2020.3.17

「結婚は男女の生殖や子供の育成前提」そんな国の偏見を崩したい

CALL4公開記念イベントレポート⑵

2020年1月25日、CALL4リリース記念イベント『公共訴訟を社会にひらくーそれぞれのストーリー、それぞれのたたかい』が、会場いっぱいの参加者を迎えて、原宿「ギャラクシー銀河系」で行われました。

イベントレポート第2回となる今回は、結婚の自由をすべての人に訴訟(同性婚訴訟)で、東京裁判を担当する弁護士の水谷陽子さんと、原告の大江千束さん、小川葉子さんがイベントで熱く語った様子をレポートします。

現在進行形で今、法廷で起きているストーリー、そして差別や偏見に意志を持って立ち向かう、たたかいのお話です。

同性婚訴訟は2019年のバレンタインデーに提起された

日常生活で、切実に困る3つのこと

水谷陽子:
同性愛者の方がたは、みなさん温かい家族の営みをしているにも関わらず、『結婚』という選択肢がないことで、今たくさんの困りごとを抱えています。

私たちは一般的によく、「私たちの結婚を祝福してほしい」と主張しているように見られるんですけれど、もちろんそういう気持ちもあるんですけれど、それだけじゃないんです。まさに目の前に、リアルな困りごと大きく3つ、あるんです。

例えば病気になった時、病院で家族として扱ってもらえません。これは原告の小野さんが意見陳述で語られました。
小野さんは以前に異性と結婚していて、子供がいます。今は西川さんというパートナーと一緒に家族として育てているんですが、子供が小さい頃、入院するとなった時に西川さんに頼んだ。すると、『あなたはこの子供の親ではないから手続きができません』、と言われたそうです。
また、小野さん自身もガンを患っていて入院したことがあります。何かあった時に自分のパートナーが手続きをしたり、身元の引受人になったり、治療の同意書を書くことができるのか。多くの不安を抱えてらっしゃいました。

それから相続の問題です。これも多くの同性愛者やセクシャルマイノリティが抱えている問題です。一緒に暮らしているマンションや家を片方の名義にしている。その名義人になっている方が亡くなられた場合、相続できないので、残された方は住み続けることができないんです。

また、在留資格の問題もあります。日本籍の方と外国籍の方のカップルの場合、男女の場合と違って、配偶者としての日本の在留資格を得ることができません。一生ふたりが日本で暮らし続けられる保障がありません。

弁護士の水谷陽子さん

原告の声は「余計な混ざり物」と言われた

そして、それ以外にもう一つ大きな影響は、やはり精神的な苦しさです。男女のカップルだったら使えるものが、自分たちには使えない。その状態が、「あなたたちは普通のカップルより劣っていますよ」というメッセージになってしまう。今も多くのメディアで、日常の会話の中で、セクシャルマイノリティへの差別の言葉は語られています。その中で、国が制度として同性の結婚を認めないということは、差別を容認している表れだと私は思います。

私たちは、「結婚の権利は、憲法で保障されている」と訴えています。それに対して、「憲法は同性愛カップルを想定していない」と国は言います。「想定していない」というのは、法律用語ではありません。けれど、「法律上はどういう意味ですか?」と法廷で聞いても、「想定していないというのは、想定していないという意味です」と繰り返すばかりです。

他にも不誠実な態度があります。裁判では一方が主張したことに対して、もう一方が主張を認めるか否かの“認否”というものがあって、そこで認めたものは、証拠がなくても事実となり、認めないものに関しては、主張した側が証拠を出して立証しなければいけない。国は私たちの多くの主張に対して「認否しない」と言っています。そのために、私たちは多くのことを立証しなければならなくなっています。

例えば、「自分のセクシャリティや、どういう相手にパートナーとしての関係を望むか、それは自分の意志では変えられないこと」、と私たちは主張しました。それに対して国は、「認否しない」のです。
法務省の難民認定に関する文書では、セクシャルマイノリティは、自分の意志ではセクシャリティを変えられない。だからセクシャルマイノリティであることを理由に迫害された場合は難民にあたる、と明記されています。これを法廷で突っ込みました。その時に国はどう返したと思いますか。「部署が違うので」。怒りに震えました。

また、結婚制度の成り立ちについて。戦時中は結婚したいというカップルが結婚できなかった。その反省から今の憲法の結婚の規定があると私たちが主張したことに対して、「争う」と国が言うので、理由を求めたところ、「結婚は男女の生殖や、子供の育成を前提として作られたもので、その趣旨は今も変わっていない」と言ったんです。
今、男女のカップルの中でも子供を産まない選択をする人たち、産みたいけど産めない人たちがたくさんいる。本当に不誠実な反論だと思っています。

