2025.12.25

終結レポート「大川原化工機事件」

公共訴訟が残したもの Vol.2

2021年9月に提訴、CALL4に掲載された『大川原化工機事件 〜無実で約1年勾留「人質司法」問題をただす〜』訴訟は、2025年6月、原告側の全面勝訴で幕を閉じました。

日本社会に人質司法の問題を知らしめた本訴訟のおよそ4年に亘ったたたかいはどのようなものだったのか、社会に何を残したのかをレポートします。

事件の始まり 

大川原化工機株式会社は、液体から粉末をつくる「噴霧(ふんむ)乾燥技術」で国内外に知られる企業です。インスタントコーヒーの粉や、化学製品の原料となる乾燥粉体をつくる装置――それが同社の噴霧乾燥器(スプレードライヤ)です。設立から40年にわたり、多くの企業に製品を提供してきました。

2020年3月11日、大川原化工機株式会社の役員であった大川原正明さん、島田順司さん、相嶋靜夫さんは、突然逮捕されました。逮捕理由は、噴霧乾燥器を経済産業大臣の許可を得ずにドイツ大手化学メーカーの中国子会社に輸出したことでした。その他無数にある海外との取引と同じ、通常の企業活動の一環でした。しかしこの輸出が、外国為替および外国貿易法(以下、外為法)規制に違反する不正輸出であるとされ、3人はそのまま起訴されてしまったのです。

外為(がいため)法とは、日本と外国との間の資金やモノ・サービスの移動などの対外取引を規制する法律です。特別な国や地域に物資を輸出したり、武器への転用が可能な物資を輸出したりする際には政府の許可や承認が必要とされています。

大川原化工機株式会社の噴霧乾燥器は、ある日突然、捜査機関によって軍事転用可能であると判断されました。

この背景には、法令の「曖昧さ」がありました。国際的な基準で規制対象とされた噴霧乾燥器の要件の中に、「装置を分解しないで化学物質による消毒(disinfected)ができる装置」という基準がありましたが、これが日本の政省令では明確な定義のない「殺菌」と訳されました。

捜査機関は、「殺菌」ができる可能性がある機械を海外に輸出したことを捉えて、外為法違反の嫌疑をもち、捜査を開始したのです。

▲大川原社長と島田元専務(撮影:保田敬介)

タイムライン 〜捜査開始から公訴棄却まで〜 

タイムライン 〜提訴から判決確定まで〜 

提訴から終結まで、裁判のあゆみ

2017年に始まった大川原化工機への捜査は、1年半にわたる膨大な任意の調査協力で、事実関係と法令解釈に必要な証拠のほとんどが揃っていました。顧客、同業他社、有識者、そして法令を所掌する経産省への詳細な聴取。さらには同型機を用いた実地実験まで。企業側はトラック3台分の資料提出を行い、291回に及ぶ事情聴取にも応じてきました。大川原さんたちは、会社の所在地や住所もはっきりしていて逃亡も現実的ではありません。

それでも、逮捕は行われ、身体拘束は11ヶ月に及びました。

なぜ、逃走の恐れも証拠隠滅の可能性も低い市民が、これほど長期間拘束されたのか。
なぜ、命に関わる病状が認められていた相嶋さんは、十分な医療を受けられなかったのか。

これらはすべて、日本の刑事司法に根深く存在する「人質司法」の構造と切り離すことはできません。

日本の刑事手続には「無罪推定の原則」があります。本来、市民は裁判で有罪が確定するまで有罪扱いされてはならず、身体拘束は必要最小限であるべきです。

ところが実際には、自己の記憶に従い正直に無実を主張しているだけで、あるいは争いのある法律の解釈について自らの解釈を主張しただけで、公判前、判決前の市民が長期間拘束されることがあるのです。

▲「人質司法に終止符を!訴訟」ケースページより(CALL4作成)

被疑者・被告人に対する身体拘束は、直接的には勾留に基づき行われ、起訴後に保釈を認めないことによってその状態が維持されます。勾留や保釈の判断は「罪証(ざいしょう)隠滅を疑うに足りる相当な理由」があるかどうかを審査してなされる仕組みになっています。しかし、現在の運用は、この要件が抽象的なおそれをもとに認められ、簡単に身体拘束が行われる運用になっていると国内外で批判されています。

