2020.10.6

あなただけの裁判から、みんなの裁判へ|社会はもっと良くなる!

CALL4 1周年イベントレポート Vol.1

こんにちは、CALL4の編集部です。今回はイベントレポート第一弾として、9月10日に開催された公開トークライブの模様をお届けします。

公共訴訟を考えるDay1:社会はもっと良くなる!公開トークライブ
日時 :2020年9月10日20:00~21:10
登壇者:※五十音順、敬称略
・伊藤詩織(ジャーナリスト)
・望月優大(ライター)
・安田菜津紀(ジャーナリスト)
・MC:谷口太規(CALL4代表・弁護士)

裁判で問題を可視化する

最初のトピックは公共訴訟の役割について。裁判という開かれた場所で問題を取り上げることの意義について、安田菜津紀さんのお話から。

安田菜津紀(以下、安田):
裁判を起こす、尚且つこういうプラットフォームができることによって、問題の可視化をしていくことがまずできると思うんですよね。

社会が抱えている問題って、残念ながら、たくさんの人たちが『これって問題だよね』というふうに共有しない限り、『変えていこう』という声までなかなか辿り着けない
と思うんですよね。でもそれを抱えている人達は、なかなか自分だけでは声を届ける手立てがなくて、だからこそこういう裁判に踏み切る、それを支えるためのプラットフォームというものに意味があるんではないかというふうに思います。

社会をより良く変えていくということは、誰か一人が直面している問題を、多くの人が社会課題として認識するところから始まるのかもしれません。伊藤詩織さんはご自身の被害について提訴することで問題を可視化し、社会に変化の動きを作ってこられました。当初は事件の当事者として、情報開示の難しさに直面したと言います。

伊藤詩織(以下、伊藤):
社会はやっぱり個人一人一人が集まって成り立つものなので、どの一人に起きたことも、カメルーンの方に起こったこともそうですけど、私たちに全て関係していることだと思うんですよね。

自分が(事件の)当事者になってみると、ここまで不透明というか、情報が開示できないとか、捜査の内容について聞くことが難しかったりだとか、防犯カメラの映像は、私からはオープンにできないんですよね。裁判所を通じてやっとそれが開示されたり、それを通していろんな人に対して、エビデンスやそれを集めるプロセスが可視化されるというところが、民事で裁判をやって良かったなと思うところなので。

Youtubeチャンネルのコメント欄にも、こんな声が。訴訟は誰か一人の問題を、わたしたちの問題に変える仕組みなのだと感じました。

kmosさん:「詩織さんの勇気は、今の日本を相当変えてますよ!みんな声をあげて可視化しようという意識になって、可視化するのに声を上げていいんだってガンバルきっかけになっています!ホントに感謝です!」

個人の裁判から、わたしたちの裁判へ

一方で、個人が声を上げることは、とても勇気のいることです。わたしたちの裁判として、当事者を支えるためにできることとは。

安田:
詩織さんが発信してくださっていることは、公共にかなうものだと認められているわけですよね。だからこそ裁判を起こした人に過度に背負わせるっていうことをせずに、CALL4のようなプラットフォームやクラウドファンディングの仕組みが必要になってくるのかなと思います。寄付をするっていうことって、当事者に近づくっていうことだと思うんですよね。「自分が寄付したお金って、その後どんなふうに使われたんだろう」「あの活動って、その後どんなふうに進捗したんだろう」というふうに、心の距離をぐーっと縮めてくれる仕組みがあるんじゃないかという感じがしています。

当事者として訴訟を起こすことから、社会を変えるために誰かと連帯することへ。伊藤さんは裁判を通して、どのように気持ちが変化したのでしょうか。

伊藤:
自分が当事者になって裁判をするということは初めての経験だったので、すごく孤独な気持ちになる道のりでしたね。すごく混乱した時もありました。

2019年4月に私の民事訴訟裁判をサポートしてくださる「Open the Black Box」という支援団体が立ち上がりました。それまでいろんな支援をしたいというお声があったんですけど、どういうふうにそれを受け取っていいのかわからなかったんですね。けれどやはり一人じゃできないというところまで来てしまった時に、「これはあなただけの裁判じゃないんだから、みんなでやるつもりで頼っていいんだよ」って言っていただけて、サポートグループができました。

サポートチームができたことは本当に経済面だけではなくて、最初にずっと感じていた、「個人で戦っている」というところを、「Open the Black Box」という名前の通り、「今までブラックボックスに入っていたようなことを一つ一つこの裁判で見ていこうよ」という姿勢をサポートしてくださる方々とシェアをして進めたというのは本当に精神的なサポートにもすごくなりましたね。

伊藤さんのお話には、Twitterでもたくさんの反響がありました。

外国人の権利と司法

CALL4でも外国人の人権に関するケースを複数扱っていますが、司法は国籍を問わず市民に開かれた仕組みです。続いては、外国籍の方が困難に直面した時、権利が疎外された時、司法が担ってきた大切な役割とその歴史を、望月さんが紹介してくれました。

