2026.1.29

みんなの実践から学ぶ、伝える力で社会に広げる公共訴訟

6周年「CALL4フェス」トークライブレポート

2025年9月27、28日に東京のSHIBAURA HOUSEで開催された6周年記念CALL4フェス。当日は公共訴訟に関心を寄せる多くの方々が、会場に足を運んでくださいました。

DAY1のタイトルは「ともに悩み、ともに挑む、公共訴訟、最前線!」。公共訴訟の最前線で奮闘する弁護士、公共訴訟の役割を社会に伝える担い手、そして原告の方々による3つのトークセッションの様子を3回に分けてレポートします。

支援の輪を広げ、社会の変化を促すためにも、人々の関心を集めることは大切なことです。
トークセッションパート2ではCALL4掲載ケースの主催者への事前アンケートで寄せられた悩みや成功体験から、公共訴訟が社会の注目を集めるためにどんなことができるか。みなさんからの生の声をもとに、亀石弁護士と丸山さんがそれぞれの実践知から何ができるか、実例をあげ、会場とやりとりしながら、セッションを進めました。

登壇者
亀石倫子弁護士
:2009年弁護士登録。主に刑事事件を担当。日本で初めて裁判費用をクラウドファンディングで集める。公共訴訟の専門家集団「LEDGE」の代表理事。
丸山央里絵:ライフスタイル誌の編集長を経て、CALL4共同代表。「LEDGE」ではキャンぺーナーとして活動。

司会進行:木島碧生(CALL4メンバー)
▲トークセッション風景

いちばん多かったのは、社会の関心が広がらないという悩みです。

Case:既婚を理由に法的性別取扱い変更を認めないのは違憲!「なんでうちらが離婚せなあかんの?」裁判
同性婚が認められていない日本では、性別を法的に変更するには婚姻状態にないことが求められます。この訴訟では、男女として結婚した原告が「離婚」か「実情に合わない性別で生きる」かの二者択一を迫られる現状に対し、離婚を強制されることなく性別取扱いの変更を求めています。

現地参加した原告のみきさんは、「これから結婚する人と10年以上も婚姻状態にある人とでは、不利益を受ける場面も程度も違います。婚姻状態を維持する権利の話をするため、そして同性婚訴訟と一緒にされないために訴訟を提起しましたが、本当に関心が広がらないんです」といいます。

ケースごとにハードルは異なるものの、興味・関心をゼロからイチに変えることは容易ではありません。そもそも脊髄反射的に「いいね」を押すような単純な裁判はないなかで、関心を寄せてもらうためにどのようにアプローチするか。亀石弁護士は自身の担当した刑事事件を例に挙げてこう話します。

「私が担当した、警察が容疑者の車に勝手にGPSをとりつけて監視捜査するという事件は『なぜGPS捜査に令状が必要なのか、令状なしの捜査の何が問題なのか』、記者の人たちにも理解してもらえなかったので、とにかく記者の人が腑に落ちるまで、個別対応で説明をしました。メディアに取り上げてもらえれば、届く数が違います。正しく報道してもらうために、記者のみなさんにていねいに説明しました」

そもそも裁判は当事者以外には内容や争点がわかりにくいものです。まずはわかりやすく翻訳することが大事で、そのためには訴訟名ひとつとっても、要点が伝わるように考えてつけていますと、丸山さんもいいます。また、「当事者性を強く感じる方の多い訴訟は広がりやすいけれど、当事者性で広げるのが難しいケースもあります。それを自分ごととして想像してもらうためには、原告個人の物語を、どうやって社会の物語にしていくかが大事だと思います」と、自らが取材・執筆した「恵庭市『障害者虐待』隠ぺい事件」のストーリーを例に、原告の強いナラティブを伝えることで、理解による共感は深まるのではないかと話しました。

