2022.12.30

ウィシュマさん裁判報告・交流集会レポート

ウィシュマさん名古屋入管死亡事件の現在とこれから
2021年3月6日、名古屋出入国在留管理局(名古屋入管)の収容施設内でスリランカ出身のウィシュマ・サンダマリさんが亡くなりました。体調不良を訴え、入管にくり返し、点滴や外部の病院での診察を依頼しながら、適切な医療を受けられずに命を落とした彼女の死の真相究明と、家族への賠償を求め、2022年3月4日、原告代理人弁護団は訴訟を提起しました。

CALL4でも支援中の「ウィシュマさん名古屋入管死亡事件」裁判に関連して、2022年11月23日、名古屋市内で「1123ウィシュマさん裁判報告・交流集会」が開かれました。

裁判はどのように進んでいるか。ウィシュマさんの死後、入管側の被収容者への対応に変化はあるのか。弁護団、そして支援者の声を通じて、報告集会の様子を伝えます。
▲現地会場は満席。オンラインでも200人近くが参加した

【弁護団からの報告】

●収容の違法性について/永井康之弁護士

今回の事件では、医療、そして収容の面から違法性を主張しています。私からはウィシュマさんを収容したこと、そして日本の入管収容制度そのものの違法性について話します。

ウィシュマさんは日本の子どもに英語を教えたいと、2017年6月、千葉県の日本語学校に留学しました。スリランカ人の男性と交際開始後、学校に通わなくなり、2018年9月21日に難民申請します。2019年1月21日に在留期間更新が不許可になり、在留資格を失い、同じ日に難民申請を取り下げています。

2020年8月19日に交番に行き、入管法違反で翌日名古屋入管に行った際の所持金は1350円でした。当初は帰国を希望していましたが、コロナ禍、スリランカ便は停止中でした。また10月14日、交際相手から、警察に自分のことを話したウィシュマさんを咎(とが)め、帰国したら罰を与えると書かれた手紙が届いたことから帰国を恐れ、支援者から仮放免(※1)を勧められ、残留に翻意します。その直後から、入管職員の態度は高圧的になりました。

2021年1月4日、ドメスティックバイオレンス(DV)と手紙による脅迫を理由に、一度目の仮放免を申請した頃からウィシュマさんは体調を悪化させています。調査報告書に「仮放免を許可すれば、ますます送還が困難になる。一度、不許可にして立場を理解させて、強く帰国を説得する必要がある」とあり、入管は尿検査の結果、飢餓状態と判明した2月15日、仮放免を不許可としました。

2月22日に二度目の仮放免申請をし、体調不良から外部の病院での診察を希望しますが、収容は解かれず、3月6日に亡くなりました。

今回の問題は、入管が自分たちのルールにも反していた点です。入管のDV措置要領では、DV被害者の退去強制手続きを進める際、婦人相談所に協力を求めた上で被害者であることを重視し、なるべく早く身体拘束を解き、仮放免の手続きをとるように定めています。ところが最終調査報告書によれば、職員はこのルールがあることすら認識していませんでした。

入管は2018年2月18日、2020年4月27日に仮放免についての通達を出しています。二度目の通達ではコロナ禍を配慮し、積極的に仮放免を出すよう指示しています。ウィシュマさんにも新たなルールを適用すべきなのに、古いルールによって仮放免を不許可にしました。

入管はなぜ内部のルールも、被収容者の尊厳を守るという職務も理解していなかったのか。原則収容主義を取る入管は、身体拘束して退去手続きをおこないます。司法審査も収容期間の上限もなく、仮放免は例外的で、国際的には恣意(しい)的拘禁といわれ、日本も批准している「収容は限定的に」という自由人権規約(※2)にも違反しています。

つい最近も、収容の上限期間を設定するとともに、司法審査を導入し、収容は最後の手段としておこなうよう、日本は国連から勧告を受けました。

入管職員の意識は国際社会の常識とかけ離れている。事件の背景にはそんな状況があります。

※1:入国者収容所に収容者について、情状などを考慮して、一定の条件のもとに収容停止して身体の自由を回復させること。審査が入管側によって行われ、判断基準が法律上明記されていないことや司法による審査の仕組みがないなど問題点が多いとされる。

※2:人権保障を規定する多国間条約で、1976年に発効し、日本は1979年に批准している。

▲解説する弁護団

●医療の違法性について/上林恵理子弁護士

ウィシュマさんは2020年8月20日に収容され、2021年3月6日に亡くなりました。健康だった人が7カ月足らずで死亡したのは、入管職員がたくさんの兆候を見過ごしたからです。その一つひとつを見ていく必要があり、弁護団は国側入管の被収容者への責任について法律的なところで争っています。

私たちは医療の違法性について、以下の3つのフェーズに分けて主張しています。

 1.収容から5カ月後、ウィシュマさんの体調が目に見えて悪化した1月半ば以降。
 2. 尿検査でケトン体3+という大変な数値が出たのに、何もしなかった2月15日以降。
 3.明らかに異様だったウィシュマさんを救急搬送しなかった3月4日~6日。

