“コロナ感染者立ち寄りで店名公表”は違法!訴訟【アーカイブ】 Disclosure of the name of a ramen shop when just a person infected with corona virus stops by is illegal! case
2020年7月31日に徳島県知事は記者会見で、当時はまだ数少なかった新型コロナ感染者が20分立ち寄ったラーメン店名を公表。結果、深刻な風評被害が生じました。店長・従業員のコロナ陰性が確認されており、店からはクラスターはもちろん感染者も発生しなかったにかかわらず、その事実は公表されませんでした。このような一方的な公表は、市民の不安を煽るだけの行政による不合理な飲食店いじめに他なりません。 On July 31, 2020, at a press conference, the governor of Tokushima Prefecture announced the name of this ramen shop where a person infected with the new coronavirus stopped by for 20 minutes. As a result, serious reputational damage occurred. Even though the shop manager and employees were confirmed to be negative for coronavirus, and there were no clusters or infected people at the store, this fact was not made public. This kind of unilateral announcement is nothing but unreasonable bullying of restaurants by the government, which only serves to inflame citizens' anxiety.
【コロナ禍で苦境に立たされた飲食店】
2020年春から始まったコロナ禍では、飛沫感染の可能性が高い場所として飲食店がターゲットとなり、さまざまな「自粛要請」が行政により繰り返されました。未知のウイルスであったことから感染対策として仕方が無かった面もあり、行政も必死に取り組まれたのかもしれません。しかし、今振り返ると過剰な対策や非科学的な措置も散見されたようにも思われます。私たちが日常お世話になっている飲食店の中には、客足が遠のき、営業を断念せざるを得ないお店もありました。
【徳島ラーメン「王王軒」について】
徳島ラーメン「王王軒」(わんわんけん)は、店主の近藤純氏が地元徳島や、徳島ラーメンを愛して創業した、田舎町の小さなラーメン店です。王王軒の味を求めて、県内外のラーメン愛好家が訪れています。
■ 王王軒公式サイト https://wanwanken.com/
【2020年7月31日,県知事による突然の店名公表】
2020年春に始まったコロナ禍により、王王軒も大きな打撃を被りましたが、第1波と呼ばれた感染も落ち着きを向かえ、政府による「GO TOキャンペーン」や夏休みとなり、客足も回復しかけた2020年7月31日午前10時に行われた徳島県知事の記者会見で、コロナ感染者が5日前に立ち寄った飲食店名は「王王軒」であると公表しました。
■ 徳島県知事令和2年7月31日定例記者会見 https://www.pref.tokushima.lg.jp/governor/press-record/5039450
前日の30日に保健所から感染者が来店していた旨を告げられていた近藤氏は、店名公表されるとお店に大きな影響が出る、従業員も困ることになる、やめて欲しいと懇願していました。また、店長や従業員のPCR検査を再三お願いし、ようやく行われ全員の陰性が確認されていました。しかし、徳島県知事は
「なお、この際、追加の情報提供をさせていただきたいと思います。昨日30日に発表をさせていただきました県内20例目の方に関しまして、26日の日曜日、立ち寄られた藍住町の飲食店、このお名前でありますが、同意をいただけました。「王王軒本店」であります。まず私の方からのご報告は以上となります。 」
