2020.9.29

提訴会見レポート〜「セックスワークにも給付金を」訴訟〜

2020年9月23日、「セックスワークにも給付金を」訴訟(「持続化給付金等支払請求事件」)が東京地方裁判所に提訴されました。

同日14時から原告弁護団による記者会見が行われました。

この訴訟は、性風俗事業者が持続化給付金などの支給対象から外されたことを受け、関西地方の株式会社が国などを相手に給付金の支払いなどを求めて提訴したものです。

会見の流れに沿う形で会見内容をまとめました。

1 :訴訟の概要

出口弁護士より訴訟の概要が説明されました。

「この訴訟の原告はデリバリーヘルス業を営む関西地方の株式会社1社です。原告は主に、国を相手方として、持続化給付金200万円と家賃支援給付金96万8000円を合計した金額(296万8000円)を支払うよう請求しています。」

(この主位的請求が認められなかった場合に、予備的請求として、原告が持続化給付金給付規定9条1項に定める贈与契約上の地位を有することの確認等も請求されています。)

2 :この訴訟の法的な意義

弁護団長の平弁護士から、この訴訟は、憲法14条に違反する職業差別を是正して、立憲主義と法治主義を取り戻すという法的な意義があることが強調されました。

「今回の持続化給付金の給付を受けるための申請は、申請者と国との間で結ばれる行政契約という法的性質によるものです。この行政契約は、普通の民間の契約とは異なります。その契約の内容に不平等・不公正なものが含まれることは認められない、という原則があります。

ところが、持続化給付金や家賃支援給付金の規定では、特定の性風俗事業者には給付金を支給しないと定めています。風営法や売春防止法その他の法令を守り、納税等もしっかりしている業者も、一律に排除されています。このような規定は、法の下の平等を定める憲法14条1項に違反しています。

また、国は規程を設けるにあたり多くの事柄を検討する必要がありますが、今回の規程には考慮されるべき事情が十分に考慮されていません。給付金を誰に支給するか、あるいは支給しないか、という方針についての国の裁量権に逸脱濫用があると考えています」

3 :提訴にあたっての原告のコメント(三宅弁護士より代読)

「性風俗産業は古くから産業として存在し、多くの人が働いています。バブル崩壊後の景気悪化につれて性風俗業界も厳しくなっていると聞いていましたが、今回の新型コロナ感染拡大で一気に危機的な状況になりました。
私の店を例に挙げると、今年3月から売上が減り始め、4月には緊急事態宣言に基づく休業要請を受けて休業したこともあり、売上は8割以上減りました。

休業の判断はとても迷いました。

これまで性風俗店は対象外だった雇用調整助成金が今回は対象になったり、小学校休業等対応助成金も対象になったので、持続化給付金も対象になるのではないかと考え、また、万が一、店のスタッフやお客さんに感染者を出してしまっては悔やんでも悔やみきれないと思い、断腸の思いで休業を決断しました。それだけに、持続化給付金については性風俗店は対象外と知ったときのショックは大きかったです。

対象外となった理由は、「社会通念上、公的資金による支援対象とすることに国民の理解が得られにくい」とのことですが、なぜ「国民の理解が得られにくい」のか、これまでの国の取り扱いが本当に正しかったことなのか、わかりません。このような曖昧な説明では、国が性風俗業で働く人の尊厳を無視しているように感じます。

差別や偏見のない社会を目指すことは、国が率先して取り組むべきことだと思います。世間の偏見や差別感情、スティグマを国が助長させるようなことをしてはいけないと思います。これまで国が、性風俗業について曖昧な扱いをしてきたから説明ができないのだと想像します。きちんと向き合ってほしいです。
今回の訴訟で、この職業に対して偏見を持つ人が減ったり、職業差別についての意識が変わったりすると嬉しいです。そして、性風俗に関連する風営法などが、そこで働く人たちの安全を重視したものに変わる足掛かりになればとも願います。」

4 :この訴訟の社会的な意義

続けて、亀石弁護士がこの訴訟の社会的意義を語りました。

「コロナウイルスの感染拡大により、国民の生命を守るために、営業の自由や集会の自由、移動の自由など、今まで当たり前だと思っていた私たちの様々な権利・自由が制約を受けざるを得ないという状況になっています。一方で、社会の秩序や道徳というものを優先するがあまりに、憲法上の権利・自由が非常にたやすく制約・減縮されてしまうという状況も見られています。
今回、性風俗事業者が持続化給付金等の支給対象から除外されているということは、まさにこのコロナ禍が浮き彫りにした職業差別だと思います。国のいう、社会通念や道徳、国民感情といった、あいまいな理由で差別をしてよいのでしょうか?

