2023.10.25

公共訴訟とはどんな訴訟? ー法曹育成に携わる実務家の視点からー

[interview]酒井 圭(弁護士)

こんにちは。私たちはCALL4の2023年度夏期インターン生です。

皆さんはCALL4にどのような印象をお持ちでしょうか。「公共訴訟を支援するウェブプラットフォーム」と言われてもあまりピンとこない、そもそも「公共訴訟」というもの自体、民事訴訟や刑事訴訟に比べてイメージを抱きづらいかもしれません。

そこで、私たちは今回、CALL4の魅力をクローズアップするべく、異なる分野で活躍する弁護士の方へのインタビューを企画しました。

応じてくださったのは、公園通り法律事務所代表の酒井 圭弁護士です。法曹育成に携わりながら、家事事件から企業法務やハラスメント調査など、幅広い分野でご活躍されている酒井先生に、ご自身のプロフィールから公共訴訟やCALL4に感じることまでを伺いました。

弁護士を目指したきっかけ

—今の仕事(開業弁護士)に至った経緯を教えていただけますか?

私は、両親ともに弁護士の家庭で育ち、弁護士は元々職業選択の中に入る身近な仕事でした。

しかし、学生時代に母から、「法学だけではなく、他の学問を学んだ上で弁護士になった方が実務で幅広い知識を活かせるようになる」という助言を受け、大学は商学部に進学しました。商学部では、経営学、簿記など会社関係のベーシックな知識を習得することができ、それが現在の業務に活きていると思います。

大学卒業後、ロースクールに進学し、弁護士になりました。

—酒井先生はどのような業務を中心に扱っているのですか?

一般民事事件から家事事件、企業・法人の法務など、さまざまな分野を幅広く扱っています。

具体的には、一般民事事件では各種の損害賠償請求や不動産関係の案件を、家事事件では離婚や相続など、家族の問題を扱っています。
企業・法人の実務では、法律顧問としての業務のほか、ジェンダーの問題や、時に発達障害なども関わる労働問題の解決、ハラスメント調査など、企業・法人側からの適切な労働環境の構築にも携わっています。

学生への思い

—酒井先生は、弁護士としての業務の他に、次世代の法曹養成にも携わっていらっしゃいます。一橋大学法学部や成蹊大学法科大学院でも教壇に立たれており、現在は文部科学省中央教育審議会大学分科会法科大学院等特別委員会委員や法曹育成ネットワーク(プレネット)の理事を務めていらっしゃいます。

教育者として、法曹志望の学生にどのような力を身につけてほしいと考えていますか?

現代の法曹業界は公共訴訟やインハウスロイヤーなど、さまざまな分野で活躍する弁護士が増えており、自身の適性に合った分野で活躍しやすくなっています。どの分野であっても、私は、想像力の豊かさが、法曹に共通して必要とされる素質だと思っています。

弁護士の仕事では、他者の立場を理解し、当事者が抱える苦悩や願望に共感し、これを踏まえて適切な法的解決を模索する力が求められると思います。例えば、当事者が依頼をするに至った背景や現在の状況を想像する力が求められます。そして、そのような想像力が目の前の依頼者だけでなく、社会全体の有益な変革に繋がっていくと私は考えています。

—CALL4は「共感が社会を変える」がコンセプトであり、近しいものを感じます。

そうかもしれません。豊かな想像力が相手への理解を深めることに繋がり、そうした理解が積み重なって社会全体に共感の和が広がっていく、それが社会を良い方向に変化させる力になるのではないでしょうか。

また、弁護士だけではなく、検察官や裁判官など、広く法律家の想像力が養われてほしいと思っています。法曹界全体に求められる想像力は、共感を通じて法の適切な運用と社会のより良い変化を実現するために欠かせない能力であると考えています。

CALL4を知ったきっかけ

—CALL4を知ったきっかけを教えていただけますか?

「結婚の自由をすべての人に訴訟」(同性婚訴訟)について調査した際に、CALL4のサイトのケースページを拝見したことがきっかけです。訴訟記録を公開している点が非常に印象的でした。授業において、学生に裁判のイメージを持ってもらうのに役立ちそうだと思いました。

また、プレネットの理事の知人にCALL4のメンバーがおられたご縁で、プレネットの企画として毎年行っている「プロボノマッチング」(法曹志望者と公益活動団体のマッチングを主眼とした企画)にも、CALL4に参加していただいています。

—なぜ訴訟記録の公開が印象的だったのでしょうか?