1月25日の検査で、ウィシュマさんのケトン体の数値は1+でした。身体は栄養が足りなくなると糖を、糖もなくなると脂肪をエネルギーにします。その際、生じるのがケトン体で、ケトン体が増えると、身体は酸性化します。ケトン体は通常マイナスで、1+でも経過観察が必要ですが、入管はこのとき継続して検査をおこなっていません。

1月28日には血の混じった嘔吐(おうと)をし、2月3日頃からは面会に車椅子で現れ、支援者が外部病院で医療受診を申し入れしています。

2月5日、外部の消化器内科の医師は「異変なし」と診察しますが、嘔吐で服薬できないのであれば、と点滴を勧めます。本人も点滴と入院を希望しましたが、入管は対応しませんでした。

2月15日に名古屋入管でおこなった尿検査の数値は、ケトン体3+という明らかに異常な状態を示していましたが、このときも入管は血液検査をしていません。職員はまず、被収容者の訴えを詐病(さびょう)と疑うところから始めているのです。

死後の調査では看護師はこの数値を入管の医師に伝えたといっていますが、医師は尿検査の結果を伝えられたか覚えていないと答えています。

ウィシュマさんは身体が酸性化したため痺れや幻聴などが生じていたのに、入管は彼女を精神科に連れていき、医師は身体に合わない、強い薬を大量に処方しました。意識が朦朧(もうろう)とし、血圧を測れない状態になっても、これを薬の影響だと、職員は事態を異常なことと受け止めませんでした。

このように入管は各フェーズですべきことをしていませんでした。入管には2月22日から亡くなるまでのビデオがあります。入管は報告書を出していますが、そこに記載のない事実もあり得るので、まずはビデオの開示後、2月22日以降の違法性を主張する予定です。

▲元気だった頃のウィシュマさん(左から二番目)とスリランカに住むご家族

●ビデオ開示についての現状/川口直也弁護士

2022年3月4日の訴訟提起前から、弁護団はずっとビデオ映像の開示を求めています。2021年9月24日に名古屋入管で証拠保全の手続きをしましたが、国側に提出する様子はなく、裁判所にビデオの提出を命じてもらうため、本訴提起以後、文書提出命令の手続きもおこないました。

その後、2回目の期日で裁判所が職権により5時間分の映像を開示するよう指示したことを受けて、国は「保安上の措置として、必要なマスキングをした上で証拠として提出する」と、11月14日に回答しています。(※3)

いつ開示してもらえるかについては、まだ回答はありませんが、とりあえず証拠として出されるというのが現状です。

※3:2022年12月12日の第4回口頭弁論で、国は年内に5時間分のビデオを開示することを表明。

●刑事訴訟と検察審査会について/指宿(いぶすき)昭一弁護士

名古屋地方検察庁は、ウィシュマさんが亡くなった直後から、殺人事件として捜査を始めています。ただ、私たちが何度、担当検事に面会しても、捜査上の秘密といって何も話さず、妹さんたちにも話は聞くものの、正式な取り調べをしません。

2021年6月3日、名古屋市立大学の平田雅己先生が名古屋入管を保護責任者遺棄致傷容疑で告発し、11月9日には弁護団が名古屋入管局長らを殺人罪で刑事告訴しました。しかし、その後も説明はないまま、2022年6月17日、嫌疑なしの不起訴処分が下されます。死因を特定できないから、というのがその理由でした。

不起訴処分に不服だったため、私たちは8月8日に検察審査会に申し立てをしました。検察審査会は、市民から選ばれた11名で構成される組織です。検察審査会が起訴相当とすれば、検察は再度取り調べをしなければならず、強制的に起訴することもできます。

では、この不起訴処分のどこが不当だったか。まず、不起訴処分が出た時点で、弁護団は司法解剖の結果の鑑定書すら見ていません。その後、見ることができたものの、本来、複写できる鑑定書について、複写を一切、認めないといわれ、私たちは手で書き写しました。

このとき鑑定書が2つあることが判明しました。検察は不起訴の理由として「死因がわからない」ことを挙げています。たしかに2021年4月18日に出た最初の鑑定書では死因不明となっていますが、二度目の鑑定書では死因が書かれているんです。

実は小林検事は8月12日、二度目の鑑定を依頼しています。その2日前、2021年8月10日に入管庁が出した最終報告書に、中間報告書にはなかった2月15日の尿検査の結果、ケトン体3+が記されていました。おそらくこれを受けて、小林検事は再鑑定を依頼したのでしょう。

半年後の2022年2月28日に出た二度目の鑑定書では、脱水と低栄養に血球貪食症候群が合併した多臓器不全と、死因は特定されていました。この死因から、殺人罪で起訴できたはずなのに、検察は起訴しませんでした。