相嶋さんは一人で歩くことも困難なほど衰弱し、弁護側が7回にわたり保釈を求めたにもかかわらず、すべて却下されました。数時間の勾留停止では診察すら受けられず、ようやく手術にたどり着いたときには、すでにがんは肝臓に転移していました。さらに、大川原さんと島田さんは「相嶋さんとの接触禁止」という保釈条件を課され、相嶋さんの最期に立ち会うこともできませんでした。

大川原さんたちを苦しめたのは、それだけではありません。

大川原さんは、取調べのたび「腰縄と手錠でつながれ、パイプ椅子に縛り付けられた」と語っています。取調べにおいては、「なぜ黙秘するのか?弁護士に言われたからか」「弁護士は正しいとは限らない」などと問い詰められ、憲法で認められた権利である黙秘権の行使が妨げられました。会社は倒産の危機にあり、経営や社員とその家族のこれからについて不安を抱えながらも、外に出て対処することは許されませんでした。

島田さんは、裸にされる身体検査の屈辱、高圧的な追及、事実と異なる言葉を信じ込ませる誘導を受け続けたといいます。

「供述調書は毎回、取調べの行われる前から、できあがったものが用意されていた。鉛筆も持たせてもらえなかった。その文章を直してほしいと、頼むことしかできなかった」「最初から『不正に』『故意に』といった文言が書き込まれていた」誤りを指摘すれば調書を取り上げられ、拒否すれば別の不利な文言を挿入するという“交換条件”を突きつけられる。そんな取調べが延々と続きました。

身体拘束を続ければ、「早く出たい」という心理を利用して、いずれ事件を維持するために必要な自白を得られるだろう——捜査機関が持つ安易な期待が、ずさんな捜査や不必要な身体拘束を正当化し、えん罪すら生み出す土壌となっています。

そして、結果として無罪になったとしても、逮捕起訴に伴う社会的な不利益、長期の身体拘束が刻みつける身体的・精神的な損失は回復されるものではありません。

大川原さんたちは、この事件の真実を明らかにし、名誉を回復するために、国賠訴訟を提起するに至りました。

▶︎訴状はこちらから

▲提訴会見の様子。左から髙田弁護士、大川原社長、島田元専務(弁護団提供)

人質司法に依拠した逮捕、起訴の違法性を追及するため始まったこの裁判では、前提として、会社が輸出した噴霧乾燥器が外為法による輸出規制の対象に当たらず、この輸出は違法ではないことが認められる必要がありました。

噴霧乾燥器を生物兵器の製造に用いる場合、繰り返し製造する中で、製造前後に機械内部に残る有害な菌に作業者が暴露しないようにするため、装置を分解せずとも、装置内に残留した菌を全て死滅させることができる必要があります。

そのため、生物兵器製造に転用されるおそれのある噴霧乾燥器の規制の要件として、国際的な基準は”capable of being sterilized or disinfected in situ.”「装置を分解しないで化学物質による消毒(disinfected)ができる装置」であることを挙げています。

しかし、日本においてはこの基準を、「定置した状態で滅菌又は殺菌することができる」と訳し規制基準として法令で定めていました。

そして残念ながら、ここでの「滅菌又は殺菌」の意味について、国際的な基準においては明確に定められていたにもかかわらず、経済産業省が示した通達は、翻訳で漏れ落ちて、国際的基準とは異なる用語の解釈を示していました。

警視庁がこの訳語の不備を捉えて、国際的基準においては、

①「殺菌効果のある化学物質の使用を通じて」
②「全ての微生物の感染能力又は生命力の除去を達成すること」

ができる殺菌能力を持つ噴霧乾燥器が規制対象とされているにもかかわらず、

①噴霧乾燥器に付属の乾燥用ヒーターを用いて装置内部に熱風を送り続けて内部を温め、
②装置内に残置した有害な微生物を何か1種類でも死滅させることができれば、規制対象となると、国際的基準に明確に反する独自の解釈を立てて捜査に及びました。

