「性を扱う仕事とは何か?訴訟をきっかけに考えたい」

2020.11.6

『セックスワークisワーク』をめぐる訴訟に至るまで(後編)

(前編:「性風俗産業は国に差別されてもしょうがない?」

「この訴訟を通じて、性を扱う仕事について自分自身もあらためて考えたいと思っている」、原告は言った。

原告は、無店舗型ファッションヘルスとして風営法上の届出をしている事業者だ。

性風俗関連特殊営業が、新型コロナウイルス の下での給付金(持続化給付金・家賃支援給付金)の対象から外されたこと(とその根拠である規程)が、「法の下の平等」(憲法14条1項)に違反するとして国を訴えている。

「私は経営をしながら、『お店のキャストの安全を守れているか』と、いつも考えています」

「やっぱり特殊な部分はある仕事で、店に在籍せずに一人だけで営業をすると危険なことも多いです。店が性的なサービスを提供する『キャスト』たちを守っている面がある。でも、コロナの影響で、お店が何十件と閉店している。それによって、風俗の仕事をしようとしてもできなくなったキャストもいる」

給付金の対象にはキャスト個人は含まれている。しかし原告のような事業者やラブホテルなどは対象外となっている。

性風俗業界が国の給付金から外されたという問題は、「法の下の平等」に違反すると同時に、憲法上の「職業選択の自由」(22条1項)にも深くかかわる。職業選択の自由は、「職業を選択する自由」のみならず、「営業の自由」や「職業活動の自由」も含むからだ。

提訴を目前にした日、弁護団会議では今後の方向性についての議論がされていた。

支援団体SWASHのげいまきまきさん

「私たちは性的サービスを売っている」

性風俗業界では30万人が働いていると言われる。業種も多ければ働く人も多様で、「風俗嬢」と呼ばれる女性だけではなく、男性もトランスジェンダーもいる。業界に入った理由もさまざまだ。

「性風俗業界の仕事を選ぶ理由のナンバーワンはお金なのですか?」、性を扱う仕事への「よくある質問」を整理する中で、弁護団の亀石弁護士が問うと、「選ぶ理由がお金という人が多いのは確かにそうですね」と原告は答える。

「でも続けている理由は人それぞれです。現役のキャストに聞いても、続けている理由として、『やりがいがあるから』とか『自分に向いているから』とか、『仕事のやり方がフレキシブルで働きやすいし、自由な時間を多く持てるから』という人も、結構いる。それってお金が必要という理由とも両立するんですよね」

「でも、お客さんとすごく近くで接する仕事ですから、向き不向きが大きい仕事だとは思います」

「性風俗業界の仕事は、始めた理由や辞めた理由ばかりが注目されるけど、続けた理由というものもある」と、支援団体SWASHのりりぃさんはキャスト時代の経験を話す。

「私は最初、ただニューハーフとして働ける場所を探して性風俗業界に入った。でも、働き始めると、同僚に悩みを相談できてホッとしたり、お客さんがサービスに満足してくれて嬉しくなったりして、それらが続ける理由になりました」

「あと、当時は自分がセックスワーカーであることを明かすと、説教されることもありました」と、りりぃさんは言う。「『身体を売るのはよくない』とか、『そんな仕事はやめなさい』とか」

「だけど、私たちセックスワーカーは、身も心も売っていない。私たちは、性的サービスを売っているんです」

セックスワークisワーク

「セックスワーク」という言葉は1980年代にアメリカで提唱された。

性的なサービスを提供して対価を得ることは「仕事」であるという「セックスワークisワーク」の運動も同時に1980年代に世界に広がり、各地で当事者団体やそれらをつなぐ国際団体ができた。日本でも1995年に当事者団体が作られた。

「労務を提供し、報酬を受け取る」。その構造はほかの労働と変わらないはずなのに、提供する「労務」が「性に関わる労務」になると、たとえそれが法に則っていても、正面から「仕事」として扱われず、労働者としての権利もあいまいになっているのではないか?―「セックスワークisワーク」運動はこうした問題提起でもある。

「2020年、性風俗業界が国の持続化給付金から外された」という事実はまさに、「セックスワークisワーク」運動が四半世紀にわたって対峙してきた事実だ。

「日本ではセックスワークという言葉や理念がまだまだ浸透していないように感じます。実際、キャスト自身も、業界内の人でも、ピンと来ていない人も多いかもしれないです」原告は言う。

「その人の意思で選んでやっているかどうかが重要だと私は思っていますが、もやもやしながら仕事している人だっていると思う。辞めたいけれどお金がなくてどうしようもないから助けてほしいと思っている人もいるかもしれない。前向きな気持ちで仕事しているというのはすべての人には当てはまらないかもしれない。」

