2023.5.9

私たちの共感が、尊厳が守られる公正な社会を築く

CALL4インターン記

はじめに

みなさん、こんにちは。私は、2023年度CALL4の春期インターンに参加した、井上絢菜と申します。ここでは本インターンに参加して経験したこと、感じたことを中心にお伝えします。

私がCALL4を知ったきっかけは大学で同性婚訴訟を学んだ際、先生に紹介してもらったことでした。以前から人権に興味を持っており、CALL4が支援しているケースをリサーチしていたことで、何らかの形でCALL4に関わってみたいという気持ちが芽生え、このインターンに参加を決めました。

傍聴ツアーに参加して

3月15日、「日米同性カップル在留資格訴訟」の傍聴ツアーがCALL4主催で行われました。この裁判は以前から気になっていたものの、自宅が遠方なためなかなか傍聴が叶わなかった裁判だったのですが、春休みのインターン期間中ということもあり、募集が開始した時にすぐに申し込みました。
CALL4での募集も定員に達し、当日は100席近い傍聴席がほとんど埋まるほど、注目された期日となりました。

▲東京高等裁判所に向かう傍聴ツアーの参加者たち

この裁判の原告は同性カップルで、お一人は日本国籍の康平さんです。パートナーであるアメリカ国籍のアンドリューさんの「定住者」としての在留資格を求めるべく争っている裁判です。

原告のふたりは、2004年にアメリカで知り合い交際し、結婚。康平さんが帰国することを受けアンドリューさんは留学生として来日、一旦帰国した後「投資・経営」の在留資格で再び来日しました。しかし、会社の経営状態の悪化から在留資格の更新ができず、2018年に「定住者」の在留資格を求めましたが許可されず、2019年にやむを得ず東京地裁に訴訟を提起しました。
2022年に結審し、下された判決は「日本国籍保持者との同性婚の相手方である外国籍保持者に一律に特定活動の在留資格を付与しないとする取扱いは法の下の平等を定めた憲法14条の趣旨に反する」というもので、「せめて特定活動の在留資格は与えるべき」と国に命じた形となりました。

控訴審一回目の期日の前週に、アンドリューさんには「特定活動」の在留資格が付与されました。けれども「特定活動」は働くこともできない不安定な在留資格であり、ふたりは安定した「定住者」の在留資格を求めて控訴しています。

▲原告の康平さん(左)とアンドリューさん(右)

この日は、控訴審の初回ということもあり、原告とその代理人である弁護士の方からそれぞれ意見陳述がありました。

原告のアンドリューさんは、異性カップルで国際婚をした友人の話を取り上げ、「なぜ異性婚によって当たり前に保障される法的効果が、自分たちには同性カップルであるというだけで保障されないのか」、「なぜ国によって守られる人生と守られない人生が存在しているのか」、「憲法14条で保障している法の下の平等というのは、“当たり前に”全ての人が平等に扱われるという意味ではないのか」と訴えていらっしゃいました。
また、パートナーである康平さんは「愛する人とただ一緒に暮らしたいだけなのに、なぜ特別な権利を主張しているように捉えられるのか」と、怒りと悲しみを訴えました。
鈴木雅子弁護士は、同性カップルであることを理由として「日本国籍者がアメリカ国籍者と日本に居住することが認められないのは差別的取り扱いであり、憲法違反、国際人権法(人権保障に関する国際法)違反である」と主張されていました。

私は原告側の人々の切実な意見陳述を聞いて、同性カップルであるというだけで、彼らが求めている平穏な暮らしを阻害され、アンドリューさんが就労ができない上に強制送還の対象になりやすい、すごく不安定な地位に置かれているという現状は性的指向を理由とした差別だと感じました。

▲控訴審後の報告集会にも大勢の支援者が集まった

公共訴訟 ーそれは社会を変える訴訟ー

私はこの裁判で、普段は見ない光景を目にしました。それは、原告側の意見陳述が終わった後、傍聴席から拍手が湧き起こったことです。マナーとしてはあまり認められていないのですが、この日は裁判官が静止に入ることはありませんでした。また、裁判では終盤に次回期日を決めるのが通常ですが、この裁判では次回期日だけでなく、その先の期日まで決めていました。
後の報告集会で「入管関連の控訴審の裁判は数回、ひどい時には一回の審理で終わることもある」という弁護団の言葉を聞いて、今回の裁判に対する裁判所の積極的な姿勢が伺えました。実際、裁判所は傍聴人の数を気にしているそうです。公共訴訟に対する私たちの共感や連帯が司法を、ひいては国を動かす原動力になるのです。

