2021.9.22

<インターン生企画>政治から「声をあげる」を考える

[interview] 五十嵐えり(東京都議)

「声をあげる」。この言葉はすこしどきっとする。

同じ社会に生きているはずなのに、現実にある理不尽をテレビの向こう側のニュースとして、ただ消費していることの罪悪感。無視をすることもできるが、自分の生活に紛れ込み、制約を課してくる理不尽の欠片。これらがもやもやと纏わりつく。

そんな現状を変えるために「声をあげる」という人がいる。確かに、声をあげれば変わるのかもしれない。でもその期待とは別に、声をあげることがどう見られるのか、本当に変えることはできるのか、などとぐるぐる考えてしまう。そしてただ、「声をあげる」という言葉に揺さぶられる。

私たちは、CALL4の取り組みにインターン生として参加する学生である。そして私たちは、「声をあげる」ことの難しさに悩む若者である。

本当に声をあげられるのだろうか。声をあげるとしても、どのように声をあげるのか。そして今の社会であげられた声は、本当に社会を変えることにつながるのだろうか。

こうした問題意識のもと、「声をあげる」こと、そしてCALL4が支援する司法の場で提起された「声」の持つ力について、実際に社会の仕組みを構築していく政治家へのインタビューを通して考えてみたいと思った。

今回インタビューに応じてくださったのは、令和3年7月4日投開票の東京都議会議員選挙(武蔵野市選挙区)で初当選された、五十嵐えり議員である。弁護士資格を持ち、政治・司法の双方の場で立場の弱い人々の救済に取り組まれた経験を持つ五十嵐さんにお話を伺った。

五十嵐えり議員

政治家を目指したきっかけ

・なぜ政治家を目指されるようになったのですか。

「自分自身、中学生の時に不登校になって、高校に行くのをやめてフリーターになって、スーパーのレジ打ち、牛乳配達、4tトラックの運転手もやりました。大学に行けない子達も周りにいっぱいいて、シングルマザーの場合、キャバクラなどの夜の店に行かないとやっていけないことに違和感がありました。」

「どういう家庭に生まれたかで大学に行くという選択肢の有無が左右されてしまうし、自分の権利や生活保護でさえ知らない人もいる。自分は、両親が大学へ進学するということについて理解があり、高卒認定資格をとって大学に行くという選択肢が与えられた。選択肢を与えられた身として、勉強して弁護士になって、社会的に苦しい人たちの権利や自由を守る仕事をしようと思いました。」

「弁護士って、裁判に何年もかかるじゃないですか。一つ一つの事件を解決しても、果たして今社会で困っている人の暮らしはよくなるのかなと、勉強していくうちに疑問に思うようになりました。立法の側から政策を変えることでより多くの人のためになれたらと思って、政治の道を志しました。公益に携わる官僚もいいかなと思いましたが、年齢的に試験を受けることができませんでした。」

・司法試験に合格された直後から政策担当秘書を経験されています。その経験も政治家になるきっかけになったのでしょうか。

「それまでは政治にあまり知識も関心もありませんでしたが、ロースクールの掲示板にあった『政策担当秘書募集』のお知らせをたまたま見つけたことが転機となりました。」

「司法修習修了して4年間、政策担当秘書の仕事をしました。政策が価値判断のぶつかり合いの結果できていることを知るいい経験になりました。たとえば、在任時にいじめ防止対策推進法の改正の議論で、いじめを放置した公務員に懲罰を科すかどうかが争点になったことがありました。いじめ被害者は教員を厳罰に処してほしいと求める一方、教員のほうは教員の業務量が膨大で厳罰化すればますます教員志望者が減ってしまうので、先に教員の数を増やして欲しいと求めます。」

「結局、改正には至りませんでしたが、政策の一つ一つが立法者による価値判断の結果出来ていることを体感しました。と同時に、特定の人たちに政策意思決定を委ねることが恐怖にも感じました。そこで、私が、普通に暮らす当事者としての声を代弁しなければと思い、今回決意しました。」

政治家になって

・今年7月の都議選で初当選されました。五十嵐さんは立憲民主党に所属されていますが、野党の政治家として感じる政治の課題点はありますか。

「政策担当秘書時代にも野党の議員についていたのですが、多数決原理のもとで数で押し切られる限界を感じていました。国会で十分な議論や説明もなく与党に数で押し切られてしまうと、野党はどうしようもない。一方、野党のほうも数では対抗できないので、いかに法案の穴を探すかといったような細かい批判ばかりになってしまい、建設的でわかりやすい議論を国民に届けることができていなかったように思います。」

「今回、政治から社会を変えたいという気持ちで政界に飛び込みました。まだ政治家になったばかりですが、最近だと、東京都の臨時会では補正予算が審議されました。立憲民主党は、若者へのワクチン接種を促進するための広告費は必要ないのではないかという修正動議をかけましたが、具体的な説明が十分されないままに数で否決されました。それにもかかわらず、修正動議に反対した多数派の政党議員が、SNS上で後にその広告費について疑念を述べており、政党の中でも議論が十分にされていない気がします。」

「民主主義においては、議論を重ねていく過程が大事です。賛否が分かれる議論はありますが、その賛否を決めるのが政治家で、政治家を選んでいるのは国民です。賛否を決める際は、理由を含めた説明をすることが重要です。議会中の説明は、記録に残り、後に検証をすることも可能です。しかし、特にコロナ禍では、議論の時間や判断の理由の説明が省略される状態になってしまっているように思います。」

