2021.9.2

性風俗に対する国の曖昧な扱いを、公共訴訟を通じて判断してほしい

[interview]FU-KEN(原告)
[interview]私たちは声をあげる Vol.1 FU-KEN(原告)

性風俗関連特殊営業が、新型コロナウィルスに伴う事業支援の給付金対象から外されたこと、その根拠である規定が、憲法14条第1項「法の下の平等」に違反する命の選別、職業差別ではないかと、訴訟を起こしたデリヘル経営者のFU-KENさん。クラウドファンディングで800人近い人たちの支援を受けたFU-KENさんは、支援者の声を聞くことで、これは公共訴訟なのだと気づいていったという。

根拠を示さずに性風俗を救済の対象から外した国への憤りと疑問から“訴訟”を決意

はじめに訴訟を考えた時点では、これは個人的な裁判だと思っていました。一口に風俗業界といっても、裁判に反対の人、声をあげるのはどうかという人など、事業者によって考え方はさまざまです。でも、私は、国が困っている事業者を救済するための持続化給付金や家賃支援給付金を受けられないことに納得ができず、憤りや疑問がありました。自分がたたかいたいと思った以上、責任を持つのは自分だと思っていたんです。

それでも訴訟を起こすことについて、やはり最初は無茶苦茶ハードルがありました。おかしいとは思っているけれど、裁判にはお金もかかるし、声をあげることでどんな反応や嫌がらせがあるか、不安もありました。コロナ禍で厳しい状況下、もしお店が潰れてしまったら、従業員の人たちに申し訳ないし、潰れるような状況になるのであれば、裁判はやるべきじゃないだろう、と。

そもそも行政を訴えるとはどういうことなのかも知らなかったので、調べてゆくと、勝率がすごく低いこと、勝つのは厳しいことがわかってきて。だから絶対に訴訟を起こすぞ、というよりは、自分を納得させるために、とりあえず法律の話を聞いてみようという気持ちで、公共訴訟を手がけていそうな弁護士さんの事務所を探して相談に行きました。

皆さん、こちらの話をよく聞いてくれました。ただ、なかなかいえないものなのでしょうけれど、費用や勝てる可能性があるかなどをはっきり口にしてはもらえなくて。どうしようかと思っているときに、平 裕介先生のブログにヒットして、連絡をしてみると、他の弁護士さんよりも具体的な話をしてくださったんです。もし弁護を引き受ける気がなければ、こういうことまで話はしないだろうと思い、平先生にお願いしようと決めました。

個人的な裁判と思っていたので、最初はクラウドファンディングなどもまったく想定していなかったのですが、平先生からそういう選択肢もあるといわれて、その枠組みを使わせてもらうことにしました。

世の中の、この業種に対する見方を考えると、あまり支持されないのではと思っていたので、クラウドファンディングが始まって、こんなに興味や関心を持ってくれる人がいたことにびっくりしました。CALL4さんや弁護団の先生のおかげですが、これほど多くの人が寄付をしてくれるほど、国の対応はおかしいことで、変えるべきだと憤りを感じてくれていたのだと知って、これは個人の問題ではなく、公共訴訟なんだと気づいていった感じです。

▲クラファンには800人近いサポーターから寄付と応援の声が集まった

支援者、同業者、そしてクラファンの応援の声、すべてがすごい励ましだった

陳述書を提出するときから協力してくれていた支援団体の人たちの支えは大きかったし、クラウドファンディングの支援者の皆さんの声は、そのすべてがすごい励ましでした。自分も苦しいなか、こういうことにあまり声をあげない同業者が支援してくれたこともありがたかったし、逆に性風俗とまったく関わりのない方のことばを読んで、客観的に見ても、これはおかしなことなんだと励まされました。

SNSなどでも発信していますが、そこでの反応として見えるものには偏りがあるかもしれないので、CALL4さんの宣伝や報道などを通じて、興味を持ってくれる人の範囲が広がることは大事だと思っています。性風俗に対しては否定的な見方など、今もいろいろな声があるので、自分も揺れ動いているところはあります。応援してくれる人だけでなく、いろいろな意見を聞いて考え続けることは必要でしょう。

時間がかかるとわかった上で訴訟を起こしましたが、実際、応援してくれているラブホテルやストリップ劇場が厳しい状況にあり、潰れてしまった事業者もあるので、政治に働きかけて(給付の対象にしてもらえるよう)変えてもらうことができたら、もう少し救われる人もいたのではないか。コロナ禍が終息せず、苦しい状況が続くなかで、訴訟という選択が正しかったのかどうか、悩むこともあります。ただ、国がこの業界をずっと曖昧に扱ってきたことによる問題が、コロナによって明らかになったとも感じているので、ここでたたかわなかったら、たたかうタイミングはないかもしれないし、自分の性格的には司法のルールのなかで、きちんと判断してもらいたい気持ちがあります。

最初は外された雇用調整助成金が、その後、対象になり、でも、持続化給付金は認められないとか、そのときどき世間の声で曖昧に対応されるのは、やはり今後のことを考えると、よくないだろう、と。“司法は人権の最後の砦(とりで)”というのは本当にその通りで、社会に声をあげる手法はいろいろありますが、そのひとつである公共訴訟という手段は、今後もっと広がればよいと思います。

裁判を起こすことにはリスクもあるし、お金もかかるので、プラットフォームがあることはすごく大事なことです。CALL4さんの活動は素晴らしいと思うし、報酬が少なく、なり手が少ない訴訟を扱ってくれた弁護士さんには本当に感謝しています。個人的には、こうした公共訴訟を扱ってくれる弁護士さんに、もっと目を向けてほしいですね。

取材・⽂/塚田恭子(CALL4)
編集/丸山央里絵(CALL4)