2021.5.10

「知っている」と「考える」のあいだで

CALL4インターン記

はじめに

はじめまして。CALL4インターン生の紺田と申します。2021年3月の一ヶ月間、CALL4の春季インターン生として活動。一ヶ月の間に、「人間を育てる教員に、人間らしい働き方を」訴訟の傍聴、CALL4インターン主催イベントの立案・運営などを行いました。

今回はインターン中に感じたことや自身の変化について書きたいと思います。
ここで書くことは、普通の大学生の意識が少しだけ変化した小さい話ですが、自分にとっては大きな変化だったので、「インターン記を書かせてください!」とお願いをしました。

インターンに参加したきっかけ

法学部3年生の春休み。11月に大学院入試を控えるものの少し先で、勉強以外に何かできることを探していました。そんなある日、Twitterを眺めていると、CALL4のインターンの募集が。CALL4については、所属するゼミの活動を通じて、公共訴訟を広げていくための活動をしている非営利団体であることを知っている状態でした。

「なんで変わらないんだろう?」と疑問に感じている社会問題を、司法の力で変えていこうとする組織の中に、自分も入ってみたい。その思いで説明会に参加しました。

もともと法学部を選んだのは、新聞などで知る社会問題に対して疑問を抱く中で「社会の仕組みを知りたい」と感じたことがきっかけでした。しかし、普段の学生生活を送る中で、社会問題に対しての意識が入学当初からゆっくりと薄れつつありました。CALL4のインターン募集を見た時、原点に立ち返ってみようと感じたのです。

▲インターン最終日の報告会の様子。2021年春季インターン生は4名

初めての裁判傍聴

「人間を育てる教員に、人間らしい働き方を」訴訟は、定年退職間近の小学校教員が時間外労働に対する残業代の支払いを求めて埼玉県に起こした訴訟です。インターン初日に「今週の金曜日にCALL4が扱う訴訟の弁論があるから、行ってきたら?」と言われ、急遽、京都から埼玉へ。
この4月から小学校の教員として働く先輩が、春からの新生活に期待を抱きながらも、「教師って残業がやばいから…」と話していたため、身近な問題に感じてはいました。

当日は、さいたま地方裁判所でCALL4の谷口さんや丸山さん、同じインターン生の飯田さんたちと合流して、傍聴に臨みました。

▲さいたま地方裁判所(撮影:神宮巨樹)

法学部に所属しながらも、実際に裁判を傍聴するのは初めてでした。意外とすんなり法廷に入れること、裁判官の入廷に合わせて起立すること、傍聴席の大半を原告の支援者が埋めていることに驚きながら、尋問の様子を必死にメモに取りました。

「もう、裁判しかないと思いました」「次の世代にこの問題を持ち越してはいけない」と、この裁判に至った思いから始まった原告の尋問。原告の田中まさおさんは、40年近い教員生活の中で抱いた子どもたちへの愛情と、働き方への疑問との葛藤を率直に話し、最後には、「この訴訟に日本の教員の運命がかかっていることを理解してほしい」と裁判官に呼びかけました。

田中さんが尋問に向かう前、原告席に座る田中さんの手にある紙が少しだけ見え、その紙には赤ペンの書き込みが大量に。綿密な準備の一端を垣間見るとともに、この尋問に向けた気持ちの強さに胸が熱くなりました。

そんな田中さんの話を頷きながら聞き、柔らかく語りかけるように質問する裁判官。原告側の主張を正確に理解したいという意図が感じられる質問が続き、その姿勢は「こんなに身を乗り出して話を聞くのか」と驚くほどに前のめりでした。

▲原告の持っていた意見書(撮影:神宮巨樹)

新たな関係性の生まれる場

裁判が終わり、傍聴席からは口々に「いけるんじゃないか」という声が。その時、弁護士でもある谷口さんが僕の肩を叩いて「いい裁判を見に来ることができたね」、「法廷っていうのはある種セレモニーなんだけど、『何か』が降ってくる瞬間がある。だからこの仕事を続けている」と話してくれました。

思いのこもった原告の語り、それを受けての裁判官の姿勢には思わず「お!」と胸が高鳴り、両者のコミュニケーションに「何か」が降ってくる瞬間を見ることができたような気がしました。

法廷から通路に出てきて、支援者に囲まれる田中さん。法廷内では終始厳しい表情を崩しませんでしたが、少しはにかんで「ちょっと今回は勝てるかもしれない」と笑顔を見せていました。この表情は今もとても印象に残っていて、傍聴席に支援者がいることが支えになっているのだと深く実感しました。

CALL4においても「傍聴に行くことは当事者の力になる」と常々発信しているので、なんとなく支えになるのだろうと予想はしていましたが、実際に僕が目にしたのは、その想像を超えたものでした。

原告を中心に、原告の支援者、支援事務局の学生、弁護団との間で、「初めまして」「かっこよかったです」「これからもよろしくお願いします」といった会話がその場で熱く交わされていました。そこでは、訴訟の当事者を中心として新たな関係性が生まれていたのです。

▲支援者の集う裁判後の報告会。手前が原告(撮影:神宮巨樹)

「知っていること」と「考えること」

その時、周りの人たちが、自分の意見を持ち、交流することで新たな関係性を築く一方で、僕は何も話すことができず、隅の方で静かにしていました。

いつも新聞は読んでいるし、ニュースなども見ていて、自分は社会問題に興味がある。教員の労働環境にも問題意識を持っているから、何かしら話すことはあるだろうと自分では思っていました。けれども、この訴訟に関わる人たちの思いの強さを目の前にして、自分は同じ熱量で話せない、伝えるべき何かを持っていないと感じていました。