司法は、このような差別を推認するのではなく、しっかりと向き合って答えを出してほしいと思いますし、こういうときだからこそ、憲法上の価値を守る・理念が実現されるべきだと思います。そして、この訴訟にはこのような社会的意義があるのだということを、ぜひ多くの方々に知ってほしいと思っています。」

5 :記者からの質問

Q 持続化給付金と家賃支援給付金について、原告は申請をしたが通らなかったということでしょうか?その理由は示されていますか?

A→「現時点で、『申請したが却下された・通らなかった』ということはありません。
持続化給付金・家賃支援給付金のどちらとも、ウェブサイトから申請する仕組みになっています。申請をしようとすると、途中の画面で、不支給とされている者(宗教上の政治組織や政治団体など)でないことの確認があり、「あなたはこれらに該当しませんね」というチェックをつけなければ次の画面に進めないという仕組みです。そのため、原告はウェブサイト上で申請行為を完了できなかったことから、9月9日に事務局宛に郵送で申請を行いました。9月23日時点において、申請に対する応答や何らかの処分はなされていません。

また、そもそも規定において性風俗営業者が給付申請の対象外とされているということで、原告は今回の訴訟に踏み切ったということです。」(福田弁護士)

Q “性風俗事業は犯罪の温床になりうる場所だから、そのような事業者に給付金を出すのはどうなのか”といった否定的な意見についてどう捉えていますか?

A→「まず、事業者、お店という存在があるからこそ、働くキャストさんが怖い目に遭ったりするところから守ることができるという面があると理解しています。

1人10万円の定額給付金はキャストさんも給付の対象とされているからいいだろうという話ではありません。事業者が今回持続化給付金などをもらえないために潰れてしまって、キャストさんが個人で仕事をしなくてはならなくなった場合に、お客さんと接する中で怖い目にあったりとか、ストーカーの被害にあったりするといった危険にさらされやすくなるのです。

そして、国はこれまで、性風俗事業者というものを社会の、法的保護の外に置いてきました。社会のシステムとして、なにか問題が生じたときに、性風俗産業に関わる人たちが警察に相談したり、法的に守ってもらうということが難しくなっていると思います。そのために、怖いことがあっても相談できない、助けを求められない、という状況が起きていると思います。

キャストさんをそういったトラブル・危険から守るためにも事業者を守らなければならないし、ほかの業界の事業者と同じようにきちんと法的保護の中に入れるということが必要だと思います。」(亀石弁護士)

Q クラウドファンディングにどのような声が寄せられていますか?

A→「当初の目標金額は300万円でしたが、これは4日ほどで達成することができ、現在は次の目標である600万円に向けてご支援を募っています。

支援者以外からは、“税金を払ってないのだから給付金ももらえなくて当たり前だろう” 、“犯罪の温床になっている、反社会的勢力と繋がっている”、といった声もありました。違法行為をしている一部の事業者がいることから、性風俗事業者全体に悪いイメージがある人が多いのだと感じました。

一方で、同業者の方々からは、“今まで声をあげられなかったけど、こういうふうに社会から排除されているということがおかしいと思うし、勇気を出して訴訟を起こしてくれてありがとう”、という声もありました。
また、性風俗産業のサービスを利用する方々からのご支援の声もあります 。
それから、“性風俗事業者に対して自分の中に偏見があったことにも初めて気づいた、だけど差別をすることはおかしいんじゃないかと考えさせられて、今回支援をしました”という声も多くいただいています。

今回の訴訟・クラファンによって、初めてこの問題に気づき、考えるきっかけになったという方々が多いということは、この訴訟を提起した意義の一つとして重要だと感じます。」(亀石弁護士)

「CALLサイトの『支援者の声』というところに、何百名という方々の声が実際に載っていて(以下のリンクをご参照ください)、弁護団も一つ一つ読んでいます。この訴訟には、こういった“声なき声”のようなものを拾って司法の場で訴えていく、という側面もあると考えています。」(平弁護士)

Q 歴史的に見ても、性風俗事業者に対して給付金が支給されないという事例はこれまでもあったようですが、なぜ今回は提訴するということになったのでしょうか?