期日後の報告会では、支援者の方がメッセージボードを作っていらっしゃいました。そのボードは不公平な状況に置かれているふたりを応援する声や、政府に現行の制度を再考するよう求める声であふれていました。

インターン期間中、私は他にもCALL4がサポートする、さまざまな裁判の傍聴をしました。その経験から、強大な公権力を訴えることは誰しも恐れを感じるはずなのに、自分と同じ境遇に置かれている人々や、将来自分と同じ境遇に置かれるかもしれない人々をもうこれ以上生み出さないために、意を決して立ち上がった当事者の方々の状況をもっと多くの人に知ってほしいと感じました。

▲報告会で支援者が付箋に書いたメッセージは応援の声にあふれていた(左は筆者の井上さん)

CALL4の認知度を広げるために、広報活動を実践

そこで、私たちのグループでは、インターン企画を「CALL4や公共訴訟の広報」に決めました。決めた後も、広報の対象者を誰にするのか、広報手段はどうするのか、イベントを企画してCALL4を知ってもらう機会にするのかなど検討し、紆余曲折を経て、「幻のポスター」復活企画、CALL4のリーフレットの設置企画を実施しました。

「幻のポスター」とは、CALL4が過去に霞ヶ関駅に掲示を企画した際に作成したポスターのことです。東京メトロに掲示を断られ、日の目を浴びることがなかったため「幻のポスター」と呼ばれていますが、駅貼りは難しくとも、私たちの手でどうにか復活させることができないかと考えました。

SNSが普及している世の中でなぜポスター掲示にこだわったのかというと、CALL4の事業の性質上、法律関係に精通していないとなかなかアクセスすることは難しいと思ったからです。先述したように、私も法学部に入ってからCALL4を知りました。
しかし、数ある広告手段の中でポスターは必ず人の目に映り、印象を残します。「幻のポスター」のデザインが素晴らしく、インパクトを与えるものだったことから、デザインを一部アレンジしていただいて、大学や公共の施設などに設置依頼に伺いました。

リーフレットに関しては、インターン2日目にあったCALL4の定例会に参加した際、「イベント配布用に最近発行したもので、今のところ常時設置する先は見つかっていない」という話を聞き、ポスターと同時並行で設置依頼を行うことにしました。リーフレットには、CALL4の説明が詳しく記載されており、団体の活動内容を深く知っていただける効果があります。

私は中高生に公共訴訟について興味を持ってほしい、進路を考える際の参考にしてほしいとの思いから自分が卒業した中学や高校へ、そして市民の方や弁護士の方が法律相談などでよく利用する弁護士会館へ足を運び、ポスターとリーフレットを置いていただくことができました。

ポスターのQRコードにスマホをかざしてケースについて知ってもらっても、リーフレットでCALL4という団体自体に興味を示してもらっても、どんな形でも構わないのです。各自が公共訴訟を知り、共感することで社会は変わる。私は傍聴の経験から、そう確信しました。

▲大学に許可を得て、インターン生の仲間と掲示板にポスターを貼り出す井上さん

インターンに少しでも興味を持たれた方へ

インターンは少し敷居が高いと感じてなかなか踏み出せない方もいるかもしれません。ですが、CALL4の短期インターンは本当に活動の自由度が高く、また自分がやってみたいことをCALL4メンバーの方がサポートしてくださいます。たくさんの弁護士の方や同じ夢を持った学生さんとコミュニケーションを取れたりと普段できないような経験がたくさんできます。

私は現在、弁護士を志しているのですが、CALL4の支援ケースは冤罪事件、同性婚訴訟、入管の問題など、そのカテゴリは多岐に渡り、私がまだまだ内容をちゃんと知らないケースもたくさんありました。しかし、CALL4メンバーの方々にお話を聞いたり、Slackで日々交わされる情報を見たり、Podcastの収録に参加したり、個人的に初めて刑事裁判を傍聴したりする中で、私自身今まであまり関心を寄せてこなかったケースについて興味が湧き、将来的に関わりたいと感じるようになりました。

CALL4という名称は「三権分立の三権に加えて、市民の声が社会を変えていく4つ目の力として機能するように」という願いを込めて名付けられました。CALL4がサポートする公共訴訟は、人間の尊厳を取り戻すための訴訟でもあります。市民の力こそが、既存の三権に前向きな判断を促す重要な要素なのです。

ぜひ、「私たちから司法をひらく」という意識のもと、あなたも社会を変える活動にインターンを通して加わってみませんか。

⽂/井上絢菜(CALL4 2023年春期インターン生)
編集/丸山央里絵(CALL4)