初回期日レポート「18歳未満にも選挙で応援する自由を」訴訟

2025年2月に提訴された「18歳未満にも選挙で応援する自由を」訴訟の第1回口頭弁論期日が、5月29日午後2時から、東京地裁で開かれました。
今回は、代理人の多田晋作弁護士と原告3人が90人近い傍聴者を前におこなった大法廷での陳述と、閉廷後、日比谷図書文化館コンベンションホールで開催された報告・交流会の様子を合わせてレポートします。

【代理人と原告3人による陳述】午後2時~ 東京地裁第103号法廷にて
公職選挙法137条の2第1項は、未成年者による選挙運動を全面禁止しています。また、同第2項は満18歳未満の者を使った選挙運動はできないとしています。選挙運動をした未成年者は1年以下の禁錮または罰金、5年間の公民権停止という厳しい刑罰が課される恐れがあるのです。
本訴訟は、選挙で支持者を応援したい若者の自発的な思いや、政治的表現の自由を侵害する法律の撤廃を求めて提訴されました。
スライドを使って説明を始めた多田弁護士は、まず、選挙運動の例として、18歳未満の未成年者が候補者への投票を呼びかけるツイートする例を挙げ、「この法律は未成年者に沈黙を強い、憲法や子どもの権利条約で保障されている表現の自由という権利を奪っている」と述べました。
また、公職選挙法に「18歳未満は選挙運動をできない」という規定を表記した1952年の国会で、議員が「理論的には変だけれど」と発言したこと、立案を担当した官僚も「行き過ぎた規定と疑わざるを得ない」と書いていることについて、「理由がわからないのに憲法上の権利を制約することはできない」と、この法律の問題点を指摘しています。
18歳未満の選挙運動を禁止するのは、心身未熟な未成年者を保護するため。おそらく国側がするであろう反論については「大人が子どもにもたらす弊害を禁止すればよいだけで、守るべき対象である未成年者を罰するという構造自体、矛盾している」「選挙は汚い大人による魑魅魍魎の世界で、子どもから遠ざけなければいけない有害なものではなく、民主主義の根幹をなす重要なもの。国の反論が叶うものか。裁判所にはしっかり見てもらいたい」と主張しました。
原告のAさんは、神宮外苑再開発に伴う樹木の伐採の中止を訴える選挙演説を聞き、その候補者に応援を申し出たとき「ありがとう、でも、未成年者は選挙を手伝えないんだよ」といわれた中学時代の体験を語りました。
防衛費増額が閣議決定されたことを知り、ネット上の反対運動に参加して、自身が新聞に取り上げられた際、ネットが炎上してショックを受けたこと。選挙期間以外なら大丈夫かと支持者を手伝ったものの、罰則があると知り、恐怖を覚えたこと。こうして政治に関心を持つ中高生を黙らせながら、18歳になった瞬間「選挙に行こう」「日本の若者は政治に関心がなくて困る」というのは矛盾しているのではないかと、Aさんは社会に疑問を向けました。
2番目に陳述したのは、気候変動をテーマに15歳から市民運動に関わってきた北海道出身の角谷樹環(こだま)さんです。北海道は気候変動の影響が大きく、問題の解決なしに未来はないと話す角谷さんは、気候変動に関する政策討論会に参加した際、政治の影響力を実感したことを機に政治に関心を持ち、「#選挙で聞きたい気候危機」という団体に参加。2022年の参議院選挙で、気候変動に対する政策について、各候補者に質問状を送ろうとして法律違反といわれて以来、自分の声を届ける権利を奪われた違和感が続いているといいます。
現行の規制について「未成年者を搾取しようとする大人を罰すればよい」「当事者である若者が意思決定の場にいるべき」「若者に沈黙を強いる法律は民主主義を蝕むのでは」と、訴えました。
「未成年者は選挙で応援することすら許されない。これから社会をつくる若者が声をあげられなくてよいのでしょうか」。こう話したのは3人目の原告、竹島一心さんです。
地元のユースカウンシルとの出合いを機に政治に関心を持った竹島さんは「校則見直し」のため1年間かけてプロジェクトを進めました。このとき住民の声を大切にする市長の取り組みに触れ、選挙で応援しようと自分の想いをブログにあげようとして、未成年者の選挙運動禁止規定を知った竹島さんは、自分が刑罰を受けるだけでなく、自分の行為が候補者や周囲に迷惑をかけるかもしれないことに恐怖を、そして法律に怒りを覚えたといいます。
「まちを共につくる人間じゃないといわれた感じがした」と話す竹島さんは、未成年者を委縮させる法律は若者の表現の自由を奪っていると、表現する権利を求めました。

【報告・交流会】午後3時~ 日比谷図書文化館コンベンションホールにて
場所を移した報告・交流会は、多田弁護士による訴訟概要の説明に続き、「この訴訟と原告4人を身近に感じてもらえれば」と、原告の宮田香乃(よしの)さんの司会によるトークセッションスタイルで進行しました。
この裁判をどういう想いでやっているか
竹島さん:僕はまちづくりへの関わりから政治に関心を持ちました。活動を通じて知ったのが「公共はつねに私(わたし)発」ということばです。公共的な問題はすべて個人の行動や意識から始まるので、若者が気兼ねなく社会に参画できるまちづくりを目指して、裁判に臨んでいます。
角谷さん:選挙期間中、候補者の皆さんに気候変動対策についての政策を尋ねる準備をしていたとき「未成年は(活動)できない」といわれたことが、この問題との出合いです。選挙権がないだけでなく、選挙運動もできないことは大きな衝撃でした。すべての世代の声ができる限り尊重される社会を望んで、訴訟に参加しました。
Aさん:神宮外苑の樹木伐採の話が出ていたときに自治体の選挙があって、伐らないという候補者の応援をしたかったのですが、応援が無理なだけでなく、刑罰があると聞いて、怖い思いをしました。社会に対するビジョンがあって、行動しようとしている人が、自分と同じ思いをしないですめばと思い、参加しました。
宮田:選挙運動をしようと思ったことは何度かあって、でも「18歳未満はできないよ」といわれたことを、そのまま受け入れてしまったんです。そのことが悔しくて、今回、原告になりました。政治は私たちが生きる社会のことを決める場です。意識の高い人が選挙運動できるようになればよいだけではなく、選挙や政治についてみんなで考えられる社会になればと、思っています。


