最終口頭弁論期日レポート「立候補年齢引き下げ訴訟」

2023年7月に提訴された「立候補年齢引き下げ訴訟」の第9回口頭弁論期日が、6月23日に東京地裁で開かれ、結審しました。原告6人がそれぞれの思いを自分なりの言葉で伝えた意見陳述と、「結審お疲れさま会」の模様をレポートします。
原告6人による意見陳述
この訴訟は、合理的理由なく奪われてはならない憲法上の基本的人権である立候補の自由を、公職選挙法が制約していることの合理性を司法の場で問うものです。原告は、現在の被選挙権の年齢制限は憲法の基本的理念に反しているとして、立候補年齢の引き下げを求めてきました。
第9回口頭弁論期日が行われた103号法廷には、70名を超える人たちが傍聴に足を運んでいました。そこでまず、代理人の戸田善恭弁護士が、これまでの議論を踏まえ、原告と被告双方の論点を明確にしたうえで、改めて原告らの被選挙権は憲法で保障されていると訴えました。
続いて、6人の意見陳述が行われました。最初に陳述したのは、久保遼さんです。裁判の途中にデンマークに留学し、「18歳から被選挙権がある社会」を経験した久保さんは、「私たちが求めていることは間違っていなかったんだと、まるで答え合わせをしているような感覚になりました」と振り返りました。そして最後に、「18歳に被選挙権を認めることは、そんなに高いハードルなのでしょうか。18歳が被選挙権を持つことが、社会に何か不利益を与えるのでしょうか」と、実感を込めて、疑問を投げかけました。
次に語り始めた中村涼香さんは、長崎出身。高校時代から平和運動に参加し、大学進学後は核兵器禁止条約を推進するロビー活動の中で、「若者差別」に遭った経験について言及しました。現在、中村さん自身も周囲の若い世代も、政治ではなくビジネスで社会課題の解決を図っているという現実を前に、「優秀な若いプレイヤーが政治の世界に飛び込むことを、年齢制限という制度が阻んでしまうのは、社会にとって大きな損失です」と、若い世代だけの問題ではないことを訴えました。
幼い頃から環境問題への関心が高く、気候変動に対する危機感から、十代で、行政や国会議員への働きかけを始めた中村涼夏さん。一向に進まない日本の気候変動対策に、「深い悲しみと悔しさ」を覚えていると胸のうちを吐露します。「未来を生きる私たち若者が意思決定の場から排除されている現状は、極めて不当です」という言葉からは、若い世代が置かれている厳しい状況への怒りが伝わってきました。苦しい感情を胸にしながら、それでも、「未来を諦めるわけにはいきません」と、未来を見つめていました。
吉住海斗さんは、虐待を受け、児童養護施設で育った自身の経験を振り返り、当時の記憶がどんどん薄れ、伝えたかったことを忘れてしまうのでは、という思いを語りました。だからこそ、「18歳だからこそ届けられる国民の声がある」と、吉住さんは信じています。そのうえで、「これは若者を特別扱いする要求ではありません。眠っている可能性を社会の力へ変える一歩です」と、明るい未来を見据えて、陳述を締めくくりました。
Chico.さんは、幼い頃からさまざまな形で女性差別を経験してきた経緯から、社会課題に対し広く問題意識を持っています。その思いから原告となり、この日の意見陳述では、「何年待てば、私たちは主権者として認められるのでしょうか? 何年待てば、未来を語る場に加わる自由と責任を持てるのでしょうか?」と、切実な疑問を突きつけました。「ここから日本は変わっていける。私は、そう信じています」と、この訴訟に希望を託しています。
能條桃子さんは、まず立候補年齢引き下げに関する政党でのポジティブな変化を口にしました。その一方、国会でのロビー活動では、権利ではなくメリットをベースに語られることに違和感があり、この判決が現在の議論に一石を投じるものになるようにと期待を込めました。そして、2年という歳月を経て、「立候補年齢に問題意識を持った21歳のときから6年経ち、20代前半からどんどん離れていく中で、改めて若い世代の代表性担保の必要性を感じています」と、自身の素直な感覚を通して得た確信を言葉にしました。
この2年間、もしくはそれより長く、ずっと抱えて来た思いを言葉にして真摯に訴えかける6人の意見陳述からは、現状の深刻さと切実な願いが伝わったのではないでしょうか。

2年間を経た原告6人が迎える、10月24日の判決
閉廷後は場所を移し、「結審おつかれさま会」が行われました。法廷での意見陳述を終え、リラックスした様子の原告6人と、これまで活動を応援してきた支援者ら、若い世代を中心に集まりました。
戸田弁護士による期日の報告の後には、6人が先ほど法廷で行った意見陳述を再現。緊張がほぐれたのか、法廷での意見陳述よりのびのびと、笑顔あり涙ありとさらに感情を込め、思いを口にする6人の姿に、会場に集まった人たちは真っ直ぐに視線を送り、聞き入っているようでした。
そして、6人でこれまでの2年間を振り返り、それぞれの変化や新たな気づき、逆に変わらないところなど、笑いを交えつつ、おおいに語り合いました。これまで、楽しいことばかりではなかったであろう2年間を過ごし、結審を迎えた原告たちの表情は、晴れ晴れとしていました。
この日の法廷に訪れたたくさんの傍聴人の中には、原告らと同世代と思われる若者たちの顔も多くみられました。「立候補年齢引き下げ訴訟」に対し、強い関心が寄せられています。いよいよ10月24日15時から、東京地方裁判所103号法廷で、判決がくだされます。引き続き、ご注目ください。

取材・文/村山 幸
撮影/雨森希紀