A→「性風俗事業者が給付金不支給となるということは起きていたはずですが、問題提起する弁護士や当事者がおらず、差別は仕方のないものだと諦める当事者が多かったということだと思います。」(平弁護士)

「今回の訴訟の特殊性は、コロナウイルスにあると思います。コロナウイルス感染対策に関しては、どの事業者も等しくダメージを受けており、性風俗事業者も例外ではありません。それでも、性風俗事業者だけが明確に排除されている点には差別を感じたのだと思います。
原告は、持続化給付金が業種にかかわりなく幅広い業種を支援しようということで作られたことを知り 、いざ活用しようと思って申請しようとしたら、自分たち性風俗関連特殊営業の事業者が対象外となっていると気づき、国に約束を裏切られたという思いを抱いた、この思いが今回の訴訟提起につながりました。」(福田弁護士)

(安倍晋三前首相は、令和2年4月14日に開かれた衆議院本会議にて、柚木道義議員からの質問に対し、「事業者への現金給付については、過去に例のない措置でありますが、今般の感染症により休業を余儀なくされた事業者のみならず、売上げが大きく減少した中堅企業、中小・小規模事業者を業種にかかわりなく幅広く対象とするものです。」と答弁していました。国会会議録より)

Q 今後、ほかの同業者を含めて集団訴訟となる可能性はありますか?

A→「私たち弁護団は、原告の株式会社1社からご依頼を受け、今回の訴訟を提起しております。現在はこちらの訴訟に集中しており、他の同業者を含めての集団訴訟を組織するということは予定しておりません。」(平弁護士)

6 :提訴会見を終えて

提訴会見の内容は以上となります。

今回、提出された訴状を読み、提訴にあたっての記者会見に足を運んでみて、原告が休業を決意した決め手の一つに、安倍前首相が「持続化給付金は“業種にかかわりなく幅広く”」という言葉があったこと、その意味する重大さに気づかされました。

緊急事態宣言が発令された4月初旬以降、“休業要請するなら補償を”という声が多くの業界から叫ばれ、休業や営業時間短縮等の要請に従った事業者には支援金が支給されました(多くの都道府県において、性風俗店もこの支援金の支援・支給の対象とされました)。

中小企業や個人事業主等を対象とした持続化給付金は、9月21日までに約336万件、額にして約4.4兆円の支給が完了しています(経済産業省「持続化給付金の給付についての現在の状況」)。

これらの“補償”は、多くの事業者にとって、倒産・廃業を避け、営業を続けていくための足がかりとなっていると思われます。

自身はこれらの支援金・給付金の対象ではありませんでしたが、4月中旬に、“1人につき10万円を支給する”という特別定額給付金事業が決定した際、一種の喜びを感じました。所得や居住地にかかわりなく、個人レベルで一律に給付されるという点に、多くの人は多少の差はあれ、安堵の感情を覚えたはずです。

もし仮に、自分の勤める企業や業種、また住んでいる地域を理由として、ピンポイントで「あなたたちには支給しませんよ」と意味なく決められてしまったら、「なんと理不尽な!」と呆れ、怒りがこみ上げてきます。また、「どのような基準でそう決まったの?」と聞きたくなると思います。

今回の訴訟の原告が「なぜ自分たち性風俗事業者が支給対象から外されているのか?」と主張するその中心には、このような怒り・素朴な疑問があると感じました。安倍前首相の“幅広い業種に”という言葉は一体なんだったのだろうと。

そもそも、国が特別の給付金を新設し、給付規程を定めることになった時、国には、誰に給付するか、あるいは誰に給付しないかなどの点について裁量権が認められます。

しかし、特定の組織や事業者を支給の対象から外す場合には、それらの者には経済的な不利益を被ることになるのですから、なぜ外すことに決めたのか、どのような要素・基準によって外すと判断したのかについて、国の決定には公正さが求められます。

性風俗事業者に支給しないことを決めた理由について、国が“社会通念”や“国民感情”などといった曖昧な事情をあげるのであれば、風営法などに則って適切に営業している性風俗事業者に対する職業差別を正当化することになるばかりか、社会的な「スティグマ」を助長することになってしまいます。

性風俗関連業者の中で、法律に違反して営業を行う事業者や、暴力団や反社会的勢力と繋がりのある組織が存在することを前提とするとしても、性風俗業者を一律に給付金の支給対象から外し、“排除”を行うことには合理性がないといえます。

このような、性風俗事業者に対する国からの不公正・違法な取扱いが解消されることが原告当事者・弁護団の主張です。

今回の「セックスワークに給付金を」訴訟は、持続化給付金の支給対象から外された性風俗事業者が法的な手段に出た、初めてのケースとなります。

被告である国がどのような応答・主張をし、裁判所がどのような判断をするのか、多くの人が注目するこの訴訟の審理を、CALL4としても今後も追って行きたいと思います。

なお、この訴訟は憲法訴訟ということもあり、長期戦が見込まれます。既にご支援いただいている方も多くいらっしゃると思いますが、この訴訟を知り原告の主張にご賛同いただける方は、ぜひ下記のクラウドファンディングページにてご支援いただければと思います。また、合わせてストーリーページもご覧ください。

⽂/鹿島 彩(CALL4)