・政治家として、議論の前提となる「声」をどのように拾っていますか。

「基本的には、地元を回って有権者の話を聞いたり、さまざまな団体からの要望に目を通すことで『声』を拾っています。一方で、マイノリティとして『声』をあげづらい人もいると思いますが、あげられない『声』を拾い上げ、社会問題として扱うことは本当に難しく、課題です。結局は、当事者の声を聞いていくしかありません。」

「司法の場でも、裁判になることで問題が顕在化することもありますが、大前提として、当事者が訴訟をすると決める勇気がなければ裁判になりませんよね。」

「私がいる政治の場でも、CALL4が支援している訴訟の場でも、有権者や当事者の声を聴いて、その意見を反映させていくことが、社会をよくしていくためには大事だと思います。」

・弁護士出身の政治家として、大事にしていることはありますか。

「法律を学ぶことで人権感覚を磨いてきたことは私の強みだと思っています。もちろん、地元の有権者の声をしっかりと聞き、法律の勉強をしていなくても人権感覚と似た感覚を持っている議員の方もいます。」

「しかし、ロースクールで学んできた人権感覚は、たとえ政治の場であったとしても、法を専門的に学んでいない人にとっては必ずしも当たり前のものではないと知りました。」

「その上で、政治家として大事なのは、理念や思想だと思います。大きな政府がいいか、それとも小さな政府がいいのか。自己責任なのか、リスクを社会で共有するのか、思想をしっかり持つべきです。」

共感を呼ぶ秘訣

・CALL4はキャッチコピーで「共感が社会を変える」と謳っています。選挙活動でも、いかに共感を得るかが鍵となると思いますが、共感を呼ぶ秘訣はありますか。

「当事者性がダイレクトに伝わることは、共感を呼ぶことにつながると思います。」

「私は、今までは言いたくない自分の過去を隠していましたが、今回出馬するときは、これまでの自分を開示するようにしました。初め、自分のチラシに載っている経歴を見た時は嫌でした。自分の弱さだから出したくはないけど、共感してもらうには必要だと思い、割り切りました。
すると、『自分も不登校だった』とか、おじさんから『俺も10tトラック乗ってたんだよ!』と声をかけてもらえることがありました。私自身が当事者だったことが、共感を呼んだのだと思います。自分がどんな立場で、何を見ているのかをきちんと示すことが、共感の秘訣だと思います。」

「司法の場には確実に、権利を侵害されたと訴える「当事者」がいます。これは共感という観点からは、非常に大きい。政治の議論は、多数決による価値判断を挟むこともあり、時に抽象的になりがちです。しかし、法廷には確実に誰かが存在している。当事者の声がダイレクトに存在し、裁判官が法と良心に従って判断する。自分が「当事者だ」と声を上げて裁判を起こすことは、ものすごく勇気がいることですが、これこそが司法の重さだと思っています。」

「議員は訴訟の動向をとても気にしています。例えば同性婚訴訟について、札幌地裁で同性婚を認めないことに違憲判決が出ましたよね。判決によって政治がすべきことが見えてくると思います。」

※写真撮影時のみマスクを外しています

五十嵐さんのお話の中で、「できれば自分の弱い部分である過去を開示したくなかった」という言葉が印象的だった。誰でも自身の弱く、柔らかいコアの部分を開示し、声をあげるということはとても勇気のいることであるが、政治家にとっても同じなのだということを改めて感じた。もちろんこれは、公共訴訟の当事者も変わらないだろう。

五十嵐さんは、その「声をあげる」ことの葛藤を、政治家になり社会を変えるのだ、という志により乗り越えており、その力強さがとても眩しい。

一方で、これから声をあげたい方へのメッセージを伺うと、「無理にあげる必要はなく、自分が声をあげやすいところであげていくことが大事」とおっしゃっており、声をあげることの難しさと向き合ってきた当事者の言葉として、重みがある。

誰かが声をあげなければ、政治にも司法にも届かない。そして、政治の場でも司法の場でも当事者が「声をあげる」ことは、共感を呼び、社会を変えることにつながる。しかし、その難しさゆえに、勇気を出すことを属人的な力に任せていてはいけないだろう。

だからこそ、声をあげる場を整えてハードルを低くすることや、声をあげた人たちを支援することが大事である。五十嵐さんは政治の場で「声」が尊重されて真剣に議論されるよう活動し、CALL4は公共訴訟の認知を広め、ストーリーを共有し、また匿名での寄付を可能にすることで、「声をあげる」ことやその支援を身近にすることに、司法の場から取り組んでいる。

誰かが声をあげれば、「声をあげてもいいのだ、あげられるのだ」という他の誰かにとっての気づきとなり、新たに声をあげる人へ勇気を与える。だんだんと「声をあげる」ことの輪が共感とともに広がっていく。きっとそのようにして、社会は変わっていくのだと感じた。

五十嵐えり●東京都議会議員。弁護士。1984年、名古屋市生まれ。中学校の時に不登校になり、高校には通わずフリーターとして働く。高卒認定資格を取得後、24歳で静岡大学夜間主コースに入学し、昼間は仕事をしながら夜は授業を受ける。その後、名古屋大学法科大学院に入学し、30歳で司法試験に合格。2015年より4年間、参議院議員事務所にて政策担当秘書として働く。2020年、弁護士登録(第二東京弁護士会)。2021年、東京都議会選挙(武蔵野市選挙区)にて初当選。
取材・文/石井未来、佐藤利咲、平野萌子、前田知哉、向井佑里、山田遼(CALL4・2021年夏期インターン生)
編集/丸山央里絵(CALL4)