捜査機関はこの解釈を取る前提として、大川原化工機製の噴霧乾燥器で実験を行っていましたが、この実験は、本来必要とされる「粉末となった細菌が機械の中にたまった状態で、加熱で殺滅できるかどうか」を確かめる方法とは大きく違い、専門家から複数回問題を指摘されていたにもかかわらず改善しませんでした。

また、噴霧乾燥器には外観上目立つ場所に「測定口」と呼ばれる熱が伝わりにくい場所があり、そこに粉がたまると特に温度が上がらないという構造上の特徴がありますが、警視庁はそれも無視。製造会社の社長や従業員から「粉になった菌は乾熱では死なず、一度湿らせないと殺菌できない」「温度が上がらない部分がある」との説明を受けていたのに、それを確かめる実験は行われませんでした。

これらの事実からすると、遅くとも逮捕前において警視庁の担当者は、集めた情報や通常の捜査で簡単に分かるはずの事柄から、国際的基準はおろか、警視庁が立てた解釈をとったとしても噴霧乾燥器は輸出規制対象ではなく、輸出は外為法違反ではないことを知っていたか、少なくとも知ることができたのではないでしょうか。

そして、検察は起訴後、弁護側の指摘を受けるたびに主張を変えざるを得なくなり、温度が上がりにくい場所に堆積した大腸菌は加熱によっては滅菌することができないという重要な問題にも対応できませんでした。最終的には公判を維持できず、検察自身が「冒頭陳述ができない」と述べ、起訴を取り消すに至りました。

この訴訟において、原告側は、警察庁がとった解釈は国際的基準に照らして到底取り得ないものであって、会社が輸出した噴霧乾燥器はこの「殺菌」という要件を満たすと捜査機関が判断したことの不合理さを訴えました。そして、検察による起訴についても、噴霧乾燥器が客観的な規制要件に該当しないことを当然知ることができたにもかかわらず、漫然と見落として強行したものであり違法であると主張しました。

▶︎詳しくは、原告準備書面(1)原告準備書面(5)原告準備書面(7) 参照

警視庁公安部は立件ありきの強引な捜査を続け、その姿勢がえん罪を生むこととなりました。その中でも、A警部補の島田さんに対する取調べは極めて問題があったため、この裁判では以下のような事実の有無と、その違法性も争っていました。

・事前に恣意的に作成された調書に署名を求められたこと
・調書の内容の確認及び修正に対する妨害行為
・独自の解釈を断定的に述べる不当な誘導
・大川原化工機を捜査する理由として「同社製の噴霧乾燥器が中華人民共和国の『あってはならない場所』に納入されていたことが発覚した」、島田さんが殺菌概念に関する見解を説明した際には「そんなことを言っているのはあなただけだ。社長と相嶋さんは該当すると認めている」などと虚偽の事実を告げたこと
・「過去の不正輸出の事例では殆ど逮捕されている。今回もそのようになる。該当と知っていたと認めないと不利になる」などの恫喝
・弁解録取(被疑者の逮捕直後に警察が行う取調べ)では、島田さんの弁解を聞くこともないままに事前に作成した弁解録取書について、事実と異なる箇所の削除を求められたにもかかわらず、直したふりをして再び同じ文書を差し出したという詐術的な対応
・島田さんがそのような詐術的な対応に気付き抗議したところ、新たに弁解録取書を作成し、詐術を用いて島田さんの署名指印を得た弁解録取書を裁断機で裁断して廃棄したこと

▶︎詳しくは、原告準備書面(2) 参照

▲島田さんが当時の様子を絵にしたもの(撮影:保田敬介)

この国家賠償請求訴訟の過程で、警視庁公安部による捜査がいかに真実の追究から逸脱し、無理な立件へと「ねつ造」されたものであったかを示す、数多くの衝撃的な証言と事実が明らかになりました。原告側はこの事件を捜査幹部にまで帰責性が及ぶ「ねつ造事件」と捉えてきましたが、元捜査員H警部補が公の場で捜査の実態を「まあ、ねつ造ですね」と証言したことは、捜査機関の対応に対する当事者や支援者らの批判的な目線を裏付けるものでした。