中でも一番理不尽なのは、原告の生の声を軽視していることです。
裁判で、「原告の話は夾雑物だ」、こう言われました。この漢字を読める方いますか? “きょうざつぶつ”と読むんですけれど、「あるものの中に混じっている余計なもの」、という意味です。あろうことか、裁判所は憲法の判断にあたって、原告の話を直接聞くことはいらないという趣旨の発言をしたんです。

裁判に来て、どうか一緒に怒ってほしい

そこでみなさまにサポートをどうかお願いしたいんです。
一つ目は、まず傍聴に来ていただきたいです。そして、国の不誠実な態度を、それを正さない裁判所を見て、一緒に怒ってほしいんです。それが、私たち弁護団や、原告を、勇気づけてくれます。裁判が無理でも、その後の報告会に来てくださるだけでも、大きな励ましになります。

そしてもう一つ、CALL4を通してご寄付をいただけませんか。私たちが主張している結婚の権利が国や裁判所に認められるためには、大きなハードルがあります。
現在、三人の憲法学者の方に意見書を依頼したり、憲法の学習会をお願いしたりしています。また、例えば帯広に住んでいる原告が北海道の地方裁判所で裁判をしていたり、香川に住んでいるカップルが大阪地方裁判所で裁判をしていたり、原告が裁判所に行くだけでもお金がかかっています。この訴訟をみんなでたたかって勝つために、どうかみなさんご支援をよろしくお願いします。

それでは、原告のおふたりをご紹介します。一緒に裁判をたたかっている、小川さんと大江さんです。

人生をかけて、勇気を持って、原告に

大江千束(以下、大江):
はじめまして、大江と小川と申します。よろしくお願いします。私たちはレズビアンの中高年カップルです。もう28年、腐れ縁ですね(笑)。

会場:(笑)

小川葉子さん(左)と大江千束さん(右)

大江:
まず私がなぜ原告になったのかを、少しお話したいと思います。
私たちは東京の中野にあるレズビアンコミュニティの運営に、1995年から携わっています。来年で25周年、延べ人数は数十万人。本当に多様な当事者たちの姿を見てきました。この国で暮らす、同性愛者や性同一性障害、トランスジェンダーなどのセクシャルマイノリティの生きづらさを、まじまじと見てきました。

そして、どうやったら私たちが希望を持って暮らして行けるのかを、ずーっと考えてきたんです。やっぱり色んな規範意識を正さなきゃいけないんですよね。

例えば、女性は16歳、男性は18歳という婚姻適齢年齢、偏見だと思いませんか。再婚禁止期間も女性にはあるけれど、男性にはありません。そして、夫婦別姓の問題。今は90%以上の女性が、結婚後に苗字を変えてます。じゃあ、レズビアンの私たちはどうするか、じゃんけんで決める?
こういう既定の規範の中に、同性カップルが入っていく。それによって、国のジェンダーの偏見を壊していきたい。それが私の裁判に臨んだ一つの理由です。小川さんはいかがでしょう?

小川葉子:
そうですね、もともと私は結婚制度そのものに賛同していなかったんです。この人と結婚したいと思ったことも、正直なかった(笑)。けれど、私たちは昔からパートナーをやってきて、やっぱり年齢を重ねてから出てくる問題があります。さっき水谷さんの話されていた、病気のことや介護のことや。

この国は、結婚制度は男と女のものだから、女同士や男同士はパス!って、疎外する社会なんですよ。要するに選ぶ権利もないんです。
もちろん異性同士でも、結婚制度が要らない人は結婚しないじゃないですか。要る人は結婚すればいい。ただ、それを選ぶ権利がないのが同性愛者です。そこを変えるには、結婚制度は必要という立場で関わっていくしかないなって思いました。そこからです。

大江:
最後になりますけれど、我々は長いこと、税金を払ってきました。私、今年で還暦なもので、もう老い先を考えますし、これまで尊厳を持って生きてこられたのかなって、今の歳になって振り返るんですね。本当に尊厳を持って生きてこられたのかを確かめるために、勇気をもって、人生かけて、原告になろうと思ったんです。

この国は、平等であったり、自由であったり、愛ということが、人権と絡みにくい国だとずっと思っています。なので、ちょっとでも風穴を空けたい。
裁判を提起してから1年が経って、まだこれからですけれど、こういった中高年カップルも原告にいると知って、応援していただけたら、これほどうれしいことはありません。

取材・文・編集/丸山央里絵(CALL4)
写真/神宮巨樹