共訴訟全体を応援する意味で、マンスリーサポーターとしてCALL4を支援しています。

CALL4からは、訴訟は世の中を変える力になることを教えてもらっているので、これからもいろいろ発信してもらえればと思います。こうしたプラットフォームができるまで、訴訟を支援する機会はなかったので、私としてはCALL4のみなさんのことも、本当に応援しています。

中島京子さん近影(撮影/川上尚見)
なかじまきょうこ●1964年東京生まれ。2003年『FUTON』で小説家デビュー、『小さいおうち』で直木賞を、『夢見る帝国図書館』で紫式部文学書を受賞。芸術選奨文部科学大臣賞と吉川英治文学賞を受賞した『やさしい猫』は、NHKの土曜ドラマで現在、放映中。
取材・文/塚田恭子(Kyoko Tsukada)
編集/丸山央里絵(Orie Maruyama)