1. 根拠なき「殺菌」概念の強引な作り上げ
輸出規制の核心である「殺菌」の概念は、事件の端緒当初、経産省内部でも「明確な定義がなく曖昧な概念のままであった」ことが明らかになりました。

捜査幹部は、経産省が当初、立件に必要な証明方法に難色を示し、より厳しい「芽胞(がほう)形成菌」を指標とするよう求めていたにもかかわらず、捜査に都合のよい「大腸菌を死滅できれば該当する」という独自の解釈を作り出したという経緯も判明。さらに、この解釈を裏付けるために、法律家ではない有識者の意見を寄せ集め、規制の根拠である国際的基準の定義や、他の有識者の異論を意図的に無視したうえで、経産省を説得しようと試みたことも、大川原化工機事件の捜査で重要なポジションにいた複数の警部補により明かされました。

2. 経産省への不当な圧力と無理な立件の強行
当初、経産省は規制の曖昧さや法令の不備を認め、立件に消極的でした。しかし、捜索差押えの直前、公安部長が経産省に働きかけた結果、経産省の姿勢が突如として立件容認の方向へ急変しました。複数の元捜査員は、この経緯を「外事課第1課長が公安部長に泣きつき、公安部長が経産省に働きかけた」結果だと証言しています。これは、公安部が無理な立件を成就させるために圧力をかけたことを示唆しています。この無理な働きかけの結果、経産省は「法令が曖昧なので、欠陥はある。そのため、該当という文書を出しても変わる可能性があります」と述べつつも、警察の立件方針に沿った回答を出しました。

3. 不利な証拠の意図的な無視と隠蔽
前述の通り、任意取調べの開始直後、噴霧乾燥器の構造に詳しい複数の従業員や役員から、乾燥室内の「測定口」など、熱風が流れず温度が上がりにくい箇所の存在が具体的に指摘されました。にもかかわらず、捜査幹部(M警部)は、この指摘を「従業員の言い訳だ。信じる必要はない」として一蹴したといいます。T警部補が再実験の必要性を進言したところ、「余計なことをするな、出なかったら事件を潰して責任取れるのか」と一喝したとの証言は、捜査幹部の強硬的な姿勢を示唆しています。

また、温度実験では不利な結果が出たにもかかわらず、捜査幹部の指示により、その事実は報告書から意図的に記載が削除されたといいます。さらには立件に不利なこれらの証拠(捜査メモ)は、捜査幹部の指示により、検察官(塚部検事)に意図的に共有されなかったということも明らかになりました。

このように組織的な不正と権力の乱用が次々と示唆されました。刑事司法の根幹を揺るがす構造的な問題が明らかになる中で、この不正義に対し、司法の最後の砦である裁判所がどのように応答するのか、多くの市民が強い注目をもって判決を待ち望みました。

▶︎詳しくは、原告準備書面(8)H警部補証人尋問再現T警部補証人尋問再現 参照

一審判決は、警視庁公安部は原告会社従業員から熱が流れにくい箇所の指摘を受けていたにもかかわらず、その箇所の温度測定実験を行わなかったと認定し、通常求められるべき捜査(測定口の温度測定実験など)を尽くしていれば、本件噴霧乾燥器が「滅菌又は殺菌」できるという要件を満たさないことを容易に把握できたはずと認定。そして、警視庁公安部による逮捕・勾留請求、検察官による公訴提起について、通常要求される捜査を尽くさなかったことにより、本件噴霧乾燥器が「滅菌又は殺菌」できる機械に該当しないことを示す証拠を得る機会を逸しているのだから、これらは客観的な根拠を欠くものであって違法と判断しました。

島田さんに対する取調べについても、警部補は「細菌が少しでも死ねば『殺菌』に該当する」などと誤解させ、虚偽の供述調書に署名指印を強要するなど、不当な心理的影響を与える違法な取調べを行ったと認定。弁解録取書についても、島田さんを欺き虚偽を信じ込ませ、了解していない内容の記載をした供述調書に署名指印をさせるものであって、違法と判断しました。