原則として、一般民事事件の弁護士業務においては、高度な守秘義務が求められますのでインターネット上で訴訟記録を公開するといったことは一般的ではありません。

CALL4のウェブサイトでは当事者のプライバシーにも配慮しつつ、訴訟記録を公開・アーカイブしており、弁護士業界ではかなり特別な活動を行なっている点が印象的でした。

訴訟の「基本情報」や「原告の主張」を読むことで、実際の裁判がどのように進んでいくのかだけでなく、原告の思いや体温が伝わるとも思いました。

—酒井先生は法曹育成にも尽力されています。大学の講義などでCALL4を紹介してくださったのも、そういった伝わりやすさがきっかけなのでしょうか?

そうですね。訴訟記録には裁判の準備書面や原告の生の声が載っており、実務家がどのような仕事をしているのかを伝える教材としても、非常に適していると考えています。

裁判を無味乾燥なものとして捉えるのではなく、裁判を通じた人と人のやりとりを学生らに感じ取ってほしいという思いがあり、紹介しました。

訴訟を「社会問題を解決する手段」へ

—普段取り扱っていらっしゃるお仕事と比較して、先生から見た公共訴訟の特徴を教えてください。

弁護士が個人や会社からの依頼を受け、一般的な訴訟で解決を目指すとき、基本的には依頼者の権利を実現することが目的です。ハラスメントの被害者であれば、加害者に適切な慰謝料を支払わせたり、ハラスメントが発生した企業側では加害者に適切な懲戒処分等を下すサポートをするなど、それぞれの場面で依頼者の権利を守るのが私の仕事です。しかし、これは局地的な解決に過ぎず、同様の事案が再度起こった時に同じ解決を保障するものではありません。

公共訴訟の性質として、よりダイレクトに、政策形成や立法、法改正へと繋げていくということに目的をしぼって訴訟という仕組みを利用していくという特徴があると思います。より多くの人を救いうるというダイナミズムが公共訴訟の特有の意義だと思います。

以前、法曹志望者の方向けのイベントである社会問題について「法曹の資格を活かした解決方法にどのようなものがありますか?」という質問を受けた際、立法の面から議員の政策秘書としてアプローチする方法、行政官として法案や条例の策定に携わる方法、そして弁護士として裁判を通じて立法に影響を与える方法など、様々なアプローチがあると答えました。

公共訴訟は、裁判を活用する方法の中で最もダイレクトなアプローチと言えるでしょう。私は多くの局地的な案件の解決に取り組む弁護士ですが、一つ一つの積み重ねが社会の変化へとつながっていることを願って日々の業務に取り組んでいます。

—公共訴訟の担い手についてはどのようにお考えですか?

公共訴訟は社会的な注目度が高く、費やす時間やエネルギーが相当に大きいと思います。私自身は、2人の子どもを育てながら弁護士として仕事をしている中、真摯に取り組める公益活動は法曹育成1つが限界というのが正直なところです。そのため、現在公共訴訟に携わってはいませんが、公共訴訟に取り組まれている先生方には深い尊敬の念を抱いています。

—最後に、先生からメッセージをいただけますか。

公共訴訟は、弁護士の担う公的な役割として、非常に本質的で重要な部分だと感じております。

そして、公共訴訟の支援団体であるCALL4は、学生たちにぜひ知ってもらいたい組織だと思っています。

私自身、法曹養成に取り組む中で、公共訴訟に熱心に取り組む弁護士がいることや、そのような弁護士の役割を伝えると同時に、CALL4の活動を紹介させていただきたいです。また、いつか私の教え子から公共訴訟に携わる弁護士が育ってくれると嬉しいという思いもあります。

これからも陰ながら、応援しています。

酒井 圭(弁護士)●公園通り法律事務所代表。2004年に早稲田大学商学部を卒業した後、一橋大学法科大学院に進学。同法科院を卒業し、2008年に司法試験に合格。清水直法律事務所に入所。2011年、母である酒井幸氏と共に公園通り法律事務所を開設し、2023年からは同事務所代表を務める。他に、文部科学省中央教育審議会(大学分科会)専門委員。日弁連法科大学院センター委員。一橋大学法学研究科特任准教授(〜2023年)など。
取材・文:二神絵月、木島碧生、清水かれん、杉本貴和子、彭慧泉(CALL4 2023年夏期インターン生)
編集:丸山央里絵(CALL4)