そこで芽生えたのは、当たり障りのない天気や花粉症の話だけでは、「社会」に出た時に何も話せない、あるいは「社会」に加わっていけないという恐怖にも似た気持ちです。初めての感覚で、どうすればいいのかその場では全くわからず、伝えるだけの意見を持たない自分に恥ずかしさを覚えました。

今振り返ると、社会問題を「知って」はいるものの、何も「考えていない」から、何も話せないまま終わったのだろうとわかります。つまり、ニュースはニュースとして切り分けて考えてしまっていて、情報として受け取りはするものの、それ以上深く考えることはなかったのです。

それはインターンを終えてこの記事を書いている今でもあまり変わらず、劇的な変化があったわけではありません。ですが、直接関わりを持った超勤訴訟については、ふとした時に「考える」ことがあります。

「知っている」段階で終わっていたことに気が付けたこと、社会問題に直接関わりを持てたこと、少なくとも直接関わった範囲で「考える」ようになったこと。ほんの小さな歩みですが、一歩踏み出せたこと、それ自体が良かったと思っています。

私たち学生の“公共訴訟”への関わり方

埼玉での傍聴で出会った人たちの中でも、とりわけ衝撃を受けたのが支援事務局の学生たちでした。原告の思いに共感し何らかの形で関わりたいと集まった彼らは、それぞれがこの訴訟に対する意見を持つことで、当事者として参加していました。

社会問題を変えようと動いている同年代の学生に出会ったことは、身の回りにしか目を向けていない自分自身に強烈な内省を促す出来事でもありました。

▲報告会での支援事務局の学生たち(撮影:神宮巨樹)

その時の縁もあり、事務局の学生たちに登壇してもらい、「私たち学生の“公共訴訟”への関わり方ー教員残業問題を題材にー」と名付けたオンラインイベントをCALL4インターン生の主催で行うことに決めました。

「学生がどのように社会問題に関わっていくことができるのか」がテーマのイベント。公共訴訟の原告である田中さんを支援し社会問題に関わる、事務局の五十嵐さんと佐野さんの話を聞いて、学生にできることを考えようという趣旨でした。

自己紹介、そして訴訟の概要説明とイベントは順調に進み、ついに本題である「学生にできることは何か」という問いを五十嵐さんと佐野さんにぶつけます。

すると、返ってきたのは「学生にできることなんて何もない」という言葉でした。「え、何もできないの?」と内心驚く僕。「でも」と佐野さんは続けます。

「学生は何者でもないんです。でもそれは社会的地位や役割から自由であることを意味していて、どんな意見を持ってもいいという柔らかさと、社会から期待される力を持っている。」

「だから、学生だけでは何もできなくても、学生と社会を繋ぐことはできる」と五十嵐さん。

二人が教員の残業問題に向き合う中で抱いた学生という立場の無力感と、その中で見つけ出した答えには説得力があり、何度も頷きながら話を聞いていました。

▲イベント告知バナー

イベントを終えて

イベントには学生を中心に10人ほどが参加しました。アンケートでの参加者の声には「感情に訴えかけられた」「学生でもできることがあると学べた」とあり、伝えたいことを伝えることができたように感じます。

自分でイベントを企画するまでは、イベントでは「人数を集めること」が大事だと思っていましたが、伝えたいことが100%で伝われば、人数の大小は関係ないと気が付きました。

余談にはなりますが、イベント当日、事務局の方々への前振り役になった僕は、「学生でありながら訴訟に関っているすごい人から、貴重なお話を聞けるのが楽しみです!」と言って、支援事務局の登壇者の五十嵐さんと佐野さんにバトンを渡しました。

すると、五十嵐さんは「いま、『すごい人』とか『貴重なお話』とか言っていただいたんですけど、僕なんて普通の大学生なので」と話し始めました。

そこではじめて、自分が事務局の方々を、自分とは異なる特別な存在として見ていたことに気が付きました。社会問題との関わり方は、今後の生活の中でも考え続けていく必要があると改めて思い知った瞬間でした。

インターンを希望する人へ

このインターンを通して、社会問題に興味関心があると考えていた自負心を打ち砕かれるなど、自分の至らなさに気付くことも多々ありました。しかし、CALL4のメンバー、他のインターン生、そのほか関わった人全てのおかげで、たくさんの学びを得ることができました。

インターンでは、CALL4で扱う公共訴訟に携わるので、ニュース番組や新聞記事の向こう側にいる当事者の熱量に触れることができます。すると、関連するニュースに自然と目がいったり、次の裁判期日が気になってきたり、なんでもない時間にふと考えたりするなど、「社会問題」という一見遠い存在のものが、自分の生活の一部に取り込まれます。CALL4のインターンは、それぞれの訴訟が立ち向かう社会問題を自分ごととして捉える一つの機会になると思います。

▲インターン最終日に修了書授与(右手が紺田さん)

社会に出れば否が応でも直面する「社会問題」への関わり方を、学生のうちから考えるきっかけが随所に散りばめられていたので、CALL4のインターンを経験することができて本当に良かったと思っています。

少しでも興味を持たれた人は、CALL4のインターンにぜひとも参加してみてください!

⽂/紺田雄平(CALL4)
編集/丸山央里絵(CALL4)