「でも、今の仕事や生活に満足している人や、プライドを持って仕事をする人、他の仕事よりも風俗のほうが良いという人なども多くいます。すべてのキャストたちをひとくくりに『救済が必要な人』だと決めつけてはいけないと思うんです」

性風俗業界は、貧困や暴力とつなげられたり、「消費されるモノ」なのではという指摘を受けたりすることもある。

しかし業界の中でも、「自分の意思に基づいて仕事として選ぶ」「続ける」人は多い。

今回、給付金を受けていれば持ちこたえられたかもしれない店で、働けなくなったワーカーは、何人いるのだろうか。

憲法上、私たちは、「職業の選択」つまり「職業の開始、継続、廃止」について自由であるだけでなく、「選択した職業の遂行自体」つまり「職業活動の内容、態様」についても自由であるとされている、はずなのである。

東京レインボーパレードにて。赤い傘はセックスワーカーの権利を示す国際的なアイコン

性風俗の仕事の特殊性を理解した上で

「風俗の仕事にもいろいろな側面があります」と原告。

「まず仕事のやり方という意味では、風俗の仕事は出勤が自由な仕事。週7日働いても、月に1日でも、1日2時間でもいいし、当日欠勤も多い。それでも平均でだいたい3万円くらい稼げるという仕事は他にはあまりないと思います」

「一方で、キャストが危険にさらされる部分が昼の仕事より大きいというのはある。お客さんに傷つけられる危険、たとえば乱暴なプレイをされたり、強姦をされたりという危険がある。」

「ほかにも、性病にかかったり、盗撮されたりという被害に遭う可能性もあるし、身バレやネットの書き込みなどで困る可能性もある。そういったことによって傷付いてしまった人はいると思います」

「だからこそ、働く人にとっての安全を考えないといけない仕事でもあります。私はやっぱりこうしたことが起こりにくいように対策をするのが店の役割だと思います。いかにリスクを減らせるかを考えてやっていくしかないとは思います」

リスクを減らし、キャストを守ることに店舗が果たす役割は大きいと原告は言う。

「乱暴なプレイや強姦を避けるための対策としては、危険があればスタッフが駆けつけることは当然として、顧客情報の管理に気を遣い、丁寧な応対を通じて店の質を低く見られないように注意しています。危険を避けられるプレイスタイルをキャストと一緒に考えたり、警備会社のポータブル警報器を携帯してもらったりすることもあります」

原告の店では、危険な状況が起きた場合に備え、トラブル時の対処法を弁護士に相談してスタッフと共有しているという。

「身バレ対策やストーカー対策としては情報管理を徹底し、ネットの書き込みにも店から削除依頼を出すなど協力している。また、性病対策としても、キャストの性病検査を義務化し、その金銭的な負担が少なくなるような工夫をしている。婦人科の医師と連携して相談に乗ってもらうこともあります」

「お店の役割は、キャストの集客や、働きやすいようにフォローをすることなど、多くあります。でもその中でも、キャストが安全に働けるようにすることが何よりも重要だと私は考えています」

「心身の安全と健康を保ちながら経済的な対価を得たい」、それは、どの仕事をするワーカーでも考えることだ。「働く限りは安全に働き、やめるときも安全にやめる」ことも同様だ。

セックスワークが「仕事」として社会から認められることで、事業者側も働く側も、より「仕事」の安全確保を考えるようになったり、職場での事故を労災の枠組みで考えられるようになったりすることはないだろうか。

訴訟に向けた弁護団会議の様子

労働としての普遍性

「仕事って、いやになるときも、やったーってなるときもあるじゃないですか」自身もキャストとして働いた経験がある支援団体SWASHのげいまきまきさんが言う。

「それってどの職業でもそうなんじゃないかなって思う」

私たちは、自分が経験したことのない業界の仕事を、いったいどれほど知っているのだろう。ステレオタイプというものはきっとどの職業にもある。仕事をして実際に感じることや悩みは、自分の仕事以外は直接は経験できない。だからすぐにイメージで語られる。

性風俗業界に対するステレオタイプやイメージは、中でも大きい。それは、「性」がそれぞれの道徳観と密接に結びついていて、「性を扱うこと」「性を仕事として扱うこと」の感覚が人によってかなり異なるからだ。

「セックスワークは、お客さんからの人気がお金にも反映される仕事。サービスの内容にも、各々のワーカーの体力面や、性についての線引き・価値観といった、いろいろな要素が合わさって組み立てられていく。ワーカーごとの違いが反映された仕事だと思う」と、げいまきまきさんは語る。

弁護団は原告や支援団体にたくさんの質問をしていた。調べてから来るという前提はあるが、たくさん知ること、知ろうと思うことは大事だと思った。そしてそこでは、お互いの仕事をリスペクトを持って話すことがなにより重要だった。

