2021.3.15

アメリカはなぜ動いたか

“公共訴訟”日本とアメリカの最新事情#2

日本の公共訴訟を取り巻く環境

CALL4では、公共訴訟のことを「社会課題の解決を目指す訴訟」と定義しています。よりかみ砕くと、「身の回りで起きている”おかしなこと”をなくすために行われている裁判」と言えるかもしれません。
公共訴訟という言葉には、ソーシャルチェンジの手段としての裁判をより身近なものにし、司法をより開かれたものにしていきたいという希望が込められています。

公共訴訟という言葉自体はCALL4の造語となりますが、別の文脈では「政策形成訴訟」や「公益訴訟」とも言われており、その内容をなす訴訟自体は日本でも古くから行われてきました。これらの裁判の共通点は、個人の権利救済を超えて立法や行政を動かすことを目的としている点にあります。

例えば、ハンセン病患者を強制隔離する法律(らい予防法)は違憲であるとして、元患者や遺族らが国に対して国家賠償請求訴訟を提起したこと等は記憶に新しいかと思います。裁判の結果、同法の違憲性が認められるとともに、政府からの謝罪がなされ、被害者支援立法が制定されました。

また、同性婚合法化を求めるための裁判をはじめ、数多くの公共訴訟が現在も日本各地で行われています。これらの裁判は、時代に合わない法制度の存在にスポットライトを当てるとともに、立法や行政の不備を正していく上で社会的にも大きな役割を果たしてきました。

ところが、CALL4が現場で公共訴訟に取り組む原告や弁護士達に対して調査を行ったところ、今日、公共訴訟に取り組むこと自体が容易ではないという実態が明らかになってきました。

公共訴訟の原告が負う、大きな負担

CALL4が公共訴訟の原告らに対して行ったアンケート結果によると、原告が抱える最大の課題は裁判費用の負担であるということが分かりました。
この結果自体に驚くことは少ないと思います。ですが、具体的にどの位の費用がかかるのかイメージできる人は少ないのではないでしょうか。

公共訴訟は国を相手に戦うことになりますが、一般私人を相手にした裁判よりも費用が高額になると言われています。弁護士費用に加えて意見書や鑑定書の作成といった専門家への支出が大きくなるためです。

例えば、水害訴訟の原告が国の河川管理に落ち度があったことを裁判所に認めてもらいたい場合、河川の構造や耐久能力が氾濫を防止するために十分なものであったかを検証する必要があります。
当然、これらの調査を弁護士はすることができません。そのため、土木建築学の専門家等に調査を依頼し、その結果を意見書という形にまとめてもらった上で、これを証拠として裁判所に提出することになります。
原告は弁護士費用に加え、これらすべての調査費用や意見書作成費用を負担しなければならないのです。調査費用や意見書作成の費用などを含めると、原告は、最低でも100万円以上の支出を余儀なくされます。

また、費用負担についてさらに追い打ちをかけるのが、裁判の長期化です。国を相手にした裁判は、短くて3年、長いと10年以上もの年月がかかります。時間がかかる分、当然費用も増加します。

無償でたたかう弁護士の限界

こうした中、これまで日本の公共訴訟を支えてきたのは、訴訟を「手弁当」で請け負うプロボノ弁護士や弁護団でした。

アンケート調査の結果によると、一般的な民事/刑事事件における弁護士のタイムチャージの相場が2万円~3万円/時間であるところ、公共訴訟に費やした時間として最も多かった回答は「300時間以上」でした。つまり、通常稼働すれば600万円以上の売上が見込める労働力が、公共訴訟のために無償で提供されていることになります。
これまでの公共訴訟は、まさにプロボノ弁護士達の善意によって支えられてきたのです。

しかし、弁護士のプロボノ活動に頼った現在の公共訴訟を取り巻く状況は、持続可能性という点で大きな問題を抱えていることが次第に分かってきました。
まず、弁護士数の増加に伴う業界内の競争激化により、公共訴訟に取り組む弁護士の数が年々減少しているという声が現場からは寄せられています。
日本弁護士連合会が運営するひまわりサーチによると、行政訴訟(公共訴訟のほとんどが行政訴訟に含まれる)に取り組む弁護士数は、登録者1万5千人の内37人しかいませんでした。

また、現状の課題について公共訴訟に取り組む弁護士にアンケート調査を行ったところ、「労力に見合った収入が得られない」という回答が8割を超えていました。

弁護士を取り巻く社会的経済的状況は、近年大きく変化してきています。こうした状況を踏まえると、裁判に必要な膨大な作業を弁護士の善意に求めてきたこれまでの公共訴訟のあり方は、抜本的な変化が求められているように思えます。

アメリカの公共訴訟制度に学ぶ

公共訴訟を巡る日本の行く末を考えるにあたって参考になると思われるのが、訴訟大国アメリカの現状です。アメリカでは、その歴史的経緯から、社会問題を司法の場で解決することが盛んに行われてきました。
同時に、アメリカでは公共訴訟を下支えするファンディングの仕組みも大きく発展してきました。特に、国民からの寄付や、巨額の財政的支援を行う助成財団の支援によって、アメリカの公共訴訟は支えられていると言われています。

アメリカの寄付市場に関する調査によると、2019年には、アメリカ全土で約4,490億ドル、日本円にすると約45兆円の寄付が国民から集められています 。対する日本の寄付市場の規模が年間約7,756億円(2016年度)であることからすると 、アメリカの市場規模は日本の40倍以上になります。

このような背景の下、アメリカでは巨額の寄付金が公益的訴訟を担う非営利団体や法律事務所に流れていると言われています。
例えば、アメリカ最大の公共訴訟の担い手であるACLU(American Civil Liberty Union アメリカ自由人権協会)の訴訟関連事業を担っているACLU Foundationの収支報告書を見ると、寄付金や助成金だけで約133億円に上る収入があることが分かります。

たしかに、日本とアメリカでは、司法に対する信頼や寄付に対する考え方について大きな違いがありそうです。そのため、日本では、アメリカのように公共訴訟を支える団体に対して100億円規模の寄付金等が集まることなど考え難いとも思えます。
しかし、アメリカでもこうした仕組みが一朝一夕出来上がったわけではなく、様々な試行錯誤を経て出来上がってきたはずです。アメリカで長い年月をかけて発展してきた公共訴訟を支える仕組みを注意深く見てみることは、日本の公共訴訟の将来を考えていく上でも意義のあることなのではないかと思います。

そこで次回以降、杉山さんによるアメリカの現地レポートを踏まえ、日本の公共訴訟のNEXT STEPのあり方を模索していきます。

⽂/戸田善恭(CALL4)
編集/丸山央里絵(CALL4)