と店名公表をしたのです。
【客足が止まる恐怖】
2020年6月ごろまでには「第1波」が収束の兆しを見せ、7月下旬からは「GO TO トラベル」キャンペーンにより、また8月は夏休みでかきいれ時であることから客足が増えることを期待していました。しかし、県知事の記者会見を受けて感染者が立ち寄った飲食店は王王軒であるとの報道がなされ、その瞬間から、客足がピタッと遠のいた、静寂が突然訪れた、なにか縄でも張られたようになった、と近藤氏は当時の恐怖感を語っています。友人からマスコミで名前を見たという連絡もありました。ネット上の掲示板には「コロナラーメン」「感染する」など心ない書き込みがなされました。本来は繁忙期として従業員のシフトも組んでいたのですが、客足が遠のき売上は半減してしまい、経営の危機を迎えました。
▲王王軒は1998年5月にオープン。25年経つ今も子供をつれた家族連れ、老夫婦など様々な層の顧客に愛されている
【同意はしていなかった】
県知事は「同意が得られた」として、店名公表をしていますが、近藤氏はお店への風評被害を考え、公表はやめてほしいと再三懇願しており、同意はしていません。同意をしていなかったことは、地方裁判所でも認定されています。県知事は誤った認識に基づいて店名を公表したのです。
近藤氏は店名公表後、県の担当部局や保健所の担当者に抗議をしました。また、店名が公表されてしまった後、店名公表への謝罪と店長や従業員は全員陰性であったことを追加で公表して欲しいと求めましたが、県は同意を得たとして取り合いませんでした。
自らがクラスターを発生させたわけでも、感染者を出したわけでないにもかかわらず、店名公表をされ、その後、結局感染者は出なかったのですから、その旨を追加的にでも公表し、せめて感謝の言葉、ねぎらいの言葉だけでもあればよかったのですが、県は対応に何らの問題は無かったとの姿勢を崩しませんでした。飲食店の経営の影響などに全く配慮せず、また、同意を得たと言い続ける県の姿勢に納得できず、近藤氏は2021年2月5日に徳島県に対する国家賠償請求訴訟を徳島地方裁判所に提起したのです。
【店名公表への疑問】
まず、前提として県知事は、店名公表について近藤氏の同意を得られたとして会見をしていましたが、近藤氏は同意をしていません。このことは徳島地方裁判所でも認定されています。同意があったかどうかという重大な事実について誤って認識していたのですから、それだけでもこの店名公表は違法とされるべきだと思います。
そもそも5日前に比較的換気がいいラーメン屋で20分間だけ飲食した感染者がいたことをもって、店名公表をする必要があったのか、店長や接客する従業員の陰性が確認され、他の客に感染するなどのクラスターが発生したわけでもありません。それにもかかわらず店名を公表したのは、必要性・緊急性がありません。
また、店名だけを公表をしても、その時間帯に来店していた他のお客様へ何を伝えたいのかが全く分からず、感染防止にはならないのではないでしょうか。その反面、王王軒は、記者会見を報道やWEBで「さらされる」だけです。実際に、現在も公表されています。
知事の記者会見をみても、誰に何を呼び掛けているのか分からないし、クラスターの発生の有無や王王軒において他の感染者が確認されたのかなども全く分かりません。これでは、風評被害を招くだけの有害無益な公表です。
そもそも感染者が立ち寄る場所は働いている場所や公共交通機関など無数にあります。その中で飲食店だけを公表するのは、当時横行していた飲食店をスケープゴートにして市民の恐怖や怒りを飲食店に向けさせる不合理な取り扱いです。飲食店いじめと言ってもおかしくありません。
仮に公表を許容するとしても、その対象は、あくまで20分間前後来店していたお客さんに向けたものであるべきです。すでに店長や接客する従業員の陰性が確認され、かつクラスター発生などもなかったのに、広く一般に公表する理由はありませんし、仮に公表する場合には安全情報も併せて公表するべきではないでしょうか。特に、従業員の陰性やクラスター発生がないことなど、地域住民にとって有益な安全情報は、事後的であっても、公表すべきでした。そういったプラスの情報を公表しないことは、翻って当初の公表が、市民の不安を煽るだけの不合理な飲食店いじめであったことを示しています。