望月雄大(以下、望月):
日本では戦後ずっと外国人の方に指紋押捺の義務があって、それに対しての抵抗運動が、80年代に盛り上がっていくんです。指紋押捺というのはどういうことかと言うと、国として、外国人の方達を「潜在的な犯罪者」として見るという意味がありました。この場合は外国人が原告として権利を主張するのではなくて、指紋押捺を拒否した人を国が訴えるという形式の訴訟で、訴えられた個人の側が、その裁判の場でいかに指紋押捺という制度が不合理かということを言っていく。これが日本中で一斉に起きて、最終的に90年代に無くなっていくということがありました。

こういった様々な裁判の結果として、特に外国籍の方っていうのは日本では地方参政権も含めて政治に直接議会を通じて関わるということが認められていない中で、やっぱり司法っていうルートがあることによって、社会の変革に関わっていて、重要なルートになっている。歴史的にもそうですし、今CALL4で扱っているケースでもそうであると知って頂けるとすごく嬉しいなと思っています。

日本に住む外国籍の方は、選挙権も被選挙権も持っていない。自分にとって当たり前の権利がないことにはっとする思いでした。

望月:
日本国籍がない方は、国籍を持っている人が当たり前に享受できる権利を簡単に制限されてしまいます。国籍を持っていることがどういう特権なのか、持っていない人達とどれくらい差があるのかを知るためには、国籍を持っていない方がどういう暮らしをしているのか、生々しい現実を知ることがすごく大切。日常の中で感じる不便さとか、日常的に晒されるいじめとか、こういうふうにあるのだと知ってもらうことが、特権の差を認識することにつながる。それは個別の訴訟についてどんな人がどんな状況で、なぜ戦わざるをえなかったのかを知って応援して、共感することともつながっていくことなんだと思います。

共感で社会を変える

まず知ることの次に、私たちにできることは何でしょうか。どうやって関わり、アクションを起こすかについて、議論が展開しました。

安田:
個人を通してこの問題を知った後に、みんなでそれをどんなふうに制度に落とし込んでいきますか、というところまで漕ぎ着けるのがベターかなというふうに思うんですよね。例えばデニズさんのストーリーを読んでいった時に、じゃあ入管の仕組み自体を変えていきませんかっていうふうに落とし込めるところまで、どんなふうに道筋を作るかということだと思うんです。だからこそ、インタビューの中で細やかに言葉を紡いでいるということが大切なんではないかと思うんです。ここだったら共感できるとか、ここには問題解決の糸口があるかもしれないっていうヒントがたくさん散りばめられていることが大切なんだというふうに思います。

個人の物語に共感して、わたしたちの問題として解決の糸口を考えること。そして制度につなげていくには。訴訟と、その次のアクションについて。

望月:
訴訟は個人でできる。それが司法の持っている強みだと思うんですが、最後的に制度につなげる時には、実際に選挙とか政治に関わる権利を持ってる人がやらなければいけないし、数が必要。そうなってくると、一つの訴訟から共感した人が、社会運動とか、直接的に政治に考えを巡らせて行って、入管の問題でも、入管法の条文を変えていこうとすると、国会を通さなきゃいけない。そうすると多数決の論理が働くので、少数者の人が声をあげた声をマジョリティの側が受け取って制度改正につなげていくことで、その裁判をする必要がない状況に、時間をかけてでも繋げていくということがセットで重要なんだと思います。
谷口:
コロナ禍でも目に見えない感染症が非常に差別的な対応をされるということがありますが、ハンセン病の訴訟では差別や偏見をどうクリアしていくのかということに関して、差別意識を持たないような啓発のところまでを裁判の和解条項に入れていたりするんです。

裁判当事者だけではできない大きな動きを作っていくようなことはとても大切
で、CALL4のメンバーの疋田さんが、性犯罪被害を公的にサポートするmimozaというプロジェクトを始めていますけれども、それも伊藤さんが声をあげた裁判の中で影響を受けて、いろんな人が動き出して、大きな動きを作っていくという流れがあってこそ実現していると思うんですよね。裁判だけで終わらせないっていうことも大切なことだと思いました。

伊藤さんは、クラウドジャスティスという、海外の公共訴訟を支えるプラットフォームの取材をされた経験から、イギリスでの、司法で社会を変えるための動きについても紹介してくれました。

伊藤:
資金だけではなくて、コミュニティとしていろんな人が一緒に闘ってくれて、話したことによって、メディアもこの問題について目を向けてくれるようになって、自分が訴えたいことが改善されるように、周りが一緒にウォッチしてくれたことがすごく大きかったと言っていたんですね。

12歳で聴覚障害を持つ男の子が、手話で試験を受けられるように裁判を起こしたケースでは、裁判が始まる前に政府が動いて早急に改善しますという回答をくれたりだとか、アクションを起こすことを可視化することで、周りでも早いアクションが起こるという結果も出ていて、すごく効率的だなと思いました。

共感すること、寄付すること、情報をシェアすること。訴訟やCALL4のプラットフォームを通じて、自分にも社会を変えるためにやれることがある!と勇気が出るトークでした。

今回取り上げたお話は、1時間15分のトークライブのほんの一部です。もっともっと聞いてみたい!という方は、ぜひアーカイブ動画を視聴してみてください。リンクはこちらから↓

⽂/久保田 紗代(CALL4)