2022.10.27

<インターン生企画> 同性カップルの婚姻をめぐる現状と今後の道筋

[Interview]曽我部真裕(憲法学者)

 「結婚の自由をすべての人に」をスローガンに掲げ、法律上同性のカップルに結婚が認められるよう求める訴訟が全国5都市で行われている。2021年3月17日には、札幌地裁で初めて画期的な違憲判決が出た。同性カップルに対する一切の法的保護を認めないのは、法の下の平等を定めた憲法14条に照らして、「合理的根拠を欠く差別」として違憲としたのだ。この判断は、同性婚実現への大きな一歩となるものだった。しかし、今年6月20日の大阪地裁では、一転、合憲判決が出され、裁判所は同性カップルに結婚への途がない現状を容認した。

 なぜ2つの地裁において異なる判決が出されたのか。さらに今後、同性婚が法律上認められるにはどのような道筋が考えられるのか。こうした論点について、CALL4で夏期インターンに参加する有志のメンバーでインタビューを企画した。

 応じてくださったのは憲法・情報法の研究者である曽我部真裕先生(京都大学大学院法学研究科教授)だ。弁護士資格を持ち、BPO放送人権委員会委員長など多彩な活動をされている先生にお話を伺った。

札幌と大阪で判断が分かれた理由

 同性婚をめぐる札幌地裁と大阪地裁の判断は、下表の通りであり、平等原則(憲法14条)に関する判断がわかれた。両者の判断を分けたポイントは、婚姻制度の趣旨の捉え方にあったようだ。

同性婚をめぐる札幌地裁と大阪地裁の判断

 (憲法14条)
1項 すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

−−札幌地裁では平等原則(憲法14条)違反となりましたが、大阪地裁では平等原則違反とはなりませんでした。なぜ異なる判断になったのでしょうか?

 札幌地裁は、現行の婚姻制度の趣旨として、「夫婦の共同生活の保護」という点を重視しており、同性カップルに一切の法的保護がないことを問題視しました。大阪地裁は、現行の婚姻制度の趣旨として、「子を産み育て」るためというところを強調していて、その点を考えると立法裁量(※注2)の逸脱(与えられた権限を越えること)はないとしています。また、異性カップルと同性カップルとで保護の程度が違うという問題についても今後別の制度を設けることで緩和できると言っています。

 ただ、現行で同性カップルを異性カップルと同等に保護する制度があるわけではないので、その無い制度を理由にするのはあまりない判断ですし、違和感があります。個別の要素の評価が札幌地裁と大阪地裁とで違っていたということではないでしょうか。

−−地裁によって婚姻制度の趣旨の捉え方に差が見られるのは自然なことなのでしょうか?

 婚姻の目的とか婚姻制度の趣旨ということについて、皆の考えが一致するのはなかなか難しい。婚姻制度は法制度でもあるけど、ある種自然なものとして存在しているわけですので、趣旨をひと口には語れない部分があります。

 子ども抜きにカップル間の結びつきに制度的基盤を与えるとか、個人ベースでそれぞれカップル当事者の幸福追求なんだっていう、個人主義的な理解も当然できるわけですけど、ただそれに尽きるわけではなくて、大阪地裁判決がいうように、次世代を育むという側面があることは否定はできないです。

−−婚姻しても子どもを作るかは家庭によって異なるのだから、子を産み育てる利益を重視するのは現在の社会の価値観とズレているという意見もあります。

 間口は幅広く開いているわけですね。別に子供をもつつもりがなくても、あるいは子を産めなくなった高齢者のカップルであっても結婚できるわけです。婚姻の目的は次世代を育むだけではないので、間口は広く取っているわけですが、だからといって制度全体の趣旨として子を産み育てるということも重要だという点は否めないということです。

 どこまで間口を広げるかは立法裁量なので、同性カップルにまで広げてもいいといえます。同性カップルでも生殖補助技術や養子によって子どもはもてるのですが、それも含めて間口を広げること自体はかまわないので、子どもが産まれる可能性がおよそ無い場合に結婚を認めてはいけないという話にはなりません。

 婚姻はカップル同士の結びつきを保護するという側面も当然あるので、そこを重視して同性カップルにも間口を広げるというということもあり得ると思います。

憲法24条と同性婚について

 憲法24条1項は婚姻の自由を保障しているが、裁判所は、同性カップルの婚姻の自由についてどのように考えているのか。また、国会において同性婚の実現に向けた法整備が行われないことを、裁判所は見逃していいのか。

(憲法24条)
1項 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2項 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

−−札幌地裁は、同性婚を認めないことは憲法24条1項及び2項に違反しないとしていますが、憲法24条は同性婚を禁止しているのでしょうか。

 24条はそもそも同性婚を想定していないので、保障も禁止もしていないという理解が一般的だと思います。

−−「憲法が同性婚を保障していないが禁止もしていない」という解釈は、現代の世論の変化に応じて変更する余地はないのでしょうか?