一方で、警視庁が「殺菌」の定義について国際的基準から離れて独自の解釈を採用し捜査に及んだことや、検察官がそれを採用して公訴を提起したことについて不合理とは言えないとして、採用は不合理であって逮捕勾留起訴には「合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑がない」ためそれのみをもって違法である、という原告側の主張は退けられました。

前述の通り、捜査の過程で立件ありきの発想が先行していたことや、捜査幹部の強い意向が現場や経産省に影響を与えていたことをうかがわせる証言が相次いだものの、それらはあくまで個々の証言にとどまり、裁判所が「公安部によるねつ造事件であった」と評価するだけの事実認定には至りませんでした。

一審判決では原告が目指していた「事件が意図的に作り上げられたものであるところまで認めさせる」という最終目標までには及びませんでした。

▶︎一審判決文はこちらから

▲一審判決後の様子(CALL4撮影)

続く控訴審判決は、捜査機関解釈を採用するにあたっての経産省との打合せの経緯を丁寧に追っています。

経産省の担当者は、2018年2月2日までは、「殺菌」につき捜査機関解釈を採用することについて一貫して否定的であり、その理由も相当具体的に詳細であって、かえって、大川原化工機に対し明確に説明できる解釈ではないという趣旨のことを述べていました。したがって、本件噴霧乾燥器が規制対象貨物に該当するという立場をとるについても消極的であったとしています。

ところが、同月8日以降、経産省担当者は方針を転じ、公安部が捜索差押えを行うことについては容認する姿勢を示します。捜査機関解釈を採用する旨明言したものではなく、捜索差押えを認めるという限度で、噴霧乾燥器が規制対象に該当する可能性を肯定するに至りました。

このような経産省の方針変更は、「2月2 日から8日までの短期間にされたものであるが、それまで担当者が指摘していた疑問点について具体的にどのような論拠によって疑問が解消されたかについて、打合せの経緯をみても明らかではない」。

公安部長から経産省への働きかけの認定までは難しくとも、その不自然さを指摘します。

そして、捜査機関解釈がもともと公安部内部で捜査方針を固めていく中で形成されていったものであることも踏まえれば、単に経産省が捜査機関解釈を採用する可能性を肯定したからといって、この解釈の合理性を客観的に説明できる状況になったともいえないと指摘するとともに、「殺菌」という不明確な概念について、事後的に行政機関により拡張的な解釈が明らかにされたからといって、その解釈に従うこととなると国民の予測可能性との関係で疑義があると、罪刑法定主義との関係からも疑義を呈しました。

捜査機関解釈がおよそ不合理とまでは言わないものの、これらの経緯を踏まえて、これを前提としてなされた警視庁公安部による逮捕・勾留請求、検察官による公訴提起には合理的根拠が客観的に欠如していることが明らかであるとして、違法と判断。東京都及び国に対して、計約1億6600万円の賠償を命じました。原告側にとって、完全勝訴の判決でした。

▶︎二審判決文はこちらから

社会への影響・インパクト

CALL4を通じて目標金額を超える約232万円の寄付が集まり、200件を超える支援者の声が集まりました。CALL4では2022年1月にストーリー、7月にはマンガで事件の背景や原告らの訴えを発信しています。

一審の証人尋問を契機に多くのメディアを通じてこの問題が広く報道され、「これは一企業の不運ではなく、誰にでも起こりうる人質司法の問題だ」 「技術や輸出管理の実態を無視した捜査がえん罪を生んだ」 「個人の悲劇で終わらせず、司法の構造そのものを見直すべきだ」といったコメントが寄せられ、原告らへの共感にとどまらず、制度の歪みの是正を求める声が大きく広がりました。

控訴審判決後、被告である東京都と国に上告を断念するように求める署名は約4万筆以上集まりました。

この訴訟で代理人を務めた髙田弁護士は、寄せられた寄付や関心について、「金額そのものよりも、あえて“寄付”という形で支えてくれる人がいることが、私たちの取り組みが間違っていないという確かめになり、大きな励みになった」と語っています。

また、CALL4やSNSを通じて発信を続けることで、裁判だけでは見えにくい社会の受け止めや関心の広がりを実感でき、長く困難な国賠訴訟を進めるうえで、当事者・弁護団双方にとって大きな支えになったと振り返っています。