Case:恵庭市「障害者虐待」隠ぺい事件 〜元市議への忖度による放置を許さない〜
北海道恵庭市にある牧場で、3人の知的障害のある人たちが劣悪な環境に置かれ、朝から晩まで 365日働かされ、障害者年金も全て搾取されていた事件。牧場主が元市議会議員であることに忖度し、障害者虐待の事実を知りながら隠ぺい、放置した恵庭市の責任を問う訴訟。
ストーリー:「奴隷のような20年間の牧場暮らし。どうして、助け出してあげられなかったのか

たとえばタトゥー裁判(※)も、当事者性では広がりにくいものです。でも、このとき私はタトゥーはあまり好きじゃない、自分に関係ないと思っている人たちにも問題を共有してもらいたいと思ったんです。今までずっと続いてきた職業がある日突然、『医師免許がないから犯罪だ』といわれることがまかり通るような社会で本当にいいのか。そのおかしさを伝えるには、やはり多くの人が理解できることばに翻訳する=説明することが大事なことだと思います」(亀石弁護士)

※大阪のタトゥーの彫り師が医師免許持っていないという理由で摘発を受けた事件。一審の有罪判決後、二審で逆転勝訴した裁判は、訴訟費用をクラウドファンディングで集めた初の訴訟としても注目を集めた。

▲亀石倫子弁護士

次は関心を持ってくださった方々に、その先の寄付や傍聴といった具体的なアクションをどうしたら起こしてもらえるかという課題についてです。

「クラブが風営法で摘発された事件のときは、クラブを会場に前半はシンポジウム、後半はクラブイベントと、2つのイベントをセットにして、飲食代の一部を裁判の寄付に回しました。ケースによって支援者それぞれ関わりやすいアクションがあると思います」(亀石弁護士)

「『立候補年齢引き下げ訴訟』では、20代のユース中心の支援者が、自由に出入りできて情報を受け取ることができるLINEのオープンチャットなど、SNSを活用しています。見ていてこんなふうにコミュニケーションをキープするやり方もあるなと思いましたね」(丸山さん)

また、訴訟についての発信をどのように継続するかについては、亀石弁護士も丸山さんも「裁判は長丁場なので、無理する必要はないし、あまり頑張りすぎるとつらくなってしまいます。意見陳述、証人尋問のある期日で盛り上げるなどメリハリをつければよいのでは」ということで意見は一致しています。

「私が委員を務めているセックスワークに関わる人たちの団体は毎週、セックスワークにまつわる国内外のニュースを発信しています。読む側にとって、こういう動きがあるのかと参考になります」(亀石弁護士)

「弁護団が提出した準備書面のなかで、意見陳述など、みなさんに関心を持ってもらえそうなところにフォーカスしてプレスリリースとして出すのもよいかもしれません」(丸山さん)

▲CALL4共同代表の丸山央里絵

「最高裁まで行くようなケースなら全国区で取り上げられる可能性もありますが、まずは地元でどう盛り上げるかを私は考えます。地域の新聞やテレビに正確に取り上げてもらうためにも記者の方とコミュニケーションを取って、地元で盛り上がれば、それが広がっていくのではないでしょうか」(亀石弁護士)

▲観客の方からも多くの質問が飛び出ました

事前アンケートでは、支援コミュニティがあると、訴訟に関心を持ってもらうためにできることが広がるという事例が多数寄せられています。

「先ほど話したクラブの事件の支援者は、アーティストやメディア関係者が多く、みなさん本当にアイデアが豊富で。当時はまだ珍しかったシンポジウムのライブ配信、クラブイベント、SNSでの発信、フライヤーの配布など、私たちもとても勉強になりました。タトゥー裁判の支援者との親和性も高かったので、それぞれのコミュニティをつないで支援方法も共有してもらったのですが、こういうつながりはすごく大切だなと思います」(亀石弁護士)

「セッションパート1でも触れられた『人種差別的な職務質問をやめさせよう!』訴訟も、複数の支援団体が横断的につながって定期的にミーティングをして、報告会の運営もみなさんが自主的にしてくださっています。支援者同士だけでなく、原告同士、弁護団同士の連携も始まっていて、お互いのノウハウを共有できると参考になりそうです」(丸山さん)