裁判のイメージ、原告になることへの迷いはなかったか
竹島:メチャクチャ迷いました。最初は俺、ラッパーやし、とやる気満々だったんですけど(笑)、周囲に相談したら、政治家へのロビイングとか、裁判以外の手段もあるんじゃない、といわれてしまって。でも周知されていない法律の問題を、政治家が聞いてくれるかと思って、迷いはあったけれど、アクションを起こしました。
角谷:原告になると名前や顔も出るので最初は躊躇しましたが、その後、気候変動訴訟に関わったこともあり、この訴訟の原告も受けました。私は原告ですが、訴訟をしているというと、「どうして?訴えられたの?」と聞かれるなど、まだ訴訟について周りに話しやすいとはいえません。でも、変えたいことがあって、手段があるならすべてやるべきだと今は思っています。
Aさん:顔は出していませんし、声をどうするかも悩みました。原告=思想の強い人といった偏見を持たれるのが怖くて、仲のいい友達にしか話していません。この法律が変わってほしいので原告になりましたけど、まだ名前や顔を出したくはなくて、悩むことの連続です。でも、今日、原告として意見陳述できてよかったです。
宮田:たとえば就職などで裁判が不利益になることは、ないとはいえないかもしれませんが、そういうことを判断の指標にする方がむしろおかしいと思えたので、(原告になることに)ほとんど迷いはありませんでした。そう思えたのは、身近な人が原告をしていたからです。きっかけがあれば裁判は身近になるのでは、と思っています。
竹島:『TED』という自分の好きな映画に、熊のぬいぐるみが裁判を起こすシーンがあるんですけど、多田弁護士のパフォーマンス(訴状陳述)を聞いていて、この映画を思い出したんです(笑)。裁判ってこんな感じなんやと楽しくなって緊張がほぐれ、意見陳述も思い切りできました。
角谷:裁判長は陳述を聞いても感情を出しません。でも、傍聴席に大勢の人がいることは心強くて、嬉しかったです。
Aさん:意見陳述が最初だったので緊張しましたけど、味方がたくさんいたので安心しました。

応援メッセージリレー
トークセッションに続いて、姉妹訴訟である「立候補年齢引き下げ訴訟」の原告で、NO YOUTH NO JAPAN代表の能條桃子さん、日本若者協議会代表の村橋祐貴さん、同世代の社会運動家を取材しているライターの中村眞大(まさひろ)さんが、4人に応援メッセージを送りました。
能條桃子さん:いつも原告側から傍聴席を見ていましたが、今日は傍聴席から見て、自分より下の世代にこんなに心強い人たちがいることが頼もしく、誇らしかったです。この法律は、つくった官僚さえおかしいと思っていたのに、見て見ぬふりをされてきました。皆さんが当事者となって、問題が周知されれば、世論喚起につながります。原告の想いは裁判官にも伝わったと思うし、声をあげる人がいることが、社会を変えていくと思います。
村橋祐貴さん:公職選挙法の見直しが進み、来年の通常国会で立候補年齢引き下げが実現されそうなこのタイミングで、皆さんが声をあげてくれたことに感謝しています。メディアの皆さんにも「18歳未満も選挙で応援する自由を」訴訟に注目してほしいです。政治的発言を自由にできることは、子どもの権利の観点からも世界的な潮流になっている大事な動きです。これからも応援していきます。
中村眞大さん:投票や応援はできなくても、政治的活動をしている人はたくさんいますし、その年齢だからこその視点、できることはいろいろあるので、18歳未満の選挙活動を侵害されるのはおかしいと思っていました。社会に出たら理不尽なルールがたくさんあるんだから、それに慣れろという大人もいますが、大昔のルールがもたらす不利益は変えていくべきです。国がつくった理不尽な法律に声をあげた皆さんに、心からリスペクトします。

最後に
会場からは、勇気を持って原告になった4人に、「どんなことをしても色眼鏡で見る人はいるけれど、ちゃんと見ている大人はいることを覚えていてください。選挙運動や気候変動の問題は、子どもの目線で社会を見ることが大事だと思います」とメッセージがありました。CALL4主催の傍聴ツアー参加者からも「主張に共感できた」「胸を打たれた」「誰かがやってくれる、ではなく、当事者性を持ってやっているところが素晴らしい」「応援したいです」などのコメントが寄せられました。
原告はそれぞれ真摯に考え、アクションを取ろうとしています。その想いや自由を、誰も立法理由を明確にいえない法律が侵害しています。一方で若者の政治参加を求めながら、一方で選挙を応援する活動に刑罰さえ課す。4人の原告は、その理不尽に声をあげました。
次回の期日は8月29日(金)午後3時からです。今後もこの訴訟に注目していただければと思います。

取材・文/塚田恭子(CALL4)
撮影/案納真里江