「あの、『家庭での性的な行為は良くて、サービスとしての性的な行為はダメ』という価値観は、なぜあるのでしょうか?」インターンの学生が聞いていた。「同じ人が家でご飯を作るのと飲食店のスタッフとしてご飯を作るのは両立しますよね?性に関わる仕事だとNGという感覚があるのはなぜなのでしょうか?」

「それはやっぱり、『性的な行為は固定的な関係性の中で行われるべき』という『慣習的な価値観』が根強いからだと思います」げいまきまきさんが答えた。

「愛情や親愛についても、男女や家庭、一対一の安定的な関係性を築くことへの価値観が『好ましい』とされるし、それがまるで『正しい』価値観のように扱われている。そうした視点からは、性的な行為をサービスとしてやり取りすることは不安な驚きになるのかもしれません。

でも、そうした驚きの感情と、セックスワークを仕事として考え、安全な働き方を考えることは、別だし、別に考えてほしいなと思います」

道徳と「社会通念」

道徳観は作られる。どこまでが当たり前で、どこから不道徳か、なんて、本当のところは明確には分からない。

その時代時代に応じて、「正しいということが確からしいこと」が何かしら、流動的ながら、存在している。それを疑う人もいるし、疑わない人もいる。

でも、いま自分が身にまとっているその「道徳観」が知らず知らずのうちに、誰かを傷つけているという可能性―ひとつの既に存在する業界を「知らないもの」として自らの世界と別の場所に置き、「ちゃんとした仕事じゃないから」支援の枠外でも良いとしているという可能性―については、どうだろうか。

「道徳観と法律って、別の問題だと思っていたんですよね」原告が、提訴を決意したときのことを振り返る。

「でも、別の裁判の話なんですけど、この6月に名古屋の裁判で、『同性パートナーは事実婚と認められない』『だから犯罪被害者給付金を受け取れない』という判決が出ましたよね。あの判決の中で、同性カップルが事実婚にあたるか否かは『社会通念によって判断される』という言葉が使われていたのを見て」

「裁判の判決って、法律とか、もっとかたいもので判断されると思っていたのですが、そのときに、『社会通念』というものも判断に関係あるのかって、改めて不思議に思いました。社会通念とは何だろうかとも思いました。社会通念は道徳観から作られることもあるだろうし、その関係性も気になりました」

「社会通念が何なのか、私にはまだハッキリ分かりません。でも、この訴訟を通じてセックスワークとほかの仕事との『差別的取り扱い』が憲法違反と認められることで、『性を扱う仕事』も『社会通念』上、正面から『仕事』と認められるかもしれない。そうしたら、『仕事として』そこで働くキャストの安全にも目がいくようになるんじゃないかと思うんです」と原告。

「訴訟が、セックスワークやそれに関連する法律とは何かって考えるきっかけのひとつになれるかもしれない」

弁護団の井桁大介弁護士(左)と亀石倫子弁護士(右)

「性はこうあるべき」を裁判所はどう扱うか

「訴訟を通じて、今回明らかになった問題を広く知ってほしいと思っている。でもそれに、怖さもある。反対意見もあるのは分かっている。性風俗そのものに批判的な人もいるし、給付金なんて受けるべきじゃないという人もいるでしょう」

「それに、同業者には、給付金の問題で声を上げるより、自分の店の売上を確保したほうがいいのではとも言われて、それは確かにと思いました。潰れたら元も子もないですから」

「でも、それでも訴訟をやろうと思った、業界全体の話として問題提起することにした。それは、コロナの影響が大きいです。コロナがやってきてから、世の中のいろいろなことが明らかになってきて、自分自身のことや自分のいる業界のことも見えてきた。世の中を変えていこうという声が様々な業界で出てきているのを見て、この動きは私たちの職業でも当てはまるかもな、と思った」

「だから、今コロナで社会が動いているときにこそ、問題提起をしたいと思ったんです。業界全体のことになる責任は感じています」

原告はきっぱりと言う。ここに至るまでに原告自身の中でもたくさんの葛藤があり、不安があり、それでも立ち上がって、今も考え続けている原告が、まぶしく見える。

この訴訟では「国の不給付が差別にあたるか」が争われるが、同時に、性風俗業界の中での「職業選択の自由・職業活動の自由」を国がどう考えるかも問われている。

「性を扱う仕事って、いろいろな側面があると思っています」と原告は言う。

「それに、性に対する価値観や、性を扱う仕事に対する考え方って、人によってほんとに違う。違うから寛容になった方がいいだろうと思いますし、『こうあるべき』となると差別につながるんだと思います」

「では、『こうあるべき』という道徳観を、裁判所はどう扱うのだろうか。それを、訴訟を通じてこれから注視して行きたいと思います」


取材・文/原口侑子(Yuko Haraguchi)
撮影/安木崇(Takashi Yasuki)
編集/杜多真衣(Mai Toda)

(前編:「性風俗産業は国に差別されてもしょうがない?」