2024.3.8

提訴会見レポート「夫婦別姓も選べる社会へ!訴訟」

2024年3月8日@日比谷図書館ほか

2024年3月8日、東京・札幌の地方裁判所で合計12人の原告が、「夫婦別姓も選べる社会へ!訴訟」を提訴しました。

この訴訟は、現在の夫婦同氏制度は憲法に反するものとして、夫婦が婚姻前の名字を維持したまま婚姻できる地位にあることの確認や、名字を変えなくても婚姻できるように法改正をしていないことについて国に対して賠償請求をする訴訟です。 同日に行われた、原告の方々と弁護団による記者会見を、会見の流れに沿う形でまとめました。

▲東京での会見は報道陣でほぼ満席。注目の高まりが感じられた

1. 訴訟の概要

まずは原告代理人の寺原真希子弁護士より、訴訟の概要が説明されました。

「本訴訟は、婚姻をするために夫婦のいずれか一方が氏を変更するか、あるいは夫婦の双方が氏を維持するために婚姻するかを諦めるかの二者択一を迫る、現在の夫婦同氏制度が憲法および条約に違反するとする主張です。」

「すべての夫婦が別姓であるべきという訴訟ではなく、婚姻に際して同姓か別姓かを選べるようにしてほしい、という訴訟になります。」

「氏名は社会の中で個人を他人から識別し特定する機能を有するとともに、自分という存在、つまり個人の人格の象徴となっています。一方、婚姻は身分関係を法的に形成し公証するとともに、様々な法的効果や社会的承認を伴うものであって、個人の幸福追求や人格的生存におけるひとつの重要な基盤となっています。
そのように重要な氏名を構成する氏と、同じく重要な婚姻とは、本来トレードオフの関係にはなく、日本以外のすべての国では両立できている。にもかかわらず世界で日本だけは片方を取ると片方を諦めなければならないという法制度となっていて、そのような二者択一を迫ることに合理性はない、というのがこの訴訟の核心となります。」

▲弁護団長の寺原さんによる解説

2. 訴訟の法的な意義

同じく寺原弁護士から、訴訟の核心を踏まえて、今回の訴訟で求めている4つの主張と3つの請求内容について説明がされました。

「1つ目は婚姻するために氏を変更すると個人の特定・識別機能が侵害され、信用・評価・キャリアが毀損され、アイデンティティの喪失感を生じさせるという側面を捉えたもので、これは氏名に関する『人格的利益』を保障する憲法13条に反するという主張です。

2つ目は、二者択一という不合理な条件を突きつけられた状態で婚姻するかを本当に自由な意思で決定することができないという側面を捉えたもので、これは『婚姻をするについての自律的な意思決定』を保障する憲法24条1項に違反するという主張です。

3つ目は、憲法24条2項が個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して法律は制定されなければならないと定めているところ、氏名や婚姻に関する重要な権利利益を制約する現在の法制度が個人の尊厳と相反するというものです。また、95%もの夫婦において女性が氏を変更していることを踏まえると、氏を変更することによる不利益は実際には女性に偏っています。婚姻したら男性の氏を名乗るものという男女不平等な経験則・価値観が再生産され続けているという状況は、両性の本質的平等に反することから、憲法24条2項に違反するという主張です。

そして、4つ目が、婚姻の際の氏の選択における夫婦の同一の権利などを保証する女性差別撤廃条約と自由権規約に違反するという主張になります。」

「この憲法違反、条約違反を基礎として、本訴訟では3つの請求を立てています。

1つ目の請求は、地位確認請求という枠組みで、具体的には、憲法13条・24条・条約との関係を踏まえると、本来原告らは夫婦別姓での婚姻ができて然るべき地位にある、つまり憲法と条約がこれを保障しているということになりますので、原告らがそのような地位にあるということの確認を求めるという請求です。

2つ目の請求は、違法確認請求という枠組みで、国が必要な法改正をしないことによって、実際には原告らは夫婦別姓での婚姻ができていませんので、そのような国の行為は違法であるということの確認をできるという請求です。

そして3つ目の請求が、国家賠償請求で、国が法改正しないことによって原告らが被っている損害を賠償せよという請求になります。」

「弁護団としては、いずれの請求も認められて然るべきと考えていますが、判決の中で、現在の法制度が憲法ないし条約に違反する、ということが明示されれば、国会は実質的に法改正を迫られることになりますので、この訴訟の主眼は、憲法違反ないし条約違反を裁判所に明示してもらうという点にあります。」

3. 提訴に至るまでの経緯

引き続き、本訴訟を提起するまでの経緯について説明がされました。

「現在の夫婦同氏制度については2015年と2021年に大法廷が合憲と判断していますが、いずれの判断も夫婦同氏制度に問題がないとしたものではありません。この制度によって婚姻を諦めざるを得ない人々がいること、婚姻による改姓で様々な不利益を被っている人々がいること、そのような不利益が実際には女性に偏っていて実質的に男女不平等な状況が続いているということを最高裁は指摘をしていて、その解決を立法機関である国会に委ねました。
しかし、最初の最高裁判断から8年以上が経過し、2つ目の最高裁判断からもうすぐ3年となろうとする現在においても残念ながら国会において選択的夫婦別姓制度の導入に向けた具体的な動きはみられないままです。」