何の落ち度もない王王軒が被る、売上の減少といった甚大な不利益について、行政も司法も、具体的に考えてくれませんでした。
このような店名公表は、必要性・緊急性・相当性を欠く違法なものです。
▲店主もスタッフも誰一人コロナに感染はしていないことが確認されたが、その後追い公表はされなかった
【緊急事態下における行政による人権侵害の危険と司法の役割】
2020年春頃からのコロナ禍では、未知の感染症への恐怖から日本中の人たちが様々な行動抑制をし、行政からも自粛要請という形で様々な措置がなされました。しかし、今振り返るとコロナ禍に過剰とも言える制限があったのではないでしょうか。その中には人権侵害に至るものもあったかもしれません。飲食店への過剰な事実上の規制もそうです。そもそも必要性や合理性があったのか事後的に検証して、科学的でない単なるパニックに基づくものであれば反省して今後に活かすべきです。また、仮に必要性や一定の合理性があったとしても、それにより不利益を被る側への一定の手当て・配慮は必要ですし、それは事後的なものでも構いません。行政が自らコロナ禍における過度な措置を検証するだけでなく、人権侵害行為については司法がこれを正す必要があります。安易に行政による措置に対する必要性だけを司法が容認するのであれば緊急事態(災害・感染症・有事など)における行政による人権侵害に歯止めはかかりません。
【地裁・高裁は敗訴・・・最高裁へ上告へ】
私たちは、同意なき店名公表が国家賠償法上違法であるとして、徳島地方裁判所に対して慰謝料請求訴訟を提起しました。
第一審となる徳島地方裁判所(令和3年(ワ)第31号)では、徳島県は、これまでの同意を得ていたとの主張に加え、同意を得なくても公表をする必要性があったとの主張を展開しました。そして、令和5年1月25日の第一審判決では、裁判所は同意があったとは認められないとして、この点は近藤氏の主張を認めたものの、感染防止のために店名公表をする必要性があったとして県の責任を否定する請求棄却の判決を言い渡しました。近藤氏は、高松高等裁判所に控訴をしましたが(令和5年(ネ)82号)、高松高等裁判所も徳島地裁の判決を支持し同年7月13日に近藤氏の控訴を棄却する判決を言い渡しました。
▲「緊急事態であるからこそ人権は守られるべき」王王軒のために立ち上がった弁護団
【行政による飲食店いじめは許されない】
近藤氏は令和5年7月24日に最高裁判所に上告及び上告受理申立をしました。上告をすることには迷いもありましたが、コロナ禍で行政による行き過ぎた対応により犠牲となった同じような飲食店が多くあったのではないか、自分たちと同じように犠牲になる飲食店が出て欲しく無い一心で上告を決意しました。
【最高裁で見直しを勝ち取るために・・・皆さまへのお願い】
最高裁では憲法違反・高裁判例違反・重大な法律解釈の誤りなどの理由がなければそもそも実質審理がなされません。しかし、この度、心ある行政法学者の方々から法的鑑定意見書のご協力をいただけることとなりました。小さなラーメン店が最高裁まで裁判で闘うことはもともと大変ですが、コロナ禍や店名公表によるダメージで、王王軒も経済的に困難な状況にあります。弁護団も採算度外視で取り組んでいますが、行政法学者の先生方の意見書作成提出など追加の訴訟活動のためには、やはり資金が必要です。クラウドファンディングにより募った資金は主として法的鑑定意見書作成への謝礼など、最高裁の実質審理を勝ち取るための主張立証活動に充てていく所存です。なにとぞご協力をお願い申し上げます。
【訴訟をとおして実現したいこと】
コロナ禍における行政による行き過ぎた規制を見直し、王王軒と同じように犠牲となった飲食店の救済に役立てたい。緊急事態であるからこそ人権が守られるべきこと、司法が行政の行き過ぎに歯止めを果たす役割があることを再確認したいと考えています。
【資金の使途】
主として、法律学者等による意見書作成の謝礼、その他、証拠資料の収集の原資とします。
【担当弁護士】
辰巳裕規 兵庫県弁護士会 芦屋本通り法律事務所
富本和路 兵庫県弁護士会 おのころ法律事務所
森本健夫 徳島弁護士会 森本法律事務所
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