 そこはいろいろな意見があるところですが、私個人は極めて難しいと思っています。憲法24条は、明確に男女平等や家制度を念頭に置いて作られた規定なので、立法趣旨はかなり明確です。それと同性婚というのは全然文脈が違う話なので、時代の変化で変わってくるというのは相当にハードルが高いかと思います。

 ただ、24条2項は、家族制度全般に対して、立法による制度形成につき立法裁量の指針を示した規定となっています。これとの関係で同性婚が認められないことが立法裁量の問題として著しく不合理だとされることはあり得ると思います。

 これは札幌地裁が言ったことでもありますけど、同性カップルに対してなんら保護がないということについて、立法裁量を逸脱したと評価される余地はあり得るとは思います。

−−家族制度の形成については、原則、立法府の裁量に委ねられています。
札幌地裁判決は、否定的な意見や価値観を持つ国民が少なからずいることは、立法府が裁量権を行使するに当たり、考慮することのできる事情であるとしています。しかし、少数者の利益を保護する役割を担う裁判所が、立法府が差別的な世論を考慮することを容認してもよいのでしょうか?

 これは実に難しい問題で、立法裁量を認めるということは、当然民主的な基盤を持つ立法府の判断に一定委ねられるということです。そうすると、民意の反映ということも入ってくるということですよね。多数派の価値観の影響を遮断、軽減したいのであれば立法裁量を狭めることになると思いますね。

−−立法裁量がある以上、多数派の意見を優先しなければならないというのはあるとしても、想定上、立法府の裁量の逸脱となる可能性はあるのでしょうか。

 それはもちろんあると思います。家族制度は一般的には立法裁量が広いとされているけれども、今まで最高裁も、ケースによっては慎重な審査が必要だと言って、立法裁量を限定し、違憲判決を出したものもあります。個別的な事情で立法裁量を限定し、それによって国民意識を遮断し、影響を弱めるということはあると思います。

 札幌地裁が、14条違反の検討の際に、否定的な意見や価値観を有する国民が少なからずいることについて、(立法府がその裁量権を行使するにあたって)「“限定的に”斟酌(考慮)されるべきもの」と言っていたことも、立法の裁量が狭まっているということですよね。

海外での訴訟・立法の動向について

 フランスでは、同性婚が法制化された当時、国民の6割以上が賛成していた(※注3)。日本でも、国民の6割以上が同性婚に賛成している(注4)。しかし、賛成世論が広まる一方で、日本では構造的に少数派の声を国会へ届けるための道筋が細い、と曽我部教授は指摘する。

 それでは、立法府に少数者の声を届けるためには、どのような制度が考えられるだろうか。曽我部教授はフランス・アメリカを例に、請願権の活用を挙げる。

−−他国では、同性婚が認められるまでにどのような経緯を辿ってきたのでしょうか。

 フランスの場合は立法が先行しています。1999年にPACSという同性パートナーシップ制度ができて、2013年に法律で同性婚が認められました。違憲判決はありませんでした。多くの国では立法が先駆しています。台湾やアメリカでは違憲判決が出ていますが、必ずしも司法が主導した国が多いわけではないと思います。

−−昨年曽我部先生らが執筆された、PHP総研『憲法論3.0 令和の時代の「この国のかたち」』(※注5)では、フランスやアメリカでは国会に対してマイノリティの権利を尊重するような形での立法を促す制度があると説明されていました。具体的にはどのようなものなのでしょうか。また、日本との違いは何なのでしょうか。

 『憲法論3.0』で書いたのは、まず日本の政治の特殊性は政権交代がない点にあるということです。ずっと同じ政党が政権を占めていることの弊害として、自民党に近しい団体・勢力の声は届くけれども自民党から遠い人々の声は届きにくいということがあります。そうすると、構造的に自分たちの利益を実現しやすい団体・勢力とそうでない人たちが生まれます。夫婦同氏制も、同氏制に例外を認めていないのは主要国では日本だけであるということが最高裁判決の個別意見で言及されました。これは個々の問題というよりは構造的な問題で、マイノリティの声が届きにくい政治の在り方になっています。

 フランスでは保守派は同性婚に否定的ですがリベラルの社会党は肯定的であるといった違いがありますが、適度に政権交代をします。一旦認めれば政権が変わったとしても振出しに戻ることはなく、政権交代を繰り返すうちに長期的にみて社会の諸勢力の様々な声が政治に反映されます。日本の場合はそうではないから、人為的にマイノリティの声を政治に乗せる仕組みが必要なのではないか、ということを念頭に書きました。

 日本国憲法16条には請願権がありますが、形骸化しています。これをグレードアップして使うのが一つの案です。アメリカではホワイトハウスにネット上で署名を送れる制度がありました。また、フランスでは経済社会環境評議会という議会の上院とも下院とも違う代表機関があり、そこに請願すると一定の検討を経て提言がされるという仕組みがあります。通常の選挙政治的な文脈とは別のルートから社会の様々な声が政治のアジェンダにインプットされます。