イラストが描ける、フライヤーを作成できるなど、それぞれの人が寄付以外にもいろいろなかたちで支援に関わることで活動が広がることも、支援コミュニティがあることの強さかもしれません。

▲フェス会場外に向けて貼り出されたポスター

メディアに取り上げられたことを成功体験として挙げる方が多かったので、ここでは注目を集めた2つの訴訟を紹介します。

Case:隠される「国の事故調査」プロセスを明らかに訴訟
第58寿和丸が転覆沈没し17人が犠牲になった事故について、「波による沈没」とした国の運輸安全委員会の結論と、生存者の証言や状況証拠は大きく食い違いました。 この事故の原因と真相解明を求め、調査資料を非開示とした国の処分の取消しを求める情報公開裁判です。

訴訟への注目が高まったきっかけについて、会場にいらした代理人の出口かおり弁護士は、事件を追った伊澤理江さんの著書『黒い海――船は突然、深海へ消えた』がもたらした反響の大きさをあげます。

「訴訟の争点がわかりにくい事件のことがとてもわかりやすく書かれたこの本は、大宅壮一ノンフィクション賞をはじめ多くの賞を受賞しました。この本が各メディアに取り上げられたことでCALL4に辿り着いた方も多く、寄付にも結びつきました」(出口弁護士)

もう1つが、控訴審判決で逮捕起訴の不法性が認められ、東京都と国に損害賠償を命じる判決が出た、大川原化工機事件です。

Case:大川原化工機事件~無実で約1年拘留「人質司法」問題をただす~
許可申請が必要な噴霧乾燥機を無許可で輸出したとして逮捕・起訴後、輸出規制対象に該当するかどうかに疑いが生じたとして、東京地検が初公判直前に起訴を取り消すという異例の事態となった訴訟です。3人の原告は1年近く拘置所に勾留。うち1人は勾留中に体調を崩したものの、保釈を認められず、医療を受ける機会を奪われ、起訴取り消しを知ることなく亡くなりました。

「このケースは裁判の証人尋問で『幹部による捏造』という証言を機に、一気に報道に火がつきましたが、そこに至るまで、この難しい経済事件について、高田弁護士は膨大な証拠資料をあげ、進捗を更新し、報道機関に対してもていねいに説明を続けてらっしゃいました。ある番組の製作者の方に『CALL4に行けば資料がすべて見られるおかげで、番組をつくることができました』といわれましたが、これは熱心な弁護団の力によるものと思います」(丸山さん)

世間やメディアが注目したときのためにも、地道に発信を続けることは大事なことです。日本で最初に訴訟費用をCFで集めた亀石弁護士は、打ち合わせで担当者から「SNSでは名前と顔を出す、情報はまずは質より量で、フォロワーを増やすことが大事」といわれたそうです。

「これは尊敬している先輩がされているのですが、記者会見でこのことばを使えば見出しになる、記事で引用されるだろうと戦略的に考えて発信するようにしています」

自治体相手に本人訴訟を提起している方、地方では裁判の話をすること自体がハードルが高いなかでできることについて考えている方、議論の場での発言を恣意的に切り取られ、プチ炎上した経験から話を正確に取り上げてもらうためにはどうすればよいかを考えている方など、最後の質疑応答では、当事者ならではの質問があがり、会場と意見が交わされました。

そもそも訴訟に関心を持ってもらうことは、それ自体、とてもハードルの高いことです。そのなかで、理解や共感を得ること、社会に広げていくためには大切なのは、地道に根気強くやり続ける熱量でしょう。

公共訴訟が社会の関心を集めるには、どのような方法があるか。ケース主催者の悩みや成功体験を切り口に、考える場にすることができたセッションでした。

▲フェス会場は満員に
取材・⽂/塚田恭子(CALL4)
撮影/案納真里江
編集/木島碧生、丸山央里絵(CALL4)