2021.9.21

公共訴訟には、社会を変える力がある

三宅千晶(弁護士)

〝弁護士になったからには基地問題に取り組みたい〟と、広島から沖縄に移り住み、「日の丸焼き捨て」裁判(*1)や「象のオリ」訴訟(*2)など、米軍基地問題に取り組んできた――そんな父親の姿を見て育った三宅千晶さん。

「父に連れられて〝人間の鎖〟となって基地を囲んだのは5歳のときで、高校時代には、辺野古(への基地移設反対)で座り込みをしました。広島と沖縄、それぞれの祖父母から体験を聞くなど、小さい頃から戦争についての英才教育を受けていたと思います」。

自身も厚木基地航空機騒音訴訟の弁護団をはじめ、多くの公共訴訟にかかわる三宅さんは基地問題を例に挙げ、「公共訴訟には、それを通じて社会に対して問題提起をするという意義があります。公共訴訟それ自体が、社会を変える力を持っていると、そう思っています」と話す。

(*1)1987年開催の海邦国体期間中、読谷村で開催されたソフトボール競技の開始式で、掲揚台の日の丸が引きずり下ろされ、燃やされた事件。
(*2)沖縄県の米軍基地や楚辺通信所(通称・象のオリ)の土地をめぐり、国が事実上無期限に強制使用できることを定めた改正駐留軍用地特別措置法(改正特措法)が違憲かどうかなどが争われた訴訟。最高裁は同法を合憲と判断し、地主側の上告を棄却する判決をし、国に損害賠償などを求めていた地主側の敗訴が確定した。

社会の理不尽に石を投げ続ける。それが弁護士の仕事

自分がおかしいと思うこと、社会で起きている不合理や不誠実を変えていくことができれば、と、弁護士を目指しました。自分が住みたいと思う社会を守るため、何か役に立つことができればというのが、弁護士としてのスタンスです。

今、厚木基地の航空機騒音訴訟の弁護団をしています。日本弁護士連合会(日弁連)の人権擁護委員会の基地部会のメンバーとして、イタリア、ドイツに基地に足を運び、市民がどう声をあげ、行政がその声をどうキャッチしているか。現地では、日本とヨーロッパにおける米軍基地の違いを視察しました。

騒音訴訟はなかなか騒音の差し止めが認められませんが、被害を受けている人は確実にいます。たとえ差し止められなくても、こうした社会問題に石を投げ続けるのが弁護士の仕事です。先人が倒れても、その人に続いて誰かが石を投げ続ければ、自分の代では叶わなくても、状況が変わる可能性はゼロではありません。

国や自治体が相手なので、たしかに勝つことは厳しいのですが、たとえ負けても続けることに意味があるので、負けたからといって気落ちすることはないですね。

よくいわれるように、公共訴訟は時間がかかります。訴訟相手の国にはマンパワーがあるし、資料を収集するにしてもお金を充分投資することができます。いっぽう弁護団にはお金がないので、資料もコツコツ集め、人に話を聞きに行くなど、時間をかけて地道にやらなければなりません。

ただ、公共訴訟の案件はまさに自分がやりたいことなので、問題をより広く知ってもらうために、時間をかけていろいろなかたちで発信しつつ、訴訟は訴訟で続けていきたいと思っています。

公共訴訟のプラットフォームは本当に必要なもの

CALL4については立ち上げ前に、代表の谷口さんと副代表の井桁さんから話を聞いていたのですが、公共訴訟のプラットフォームは絶対に必要なものだと強く賛同しました。

私としては、優秀な人にこそ公共訴訟を担当してもらいたいのですが、一緒にやりましょうと誘いたくても、手弁当でやっている状況では、なかなか声をかけられません。公共訴訟の担い手になる弁護士を増やすためにも、クラウドファンディングによる資金集めは大切なことです。

すでに担当している複数の公共訴訟でCALL4を利用させてもらっていますが、クラウドファンディングは資金面だけでなく、社会の問題に、あらためて目を向けてもらう機会にもなっています。

たとえば「セックスワークにも給付金を」訴訟では、性風俗業に給付金を出さないことについて、国は〝性風俗業は不健全だと感じている、国民の理解や意見を代弁している〟というような主張をしました。でも、私たちは何も聞かれていないのに、国が私たちの思考を勝手に、しかも堂々と代弁するのはすごく危険なことです。訴訟を起こしたことで国の危ういやりようを、広く気づいてもらうきっかけになりました。

「セックスワークにも給付金を」訴訟弁護団。左から、井桁弁護士・亀石弁護士・三宅弁護士

もうひとつ「琉球人のご先祖の遺骨返還を」訴訟は、研究目的で京都大学に盗掘された遺骨の返還を、遺族が求めている訴訟です。今、遺骨は沖縄県教育庁の手元にありますが、長らく差別を受け、遺骨を崇拝するという文化的アイデンティティを共有する県が、なぜ返還に応じないのか。沖縄出身者として憤りを覚えています。
盗掘の背景には、優生学的な思想に基づく琉球民族への差別意識があったことを、多くの人に気づいてもらえれば、と思っています。

「琉球人のご先祖の遺骨返還を」訴訟の原告団の皆さん

寄付、コメント、拡散。それぞれのかたちで応援

公共訴訟の場合、原告の存在もすごく大事です。クラウドファンディングで寄付を募るときも、原告に共感できなければ、なかなか応援はできません。「セックスワークにも給付金を」訴訟のFU-KENさんは、キャストやお店で働く人のことをすごく考えていて、話していても誠実さが伝わってくる方で、弁護団としても、この人のために頑張ろうと、そう思えるんです。

弁護人は、あくまで代理人として原告の声や意見を法廷に伝えていますが、彼女が原告として立ち上がってくれたことは、社会を変える上ですごく意義があると、私だけでなく弁護団のみんなもそう言っています。

何かがおかしいと思っても、日々の雑事のなかで気になったこともスルーしてしまいがちですが、プラットフォームがあることで、寄付、コメント、SNSでの拡散など、それぞれに合うかたちで応援することが可能になります。

CALL4は、原告がなぜこの訴訟を起こしたのか、その背景を写真とともに発信してくださるのが嬉しいですね。原告もサイトをつくり、ブログで発信していますが、プロではないので、なかなか広く関心を引くものをつくるのは難しいけれど、CALL4のサイトは読み物としてもおもしろいし、デザインもいいので、これは本当にありがたいと思っています。

私のメンターである福田健治弁護士も公共訴訟を多く手掛けていますが、同期や、もう少し広く周囲に目を向けると、公共訴訟は1件も担当していないという人のほうが圧倒的に多くて。少し前まで、公共訴訟は少し色のついた訴訟と見られていたような気もします。

公共訴訟が社会に広く浸透していくのはこれからだと思いますが、CALL4があることで、ひとつの課題について、立場や考え方の違う人が、連帯して声をあげる、応援することができるという状況が、今後できていくのではないでしょうか。

三宅千晶さん近影
みやけ ちあき●1989年沖縄生まれ。早稲田大学法務研究科を修了後、2017年弁護士登録。早稲田リーガルコモンズ法律事務所に所属。基地問題に取り組むために沖縄に移った父親の影響で、弁護士を目指す。基地問題をはじめ、多くの公共訴訟を担っている。
取材・⽂/塚田恭子(CALL4)
編集/丸山央里絵(CALL4)