2021.9.8

声をあげれば、いつか、どこかで、きっと社会にコミットできる

[interview]温 又柔(小説家)

「日本の多くの人が知らないままでいるだろう物語を私が小説として綴ることで、社会に自分もコミットできるのではないか。小説を書き始めた出発点には、そんな思いがありました」と話す小説家の温 又柔(おんゆうじゅう)さん。台湾人の両親とともに、3歳のときに日本に移り住んだ温さんは、声をあげることは自分のためになるだけでなく、時間はかかるかもしれないけれど、社会に貢献することにつながるのではないかと感じていると話す。

自分が知りたいことをつないでくれているCALL4のサイト

今年5月、フォトジャーナリストの安田菜津紀さんのお声がけで、小説家の中島京子さん、星野智幸さんとともに入管法改正案に反対する記者会見に参加しました。3月上旬に名古屋出入国在留管理局でウィシュマ・サンダマリさんが亡くなると、支援団体や弁護人の方々が入管の閉鎖性について次々とSNSで声を上げました。タイムラインに流れてくる知人や友人たちのツイートを見て、この問題は絶対に闇のなかに封じ込めてはならないと思ったことを覚えています。

入管に関していえば、私にとっては在留資格をもらうために足を運ぶわりと身近な場所でしたが、自分の周囲ではそんなところには行ったことも、関わったこともない人が大半でした。でも私が〝日本に住む外国人にとっては避けて通れない場所なんだよね〟と話すことで、そうだったのか! と気づいてもらえる。それがきっかけで日本にいる外国人の問題に関心を持ってくれたりして。

CALL4さんのサイトを見ていると、私が知らないだけで、ある人たちにとっては非常に切実なこととしての法廷活動が粛々と行われていることが伝わってきます。実は私、公共訴訟ということばもよく知らなかったし、その名のもとで行われていることも、自分とは関係ないことのように思っていました。でもCALL4さんのサイトによって、関係ないどころか、自分の生活の延長上に公共訴訟はあるのだと実感しました。

サイトに掲載されている訴訟ケースのなかでは、収容施設内で暴行を受けたクルド人のデニズさんのことがやはり気になりました。同性婚に関する訴訟にも関心があります。同性が恋愛や結婚の対象という人にとって、今の社会制度は明らかに不備があります。誰かを好きになって共に暮らすことは、私のようなシスジェンダーの異性愛者にとっての「特権」ではないはずです。でも、現状はそうではない。

外国人たちの絶望、死と隣り合わせの現実
クルド人のデニズさんと入管施設の収容をめぐるストーリー

こうしたことを一部の人の問題としてでなく、人間の物語として分かち合うことができれば、今の社会のどこが、どうおかしいのか、多くの人が気づくチャンスになるでしょう。その意味で、原告のバックグラウンドにスポットを当てているストーリーは重要ですよね。

裁判、法廷というと、私も含めて多くの人にとっては、新聞記事などで簡潔に示された情報以上のものを想像するのは難しい。ニュースとして読んだらおしまい、という感じ。でも、ストーリーでは、「原告」と括られがちな彼ら一人ひとりがとても身近に思える。こういうプラットフォームの存在は、私たちの想像力のためにも非常に頼もしいなと思います。

明らかな法の不備を正すため、市民と司法をつなぐ公共訴訟

今の日本では、宗教や政治的な理由から国の迫害を逃れ、難民として日本にやってきた人たちに、在留資格が認められません。それだけでなく、日本で教育を受け、育った彼らの子どもたちも、こうした親の境遇のために、生まれたときから仮放免という立場に置かれ、いつ強制送還されるかわからない状況にいます。

私は小説家なので、せめて自分が書く文章のなかに、彼らがのびやかにいられる場所を確保したいと思います。日本は日本人だけの居場所ではないんだよって。でも私がそう書く以前に、この国にいられる資格を彼らがもっと容易に得られる法律がさっさとできたらいいのにともよく思うんです。だからこそCALL4さんをとおして、公共訴訟のことを知って、まさに、生身の人間のまっとうな居場所を確保するために国を相手にたたかっている方やその弁護士さん、団体がたくさんあると知って、なんてカッコいいのだろうと思いました。私にできることはあいかわらずすごく限られているけれど、でもこれからはCALL4さんをプラットフォームに、今、この瞬間も、原告のために公共訴訟を手がける弁護士の方の存在を近くに感じられる。リツイートをはじめ情報拡散もできるし、寄付などをとおして、彼らを支えることだってできるかもしれない。それが嬉しいんです。

公共訴訟を引き受ける弁護士さんは少ないそうですが、それはお金にならないからだとか。でも、弁護士さんに限らずどの分野でも、お金になることしかやらない人だけがどんどん儲かって何だか威張ってて、本当に変な世の中です。志や正義感だけでは生きてゆけないけれど、だからこそ、そういう人同士で少しずつ支え合えたらと思うんですよね。その意味で、CALL4さんのように市民と司法をつないでくださる団体が現れたこと、その役割はすごく大きいと思います。

考えてみれば私も、どうか私の声を聞いて、と願う一心で小説を書き始めました。はじめこそ、自分や自分の境遇を他の人たちにただ知って欲しくて書いていたのですが、作品が活字になったあとは、〝こういうことをもっと早く知りたかった〟〝温さんが書いてくれたから、そういう思いを抱えて生きている人がいるとわかってよかった〟といってくださる方が少しずつ増えていきました。時間はかかるけど、自分の声をことばにすることで、社会に何かしら貢献できるのではないかと、今はそう感じています。

その意味でも、声をあげるさまざまな人と、さまざまな声に耳を傾けたい人たちが、この社会をよりよくするために連帯できる場を与えてくれるCALL4というプラットフォームがあって、とても嬉しいです。

温 又柔さん近影(写真:朝岡英輔)
おんゆうじゅう●1980年台湾生まれ。両親とともに、3歳のときに東京に移り住む。2011年すばる文学賞で佳作になった「好去好来歌」を収録した『来福の家』でデビュー。『台湾生まれ、日本語育ち』で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞。著書に『魯肉飯のさえずり』(織田作之助賞受賞)、木村友祐さんとの往復書簡集『私とあなたのあいだ――いま、この国で生きるということ』などがある。
取材・⽂/塚田恭子
編集/丸山央里絵