2021.4.7

「同性同士を事実婚と認めない?」社会通念というブラックボックス

犯罪被害の遺族給付金訴訟をめぐって

人間が感じる痛みに違いはない

20年以上連れ添いともに生活をしてきた同性パートナーが自宅で殺害された。残されたAさんは精神的な打撃を受け、仕事の継続が困難になった。心と身体が不安定になり退職を余儀なくされた。自宅が殺害現場となったため、事件後安価で自宅を手放し住居を失った。事件をきっかけに経済的困窮に陥った。それでも、生きて行かないといけない。

Aさんはこのような状況に陥った被害者に給付されるべき「被害者等遺族給付金」の支給を求めて訴えを提起しました。しかし、名古屋地裁は「同性事実婚と異性事実婚を同等に扱うための社会通念が醸成されていない」とこれを棄却しました。

かけがえのないパートナーを犯罪被害により失うことの心の痛みは、同性カップルであろうと異性カップルであろうと違いがあるはずがないと思いませんか?

2021年3月17日札幌地方裁判所において、以前から提起されていた同性婚訴訟について非常に画期的な判決が下されました。札幌地裁は、同性婚を認めていない法律は憲法14条に反する合理的な理由を欠く差別である旨を明示的に認めました。被害者等遺族給金訴訟とこの同性婚訴訟の問題の根幹は同じだと思っています。

すなわち、同性同士であろうと異性同士であろうと公的に、社会保障的に平等であるはずであるという点です。

「社会通念」というブラックボックス

2014年12月、Aさんは約20年連れ添った同性のパートナーを殺害されました。精神的打撃を受け、心身と生活の平穏を保つことが困難となったAさんは犯罪被害者等給付金の申請をしました。

犯罪被害者等給付金制度とは、 社会の連帯共助の精神に基づいて、殺人罪等の故意による犯罪行為により死亡するに至った被害者の遺族等に対して国が給付金を支給する制度です。当該制度の目的は、犯罪被害者の受けた各被害の早期の軽減・回復及び平穏な生活支援です。その対象は,重大犯罪の被害者の遺族又は重傷病若しくは障害という重大な被害を受けた犯罪被害者の方とされています。

しかし、Aさんの申請は却下されてしまいました。そのため原告Aさんは愛知県公安員会が不支給とした裁定の取消訴訟を2018年7月、名古屋地方裁判所に提起しました。

けれども2020年6月4日、名古屋地方裁判所はAさんの請求を棄却します。理由は、異性事実婚の当事者とは異なり、同性事実婚の当事者は「配偶者」には含まれないと解釈したからです。

名古屋地裁の請求棄却を受け「不当判決」と訴える原告弁護団

「犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律」(以下、「犯給法」と記載します)はその5条1項1号において、「配偶者」に犯罪被害者給付金を支給する旨を明記しています。また同条項1号は、「配偶者」には「婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含む」と規定されています。

名古屋地裁は、同性事実婚の当事者は同条項1号にいう事実上の婚姻関係と同様の事情にあった者には当たらないと判断したのです。何故でしょうか。

以下、原審判決を引用します。

「税金を財源にする以上、支給の範囲は社会通念によって決めるのが合理的だ」
「本件処分当時(平成29年12月)においては、同性間の共同生活関係に関する理解が社会一般に相当程度浸透し、差別や偏見の解消に向けた動きが進んでいるとは評価できるものの、・・・本件処分の我が国において、同性間の共同生活関係を婚姻関係と同視し得るとの社会通念が形成されていたということはできないというほかない。」

要するに、同性事実婚の当事者と異性事実婚の当事者とを別異に取り扱っているのです。同性事実婚の当事者が約20年間連れ添い、同居し、同じ時間を過ごしても保護の対象にはなりません。一方で異性事実婚の当事者が約20年間連れ添えば保護の対象になります。違いは“異性か同性か”この一点だけです。名古屋地裁がこのように判示した理由は、「両者を同等に扱うべき社会通念が形成されていないから」と言うのです。

マイノリティが排除されない社会へ

近年、各地方自治体が同性パートナーシップに関する公的認証制度を設立しており、これは公的に同性カップルを保護しようとする表れであるといえます。また民間企業における同性間の共同生活関係に対する対応の変化は、異性事実婚の当事者と同性事実婚の当事者を同等に扱うべき社会通念が存在する理由となると指摘できます。

さらに、日本国内における同性婚へ向けた裁判所や立法の動きが加速しています。

冒頭で言及した2021年3月17日札幌地裁において出された「結婚の自由をすべての人に」訴訟(同性婚訴訟)の判決は極めて大きな意味を持っていると思います。この裁判においては、法律上同性同士の婚姻が認められていないことは、法の下の平等を定めた憲法14条に反しているという主張が認められました。

以上の事実は、「同性と異性カップルを別異に取り扱うべきでない」という社会通念が存在することの証左と言えるのではないでしょうか。

Aさんは現在、不平等な現状を変えたいと思い声を上げることを決意して、控訴審をたたかっています。札幌地裁が同性婚へ向けた画期的な判断をしたように、犯罪被害者等遺族給付金訴訟についても、不平等な現実を変えていけるはずです。

控訴審においては、名古屋地裁の出した原審判決の不合理性を指摘するために複数の主張がされています。

例えば、同性カップルと異性カップルを別異に取り扱うべきでないという社会通念は、すでに形成されていることが指摘されています。また名古屋地裁の原審判断は、法の下の平等を定めた憲法14条に反する不合理な差別である旨の主張がなされています。

「知る」ことが「つぎ」に繋がる

犯罪被害者等給付金訴訟は、一個人の事件で留められるべき問題ではないはずです。マイノリティが排除されない社会を作るのは私たちすべてにとっての問題であり責任だと思います。

私自身、CALL4においてこのコラムを書くことになるまで、犯罪被害者等給付金制度に関する訴訟提起がされていることやAさんの存在を知りませんでした。でも知ったあと、この情報を発信したいと思いました。なぜなら、私たち自身の問題であると強く思ったからです。

私は、イタリア・ミラノに最後の晩餐を一人で鑑賞に行くほどにレオナルド・ダ・ヴィンチが好きです。彼はカメラのない時代に精緻な絵画を描いていたことで有名ですが、建築学、都市工学、機械工学、物理学、解剖学、植物学等にも精通し、果ては軍事技術者としても重宝されていたと言われています。

その彼はこんな言葉を残しています。

「知ることが少なければ、愛することも少ない」

犯罪被害者等給付金制度の解釈・運用に関して問題があること、訴訟が提起されていることを多くの方に知ってもらい、Aさんの心の痛みに思いを馳せてもらえたらと思います。知ることがきっとつぎの何かに繋がると信じています。

SNSで今回知って頂いた情報を拡散することや、友人・知人に感じたことを話すということもそのうちの一つであると思います。CALL4のサイトで実施している訴訟費用を募るクラウドファンディングへの寄付は、心強い支援にもなります。私自身も引き続き、できることはないかと考え行動をしていきたいと思います。

⽂/丹山美祐(CALL4)
編集/丸山央里絵(CALL4)