▶︎詳しくは、髙田 剛弁護士への「終結インタビュー」でご紹介しています 

この判決を受けて、捜査機関側でも一定の制度的対応が示されました。

最高検察庁は、控訴審判決を踏まえた検証結果を公表し、本件のような行政法規違反事件における法令解釈がどのようにあるべきか、がんにより衰弱し治療のための保釈を求めていた相嶋さんの死という悲劇を受けた、被告人の健康を理由とする保釈請求への対応、勾留中の被疑者・被告人の病状把握と情報共有という3点について、全国の検察庁に具体的な通知(2025年8月29日発出、最高検安第95号〜第97号)を発出しました。

また、警視庁においても、控訴審判決が公安部の捜査の違法性を認定したことを受け、捜査指揮系統の機能不全や、捜査方針に反する結果が十分に共有・検討されなかった点などを問題として検証し、「公安捜査監督指導室」が新設されました。
しかし、通知や組織改編それ自体が直ちに実務を変えるわけではなく、それが個々の事件の現場でどのように運用されるのか、捜査の過程において異論や立ち止まりが本当に許容されるのかは、今後の積み重ねによってしか検証できません。

身体拘束や保釈判断のあり方についても、大川原さん、島田さん、相嶋さんを苦しめた論理や構造が、別の事件で温存されていないかを、市民社会が継続的に注視し、記録し、問い続けることが不可欠です。

大川原化工機事件は日本の刑事司法が抱える構造的な危うさを、多くの人に知らしめました。その意味を忘れず、この悲劇が二度と繰り返されないよう、私たち一人ひとりが関心を持ち続けること自体が、最大の再発防止策になるのではないでしょうか。

▲大川原化工機本社前で(撮影:保田敬介)

原告からのメッセージ

皆様のご支援のおかげで、警視庁・東京地検より一応の”謝罪”を受け、国賠訴訟は終結いたしました。
社員を代表して改めて御礼申し上げます。
高裁判決では、捜査(逮捕と起訴)の違法性に加え、“「殺菌」等の解釈について、国民の予測可能性を害し、罪刑法定主義との関係からも疑義がある”とされ、故相嶋氏をはじめとした当社の技術的主張が認められました。
今後は、人質司法、全取調の可視化、さらに安易な逮捕勾留をやめることについての改正のための活動に微力ながら協力していくつもりです。また、当社を含む技術・ものづくりを主体とした企業が、平和を望む世界の人々に役立つものを安心して提供できるよう協力していきたいと思います。
皆様の声に勇気づけられました、ありがとうございます。

大川原正明

皆様のご支援のおかげで、全面的な勝訴となりました。ここに深く感謝申し上げます。
警察・検察には二度とこのような悲惨な事件が起きないよう徹底した検証を切に求めます。そして、真実を証言して頂いた3名の警察官にこそ、警視総監賞を授与するような警察に変わって頂きたいと思います。
また、重要な再発防止策として、全取調べの可視化と被疑者•参考人の独自の録音が許されるよう求めていきたいと思います。
皆様の声に勇気づけられ、今があります。ありがとうございました。

島田順司

皆様のご支援のおかげで、完全勝訴を勝ち取ることができました。
国賠提訴の時には想像できませんでしたが、この事件は恣意的で悪意にまみれた警察犯罪でした。そのような中でも、勇気を持って真実を語ってくれた3名の警察官、その他さまざまな形で捜査の問題点を指摘していただいた現職警察官には敬意を表します。
本訴訟を通じて刑事司法の様々な問題点が浮き彫りになりました。これからは警察、検察、そして裁判所が透明性のある検証を行い、刑事司法が1日も早く正常化することを願っています。

相嶋静夫遺族一同

こちらもcheck!
[公共訴訟が残したものVol.2 インタビュー編]原告代理人の髙田 剛弁護士に聞く
終結インタビュー「大川原化工機事件」
参考資料:和田倉門法律事務所note(https://note.com/wadakura

⽂/柬理美結(CALL4)
デザイン/関かおる(CALL4)
編集/丸山央里絵(CALL4)