私は名古屋入管の幹部に、中間報告書にはケトン体3+中間報告書の記載がなかった理由を尋ねました。彼は「ミスです」としか答えていませんが、隠しきれなくなったのでしょう。

死因がわかっても、検察はこれでもかという感じで、殺人罪は絶対成立しないことを立証しようとしています。普段の刑事事件とはまるで異なる対応です。私には、名古屋地検は身内の入管をかばっているとしか思えません。

検察は権力者の犯罪に、とりわけ法務省など身内の犯罪に信じられないほど甘い。このことが、今回の不起訴で明らかになったと思います。

ウィシュマさんの死亡について、誰も責任を取っていません。今回だけではありません。今まで入管内で起きた死亡事件についても、誰も責任を問われていません。だから同じことが繰り返されるんです。この状況を検察審査会で覆すため、全力で取り組んでいます。

検察審査会に声を届けるための署名運動にも、ぜひ協力をお願いします。
#JUSTICEFORWISHMA ウィシュマさんのご遺族による、検察審査会への審査申立を応援して下さい!

▲名古屋入管死亡事件弁護団

【支援者からの報告】

弁護団からの報告、妹のワヨミさん、ポールニマさんからのメッセージに続いて、名古屋を拠点に支援活動をしているSTART、関東を中心に活動しているBOND(外国人労働者・難民と共に歩む会)、関西を中心に活動しているTRY、ウィシュマさんのお骨を預かっている明通寺のご住職、愛知キリスト教団の牧師さん、仮放免が認められたらウィシュマさんと一緒に暮らす予定だった支援者の真野あけみさん、そして名古屋市立大学准教授の平田雅己さんが、ウィシュマさん、名古屋入管、そしてこれまでの裁判について報告しました。

●入管は世間の関心が薄れるのを待っている

国側に謝罪の姿勢が一切ないこと。証拠提出を引き延ばすなど、裁判所より自分たちのほうが立場は上だといわんばかりの傲慢(ごうまん)さで、無責任な態度を取り続けていること。世間の関心が薄れるのを待っているだけで、人の命が失われたことなど何とも思っていないこと……裁判を傍聴している支援者は一様に、入管側の不誠実さを訴えました。

名古屋入管では、収容に耐えられない人を拘束し続け、仮放免を認めない状況が今も続いています。体調不良を訴える人を薬漬けにしている。身体拘束や人権侵害を続ける入管にハンストで抗議する被収容者や、半年を超える長期被収容者を牛久市の東日本入国管理センターに移送している。また、これまで支援者が申し入れなどをおこなう際の窓口だった処遇部門と直接、やりとりができなくなり、窓口は総務課だけになるなど、名古屋入管の対応は明らかに後退し、ますます閉ざされた入管になっているといいます。

名古屋入管を保護責任者遺棄致傷容疑で告発した、名古屋市立大学の平田雅己さんは、

「入管施設は税金で成り立っています。公共施設で何人もの人が亡くなっているのに、これまで職員の誰かが起訴、逮捕された事例はひとつもありません」と、告発した理由を述べました。

ウィシュマさんのお母さんも“なぜ警察ではなく、問題を起こした当事者である入管が取調べをしているのか”といったように、身内が身内を調査する状況では、入管は変わりません。

▲名古屋入国管理局

●密室の人権侵害を伝えるためにもビデオ開示は不可欠

大阪入管で面会活動を続けている支援者は、救急搬送の必要があったのに適切な対応をせずに亡くなった被収容者の2週間分のビデオを入管が上書きして残さなかった事例と、後ろ手錠で14時間懲罰房に入れられた被収容者への懲罰の実態が、ビデオ開示によって明らかになった事例について話しました。こうした例からも、密室の人権侵害を社会に伝えるためにはビデオ開示が不可欠です。

市民に何ができるか。参加者からの問いに、指宿弁護士はこう答えています。

「今は直接のデモや署名だけでなく、SNSなどもあるので、それぞれの方法で情報を発信し、声をあげることが可能です。地域や大学で入管問題の勉強会や、映画の上映会を企画するなど方法はいろいろあります。名古屋、東京では、2023年3月6日の3周忌に合わせて、ウィシュマさんの事件を題材にした劇の公演準備も進められています。

その上で、もし機会があれば、支援団体に連絡を取って被収容者に面会してもらえたらと思います。

入管がなぜこれほどひどい人権侵害を続けるのか。一般市民に入管内のことが、ほとんど知られていなかったからです。入管というブラックボックスを可視化するためには、市民が目を向け、声をあげることが必要です。市民が声をあげれば、メディアはそれを報道します」

入管が狙っているのは世間の関心が収まること。だからこそ、入管制度を抜本的に改正するためには、活動が尻つぼみにならないよう、入管に目を向け、声をあげることが大切なのです。

下記の関連ケースから裁判へのご支援をお待ちしております。なお、ケースページでは訴訟資料もご覧いただけます。

⽂/塚田恭子(CALL4)
編集/丸山央里絵(CALL4)