2025.3.5

提訴会見レポート「18歳未満にも選挙で応援する自由を」訴訟

2025年2月28日@司法記者クラブ

2025年2月28日、「18歳未満にも選挙で応援する自由を」訴訟が東京地方裁判所に提訴されました。同日15時半から、原告と弁護団による記者会見が行われました。

選挙期間中に、特定の候補者の当選を目的として行う活動を「選挙運動」といいます。現在の公職選挙法は、未成年者によるこの選挙運動を全面禁止しています。もし未成年者が選挙運動をした場合には、1年以下の禁錮又は罰則、5年間の公民権停止という厳しい刑罰が課されてしまう恐れがあります。

本訴訟は、高校生4名が原告として立ち上がり、現在のルールは自発的に選挙で応援したいと願う18歳未満のユースの“政治的表現の自由”を侵害するものだとして、その撤廃を求めるものです。

このコラムでは、会見の流れに沿う形で会見内容をまとめました。

1.  訴訟の概要

はじめに、原告代理人の太田こもも弁護士より、訴訟の概要が説明されました。

原告の4人はいずれも、SNSなどで特定の候補を応援しようとしたり、陣営のボランティアに参加しようとしました。しかし、公職選挙法の規定で断念した経験があります。

太田弁護士は、選挙運動は政治的表現の自由に含まれており、未成年者の選挙運動を一律で禁止することは憲法21条が保障する「表現の自由」を侵害すると主張しました。
また、未成年者の保護を目的としながら、選挙運動をした未成年者に罰則を与える決まりは、憲法31条が定める、他人を害さない限り罰されない、という原則と罪に罰則はバランスが取れていなければならない、という原則に反しているとも主張しました。

2. 訴訟の法的な意義

続いて弁護団長の戸田善恭弁護士より、今回の訴訟の意義の説明がされました。

戸田弁護士は、未成年は単なる保護の対象ではなくて、権利をしっかり持っていると前置きした上で、それなのに、現在の公職選挙法は非常に厳しい罰則を設けて権利を侵害していると指摘しました。

今回の訴訟の意義は、「未成年にとっての選挙運動の自由はとりわけどういう意味をなすのか」をはっきりさせること、そして「若者の権利を守ること」の2つであると述べました。

3. 原告の訴訟に対する思い

記者会見に出席した3人の原告が、それぞれ今回の訴訟を起こした経緯とそれに対する思いを語りました。

1人目の竹島一心(いっしん)さんは、中学時代に学校の校則などに不満をもち、学校に行けなかった際に、ある候補者が寄り添ってくださったといいます。それをきっかけに、その候補者を応援しようと選挙運動に参加しようとしました。しかし、周囲の大人に犯罪になるからやめるよう止められたと言います。まるで未成年だというだけで「その街の一員じゃない」気持ちになったと語りました。

2人目の角谷樹環(かどやこだま)さんは、中学3年生の時から気候変動に関心を持ち、候補者に気候変動対策について聞く活動を行う予定でした。しかし、一緒に企画を立てていた人に犯罪になるのではないかと指摘され、当初はそんなものかと思ったものの、次第に何かおかしいのではないかと感じるようになりました。
角谷さんは、公職選挙法の基準が曖昧で、便宜上の取り締まりであることも問題として指摘しました。

3人目の宮田香乃(よしの)さんは、LGBTQ+の権利が守られる社会を目指していて、その一貫として、選挙のボランティアに参加しようとしました。しかし、未成年であったためやめるよういわれ断念しました。
現状では、確かに未成年は投票の権利はないものの、未成年も選挙で選ばれた人の影響を受けるため、未成年が公職選挙法で選挙運動までもが制限されることへの疑問を述べました。
未成年が選挙運動をする上で、候補者などの大人に利用されるリスクはあります。しかし、そのために未成年が選挙運動をできず、自分たちの代表を決めることに関われないのは別問題なのではないかと述べました。

原告3人とも、未成年でも選挙運動に参加しようと志したのは、周囲の大人に「やらされた」からではなく、自分たちの意思によるものと強調しました。

4. 記者からの質問

記者から出た質問についての応答をいくつか紹介します。

Q.  権利を持っている若者の政治的関心の低さ、投票率の低さについてどう思っているか。

角谷さん:18歳になる前から政治とは距離があったのに関わらず、18歳になったからといって急に関心を持つのは難しいと思います。また、主権者教育が不十分なこともあると思います。

竹島さん:前提として、関心を抱くかどうか、投票に行くかどうかは、人それぞれ自由だと思います。ただ自分の場合、ユースカウンシル(Youth Council)で若者が社会に参画する活動をしてきたので、「この人を応援したい」という意思表示すらできないことには疑問を感じます。

宮田さん:政治活動はできる一方で、禁止されている選挙運動が具体的にどういうことを指すのか曖昧ではないかと思います。
18歳になり選挙に行きましたが、(成年になったからといって)その選択に自信があるわけではないです。若者が政治に関心を持ちづらい社会になっているが、政治に無関係な人はいないので、もっと声をあげやすい社会にするべきだと思います。

Q. 憲法違反とはどういうことで、どういうことを保障されたいか自分の言葉で教えてほしい。

角谷さん:自由に選挙運動ができないこと発信できないこと、制限されることがあることが憲法の表現の自由に違反すると考えています。

竹島さん:憲法と言われると「民主主義」を真っ先に思い浮かべます。それを保つ上でも大事にしたいです。

宮田さん:私は、「国民主権」を思い出します。そして、国民には未成年も含まれていると思います。

提訴会見の内容は以上となります。

CALL4のケースページでは、弁護団が主催者となり、訴状などの訴訟資料の公開や、応援のためのクラウドファンディングを実施しています。
原告・弁護団の主張に対して被告の国がどのような反論をし、裁判所がどのような判断を下すのか。今後もこの訴訟にご注目ください。

⽂/荒井さちこ(2025年春期CALL4インターン生)
撮影/雨森希紀