(憲法16条)
何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。

−−日本でも請願権の行使が機能するようになる方向性で国会のあり方が変わっていくことは考えられるでしょうか。また、日本の国会は衆議院と参議院で構成されますが、変えるとするならどのような形で変えるべきなのでしょうか。

 先ほどの話は国会そのものを変えるというよりは外側に仕組みを作るという話なのでややずれますが、日本の国会も多々問題を抱えています。今の国会は請願を受けても形式的にルーティンとして処理されるから、真剣に検討されていない。すなわち、誠実に処理されるべきものがそうされていません。請願権のグレードアップについて、国会で文字通り誠実に処理するやり方を考え、請願をきっかけに国会独自で調査研究を行って立法につなげることがあっても良いと思います。

 日本ではそもそも衆議院と参議院に独自の政策提言の機能がないので、そこが問題です。政府に要求することしかできず、議会が独自に提言をするという発想も構えもありません。請願を立法につなげる仕組みがなく、超党派で検討したり国会の外に頼らないといけません。国会の機能が小さいことがこの問題の根底にあります。

 フランスに限りませんが、他の主要国では議会に独自の調査能力と政策提言能力があるわけですが、日本では衆議院も参議院もそうした能力はなく、圧倒的な差があります。また、日本の国政調査権(※注6)はほとんど機能しておらず、せいぜいスキャンダルの追及に留まっています。本当は国政の様々な問題を調査して提言し立法につなげることが期待されているわけですが、日本では国会の機能が非常に小さいのが現状です。

おわりに 

 このコラムの一つの目的は、同性婚が抱えている憲法上の問題の所在をできるだけ正確に伝えるところにある。そのため、法律用語をそのまま記載した部分もあり、読者にとっては読みにくさを感じたかもしれない。

 しかし、婚姻制度は最も身近な法制度の一つであり、読者の方々にとっても決して無関係ではないはずである。ぜひ、このコラムの内容を踏まえた上で改めて同性婚について考えてみてほしい。家族や友人と話すことも有意義であると思う。

 そして、このコラムを読んで判決の詳細に興味を持った方がいたら、それぞれの地裁判決の判決要旨を読んでいただきたい。また、今年11月30日には東京地裁で判決が出される。そこで、婚姻制度の趣旨がどのように捉えられるのか、憲法違反との判断が出るかについても、注目していきたい。

▲インターン生によるインタビューはオンラインでおこなわれた

※注1)同性婚を認めていない民法及び戸籍法の諸規定が、同性愛者に対しては、婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないとしていることは憲法14条1項に違反する旨を判示した。

※注2)立法裁量とは、立法に関して憲法上、立法府に委ねられた判断の自由を意味する。裁判所は、立法府の立場をなるべく尊重しなければならず、立法府が裁量権を逸脱した場合に限って違憲となる。(野中俊彦ほか『憲法Ⅱ〔第5版〕』(有斐閣、2012)231頁)

※注3)力丸祥子「フランスの『すべての者のための婚姻に関する法律』制定による同性婚合法化とその問題点」法学新報121巻5・6号(2014)43頁、47頁

※注4)釜野さおり・石田仁・風間孝・平森大規・吉仲崇・河口和也, 2020 『性的マイノリティについての意識:2019年(第2回)全国調査報告会配布資料』 JSPS科研費(18H03652)「セクシュアル・ マイノリティをめぐる意識の変容と施策に関する研究」(研究代表者 広島修道大学 河口和也)調査班編

※注5)曽我部真裕「『個人の尊重』から見る、これからの憲法」PHP「憲法」研究会『憲法論3.0 令和の時代の「この国のかたち」』(2022)https://thinktank.php.co.jp/wp-content/uploads/2022/04/pdf_policy_20220420.pdf

※注6)国政事項(立法・行政・司法の重要事項)について情報を収集して事実認定を行い、これを評価して自らの判断を形成する議院の機能。衆参各議院は、国政調査権を行使し、調査手段として証人喚問権および文書提出要求権を有する(憲法62条)。(佐藤幸治ほか編修代表『コンサイス法律学用語辞典』(三省堂、2003)538頁)

曽我部真裕(憲法学者)
京都大学大学院法学研究科教授(憲法・情報法)。1974年生まれ、横浜市出身。聖光学院高等学校、京都大学法学部、同大学院法学研究科修士課程、博士課程(中退)、司法修習生(第54期)、京都大学大学院法学研究科講師、准教授を経て2013年から現職。放送倫理・番組向上機構(BPO)放送人権委員会委員長、一般社団法人ソーシャルメディア利用環境整備機構(SMAJ)共同代表理事、情報法制研究所(JILIS)副理事長など。著編著に『情報法概説(第2版)』(共著、弘文堂)、『憲法Ⅰ 総論・統治(第2版)』『憲法Ⅱ 人権(第2版)』(共著、日本評論社)など。Twitter: @masahirosogabe/Twilog

取材・文/籏谷亮太、本間恵里香、矢内太道(CALL4・2022夏期インターン生)
編集/丸山央里絵(CALL4)