「他方、その間も社会は刻々と変化し、晩婚化や共働き世帯の増加等によって婚姻前の氏を使用し続ける必要性が高まり続け、世論調査における選択的夫婦別姓制度への賛成割合は7〜8割にものぼり、地方議会から国会に対する要望意見書の数も増え続け、国連の人権機関からも繰り返し法改正を勧告され続けています。」

「このような社会の変化と、国会に期待することが出来ないという現実を踏まえますと、司法が現在の法制度を憲法ないし条約違反だと判断すべき必要性は過去の2回の訴訟の際と比較しても一層強いものとなっています。
これは政治問題ではなく、氏名や婚姻に関する権利・平等・個人の尊厳という基本的な人権が侵害されている人権問題です。この人権侵害を今度こそ司法に食い止めていただくべく第3次訴訟を提起したということになります。」

▲東京地裁への入廷の様子

4. 原告の方々の訴訟に対する思い

東京での記者会見に臨んだ5名の原告のメッセージを紹介します。

新田久美さん:
「3月で結婚して30年になりました。今か今かと選択的夫婦別姓制度の実現を待っていましたが、自ら行動を起こすに至りました。仕事をしている上で足かせになっている強制的同氏制度を変え、私活躍できない、という状況を変える一助になればと思っています。
ぜひこの閉塞感のある日本で、一つの象徴である選択的夫婦別姓制度を変えていっていただければと思っております。」
黒川とう子さん:
「事実婚17年目。中学生の子を子育てしています。私もパートナーの根津も、自分の慣れ親しんで自分の一部になった姓を変えるということを受け入れられなくて、とても嫌だと感じ、また、それを相手に強要するのも嫌でしたので、事実婚というものを選択せざるを得ませんでした。
長く17年も家族として暮らしておりながら、法律上の正式な夫婦でないために、もしもの場合、お互いに法定相続人になれなかったり、病院での医療行為の同意の際に同意ができるかどうかも定かではありません。そのような不安が毎日毎日つきまとっています。また、税法上の不利益もあります。不安だらけの毎日で、薄氷の上を踏むような生活を送っているのですが、もうたくさんだと思い、同じ姓しか認めない婚姻の影にある混乱・不安・苦悩・諦め、そのようなものに司法が真正面から向き合ってほしいと思い、今回原告になりました。
根津 充さん:
「パートナーから姓を変えないために事実婚を提案されたとき、僕自身も改姓をしたら同じように喪失感があるなと感じました。また、どちらかが無理をして改姓をしてしまうと、対等な関係性が崩れてしまうという風に思って事実婚に賛成しました。一緒に暮らして約17年になりますが、正式な結婚をできないので法的な様々な利益を受けられない立場にいます。
例えば、僕たちは家事も育児も半分ずつにして娘を育てていましたが、僕の方に親権はありません。どちらかが姓を放棄しなければ、結婚できない、こんな理不尽な制約を憲法が許すはずはないと思っています。娘の代にまで問題を残したくないと思い、原告となりました。」
上田めぐみさん:
「現在事実婚11年目、4歳の子どもがいます。もう30年以上法改正を待ち続けています。第二次訴訟では事務局として支援をしてきましたが、『敗訴』という結果に、もう待てない・自分がやろうと思い、原告になりました。自分の氏名は自分そのものなので、結婚で変わりたくないと思うのは、とても自然なことではないかと思っています。結婚のときに、どちらかが意に沿わない改姓を強いられたら、この苦痛やモヤモヤは一生ものです。みんなが幸せに結婚できるために、選択的夫婦別姓制度が必要だと考えています。
今度こそ、わたしたちのこの想いが、司法に届き、違憲判決を得られるように、心を込めて裁判官と対話するような気持ちで訴訟に挑みたいと考えています。
小池幸夫さん:
「私は長い人生の中で、自分の名前を失ったことは一度もありません。過去3回婚姻届を出し、その後ペーパー離婚することを繰り返しましたが、その都度改姓手続きを行ったのは妻です。先日、厚生労働省が昨年1年間の婚姻数が約49万組だったと発表しました。近年のデータからそのうち95%程度は夫の姓での届け出と思われます。だとすると、46万人以上の女性が、銀行口座や健康保険証など様々な改姓手続きを行い、その中には悲しい思いや自己喪失感を味わった方も少なからずいると推測します。2015年の最高裁判決では、5名が違憲判断をされています。その5名のうち、3名は女性ですが、当時最高裁で女性判事は3名のみです。つまり、女性裁判官は全員『違憲』と考えたのです。このことは象徴的だと思います。
今回の裁判官にお願いしたいことがあります。不利益な立場に置かれているもの、悲しい思いをしているものなど、弱者のことを慮って審理を進めてください。誰もが幸せに暮らす社会の実現のためにこの点を強く願います。」
▲東京会場での記者会見。頭上には札幌の映像が流れるスクリーンが

