2024.1.29

提訴会見レポート「人種差別的な職務質問をやめさせよう!訴訟」

2024年1月29日@司法記者クラブ

2024年1月29日、「人種差別的な職務質問をやめさせよう!」訴訟が東京地方裁判所に提訴されました。同日13時から、原告の方々と弁護団による記者会見が行われました。

この訴訟は、外国人あるいは外国にルーツがあるような外見をしているという理由だけで警察の職務質問の対象にされることの違法性を問う訴訟です。

会見の流れに沿う形で会見内容をまとめました。

1.  訴訟の概要

原告代理人の谷口太規弁護士より、訴訟の概要が説明されました。

「今回の訴訟は、人種や肌の色などの外国ルーツを持つ方々特徴があることによって職務質問の要件を満たすものとする、つまり警職法2条1項における不審事由がある、犯罪に何らかの関わりがあるということを自動的に認めて職務質問をするという運用について、その違法性を問うというのがメインの請求になります。」

2. 訴訟の法的な意義

同じく谷口弁護士から、警察による不当な職務質問がいかに憲法や国際人権法に反しているかの説明がされました。

「人種による差別という観点から憲法14条、みだりに職務質問を受けない自由という観点から憲法13条、日本が批准している人種差別撤廃条約、自由権規約に反しており、かつ警察官職務執行法の2条1項の要件にも反しているということが請求の根拠です。」

3. 提訴に至るまでの経緯

原告代理人の宮下萌弁護士から、本訴訟を提起するまでの経緯について説明がされました。

「日本でレイシャルプロファイリングがあるという実態を、警察庁も国も認めていません。実態を示すために東京弁護士会が行った調査には、国籍が分かった途端態度を変えたり、日本人と思われる人には職務質問をしていないのに、外国人または外国ルーツを持つというだけで職務質問されているのではないかという声が寄せられました。警察庁による調査や国家公安委員会のコメントが出されたりもしましたが、実態として変わっているとはとても思えません。だからこそ司法を通じて公権力による人種差別を変えていくのだという決意を持って訴訟を提起するに至りました。」

4. 原告の方々の訴訟に対する思い

ゼインさん:

「私は、日本の治安のために職務質問をされればきちんと受けることを徹底してきましたが、何十回もされると、『あれ、自分何か悪いことしたのかな』と思うのは当然でしょう。私は、職務質問の度に在留カードの提示を求められました。実際、『日本国籍を取ると在留カードが無くなるの?』と聞かれたこともありました。そういう実態を受けて、『外国人もしくは外国人の見た目をしている人は犯罪しちゃうんじゃないの?』というイメージが日本にはあるのかなと思っています。学校などに外国人風の子が増えた今、自分と同じような経験をする子が将来もっと増えるのではないか、流石に認識を変えるべきなのではないかという思いを持って参加しました。」

マシューさん:

「私は、行く先々で職質され、ひどい時は警察官から1日2回職質されます。来日して初めの半年は普通でしたが、その後から職質の頻度がひどくなりました。警察の権力は強大だから従わなければなりません。引きこもりという言葉は自分は全然知らなかったのですが、気がつけば自分も同じようになりました。仕事から帰ったら人から離れたくなり、寝室に籠ることが多くなりました。コロナ前から自宅から出なくなりました。街中に出ることがなくなりました。電車にも乗りたくなくなり、今では恐怖心から車にすら乗りたくありません。だからこそ同じ境遇の人たちのために自分が戦いたいです。自分たちはどうしたら日本で平穏に生活できるのでしょうか。」

モーリスさん:

「今回は肌の色、ジェンダーなどあらゆることで差別を受けている人々のためにこの訴訟への参加を決めました。この社会の中で何か間違ったことを見た時に、『一人じゃない』ということを示すために私はここにいます。」

5. 記者からの質問

記者から出た質問についての応答をいくつか紹介します。

Q. レイシャルプロファイリングは組織的な運用なのでしょうか?

A. 「基本的には組織的な運用だと考えています。警察官の内部資料から「外国人=犯罪を犯している可能性が高い」という考えがベースにあることが示されています。(谷口弁護士)

Q. 外国にルーツのある人に対する職務質問というのは日本人にとっては無関係と捉えることが多いのではないでしょうか?

A. 「日本に働きに来ている外国人が年々増加しており、それに伴って日本人が外国人あるいは外国人風の人々と接する機会も増えます。今この問題を「自分にとっては他人事」と捉えると、将来その人に同じことをしてしまう可能性があります。自分の周りにいる外国人、あるいは外国にルーツを持つ人に対する対応(言葉遣いなど)を一度省みてほしいです。」(原告ゼインさん)

Q. 外国人に職務質問をするというポリシーがあるということ自体、外国人が住みにくい社会を形成しているのではないでしょうか?

A. 「日本は今後少子高齢化が加速し、外国にルーツを持つ人と共生していかなければ成立しない社会になります。それにもかかわらず、長く在住している人で「日本はもう疲れた」という感想を持つ人が少なくありません。これは社会として外国にルーツを持つ人々を一員として迎え入れるようなマインドセットができていないという証拠であり、しかもそれを是正すべき国が率先して差別的なことを行い、市民にスティグマを与えています。日本に外国ルーツの人を受け入れていこうという政策と矛盾していると感じます。」(谷口弁護士)

6. 提訴会見を終えて

提訴会見の内容は以上となります。

この訴訟は、外国にルーツを持つ人に対する恣意的な職務質問の違法性を問う訴訟です。

日本は国連の人権委員会から繰り返し指摘を受けているにも関わらず、未だに無視し続けています。もし、政府や警察が指摘を受けた段階で是正していれば、今頃この訴訟の原告の方々は苦しむことなく平穏に日本で暮らせていたかもしれません。「もうこれ以上、苦しむ人々を生まないために」と立ち上がった原告の方々へのご支援をよろしくお願いいたします。

CALL4では、訴訟資料の公開やケース紹介・クラウドファンディングの実施をしております。原告・弁護団の主張に対して被告の東京都と愛知県がどのような反論をし、裁判所がどのような判断を下すのか。今後もこの訴訟にご注目ください。

原告と弁護団、支援メンバーの集合写真(弁護団提供)。弁護団が充実した訴訟活動のために必要な訴訟費用を募っています。クラウドファンディングでのご支援をよろしくお願いします
⽂/井上絢菜(CALL4)
撮影/雨森希紀