続いて、札幌で記者会見に臨んだ原告のご夫婦1組のメッセージを紹介します。

佐藤万奈さん:
「まずは、北海道・札幌にも夫婦別姓が選べなくて困っている人達がいるんだということを皆さんに知ってもらいたいなと思っています。よく、夫婦別姓だと家族の絆が壊れると言われる方もいらっしゃいますが、私達は夫婦別姓が選べないせいで家族の絆が壊れかけました。なので、夫婦別姓も選べる選択肢を増やしてください、と思っています。裁判官の方たちには、夫婦別姓が選べなくて困っている私達みたいな存在が見えていますか、ということを伝えたいです。」
西 清孝さん:
「今の日本では、男性に改姓の当事者意識があまりないのかなと思っています。それが、選択的夫婦別姓がなかなか進まない原因の一つだと思っています。もちろん裁判なので、判決が出て、それが選択的夫婦別姓に結びつくというのが一番ですが、ニュースを見て男性にも『もしかしたら自分が結婚のために名字を変えなければならないかもしれない』ということを考えていただければ良いのかなと思います。今の制度だと、改姓する側と改姓しない側という不平等が必ず生じる制度になっていますので、どちらかが改姓をしなくて良い、平等な、選択的夫婦別姓制度に一刻も早く法改正することを願っています。」
▲札幌でも記者会見が開かれ、東京会場とはオンラインでつながった

5. 記者からの質問

記者から出た質問についての応答をいくつか紹介します。

Q. ペーパー離婚はなぜ必要だったのでしょうか?

A. 「事実婚のまま子どもが生まれると、母親のみが親として認められ、私には親権がありません。名字は内山になります。でも、妻は、子どもを『内山』にしたいということではありませんでした。ですので、子どもが出来たことがわかると婚姻届を出し、出産してしばらくすると離婚届を出すということを繰り返しました。」(小池さん)

Q. ミモザをみなさんが胸につけている理由を教えて下さい。

A. 「今日は国際女性デーということでミモザをつけています。選択的夫婦別姓は女性だけの問題というわけではないのですが、現在女性に不利益が偏っているということで、女性のジェンダー不平等を変えていくために、この訴訟を今日提訴できたということはすごく象徴的ではないかなと思います。」(上田さん)

Q. 女性が活躍できないということについて実体験を踏まえて教えて下さい。

A. 「私は海外の宇宙機関にいることが多いです。国内にいる分には困りませんが、国の外に出た途端にパスポート名でないことによって不利益が生まれます。論文の名前とパスポートの名前が違うと、私だけ学会に参加できない可能性があり、1日遅れでやっと参加できるということもありました。旧姓使用が認められていても、海外だと、それは一体何であるかということになってしまう。海外の方がセキュリティも厳しいので、パスポートの名前と違う名前で活躍することは非常に難しい。たとえ、旧姓で仕事をしようと思っても、ものすごく時間がかかり、経済的な損失も出ている。」(新田さん)

Q. 氏を一緒にすることで絆が壊れかけたということでしたが、実際にどのような事があったのですか。

A.「私は、婚姻届ってもっとうきうきした気持ちで書くのかなとか思ってたんですけど、すごく悲しい気分になって、婚姻届を仕方なく提出したんです。
私が当時勤めていた職場が病院なんですけれど、旧姓の通称使用が認められていない職場だったので、仕事中に着ける名札だったりとか、電子カルテに表示される私の名前とかが、ちょっとずつ消えていって。『これがアイデンティティの喪失ってやつなのかな』って実感したんですよね。結局私は体調を崩し退職をして、パートナーの西も退職しました。
その際に、ポツリと『名字を変えてねって言われたことを恨んでいるよ』と言ってしまいました。好きな人にそんなことを言いたくなかったし、夫婦別姓を認めていない国のせいということはわかっていましたが、どうしても不平等があったので、恨んでるって思ってしまったんです。そこで絆が壊れかけたんじゃないかなと思っています。」(佐藤さん)

6. 提訴会見を終えて

提訴会見の内容は以上となります。

今回の原告の皆さんはもちろん、日本全国に法的な結婚をしたいと考えているにもかかわらず、「どちらかの氏を選ばなければならない、もしくは婚姻自体を諦めるしかない」という過酷な制約を受ける当事者たちがいます。

今回の会見からもわかるように、今回の夫婦別姓訴訟はあくまで「別姓を選択できる社会にすること」が目的です。
訴訟を通じて、個人が氏名にかかる信用・評価・キャリア・アイデンティティを守り、「婚姻をするについての自律的な意思決定」が保障されることで実質的に平等な社会になることを願います。

本訴訟は、CALL4を使って訴訟資料の公開やクラウドファンディングを実施しています。原告・弁護団の主張に対して被告の国がどのような反論をし、裁判所がどのような判断を下すのか。今後もこの訴訟にご注目ください。

⽂/鈴木博子(CALL4)
取材協力(札幌)/安藏舞子(CALL4)