赤ちゃん取り違え被害者に「出自を知る権利を」訴訟 A Baby Switched at Birth (Trial for the right to know the origin)
原告は昭和33年4月10日頃に東京都立墨田産院での出生直後、他の新生児と取り違えられ、その賠償責任については平成18年の裁判で認められたにもかかわらず、その後も東京都が一切の事実調査を拒否し、未だに原告が生みの親と接触することができない状況にあるという事件です。まだ見ぬ両親の寿命も限られていることから、この度やむなく原告は、東京都に対して、調査の実施等を求めて改めて提訴しました。 This is a case in which the plaintiff was mistaken for another newborn immediately after his birth at the Tokyo Metropolitan Sumida Maternity Hospital on April 10, 1958.
【赤ちゃん取り違え事件】(本件は海渡雄一弁護士と小川隆太郎弁護士の共同受任事件です)
原告の江藏智(えぐらさとし)さん(63)は、赤ちゃん取り違えの被害者です。1958年4月10日、都立墨田産院の職員は、生まれたばかりの2人の赤ちゃんを取り違えました。それ以来、江藏さんは”育ての親”の子どもとして生きていくこととなりました。
(幼少期の江藏さん(育ての父と))
幼少期から家族の中で自分だけ異質な存在だという違和感に苦しめられてきた江藏さん。2004年にあるきっかけでDNA鑑定を行い、取り違えが明らかになって以降は、現在まで15年以上もの長年にわたって、「”本当の両親”を知りたい。」「”自らの出自”を知りたい。」と願いながら暮らしてきました。
都や国が真摯に取り違えのときの資料を調べれば、江藏さんは自分の出自を知ることができるかもしれません。しかし、江藏さんの再三にわたる要求にもかかわらず、都は調査を全く行おうとしませんでした。
自分達には何の落ち度もないのに、なぜこのような思いをしなければならないのかと、行き場のない怒りを抱いています。
【これまでの経緯ー東京都の非人道的な対応】
(1)取り違えの発覚~前回の訴訟
DNA鑑定の結果によって”育ての両親”のいずれとの親子関係も存在しないことが明らかになったにもかかわらず、東京都の病院経営本部も、墨田区役所や社会保険庁の担当者も、「でっち上げだ。」等とまともに取り合いませんでした。
そこで、江藏さんと”育ての両親”は、東京都を相手方として、不法行為による損害賠償請求訴訟(前訴)を提起しました。
1審では負けましたが、東京高裁は江藏さんらの請求を認め、都に損害賠償の支払いを命じました。この2006年の前訴確定判決では、取り違えについて「産院として基本的な過誤」であることや、東京都の重大な過失によって江藏さんらの人生が狂わされたことが判示されています。
(2)今回の訴訟に至った経緯
江藏さんは、自身の生物学上の両親と、”育ての両親”の生物学上の子どもを探すための協力を都に15年以上再三にわたって求め続けてきました。しかし、東京都は、取り違えと都の責任を認めた前訴確定判決にかかわらず、「既に終わっている話だ。」、「相手の家族のプライバシーに配慮する必要がある」などとして江藏さんの要請を相手にせず、協力・調査を拒否し続けてきました。
(都庁を何度も訪ねて親探しをお願いする江藏さん(2018年))
しかし、少なくとも取り違えられた子を調査・特定して、もう片方の家族の意向を確認することは容易にできるはずです。それなのに東京都は、江藏さんの「出自を知りたい」という素朴な要求を無視し続け、これをないがしろにし続けてきました。これによって、江藏さんは、出生から現在まで人生を狂わされている状況を押しつけられ続けています。
江藏さんももう63歳を迎え、その母親世代は90歳前後となります。真実の親と子それぞれの再会のために残された時間は僅かです。東京都が交渉に応じてくれないため、残された時間で本当の両親を知るには訴訟しかないと思い、やむをえず今回の訴訟を提起しました。
【「出自を知る権利」を主張する意義】
日本も1994年に批准した児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)7条1項は、「児童は…できる限りその父母を知りかつその父母によって養育される権利を有する」と規定し、出自を知る権利を保障しています。出自は個人のアイデンティティー形成と深くかかわっており、日本国憲法13条によっても出自を知る権利は保障されていると考えられます。
近年、ヨーロッパの各国やオーストラリアのビクトリア州などにおいて、特に第三者が関わる生殖補助医療の分野で、出自を知る権利の保障を充実させる法改正がされています。出自を知る権利の普遍的重要性が徐々に評価されてきています。
今回の裁判では、本当の両親が分からず、出自を知ることができないことによって苦しんできた江藏さんを救済するとともに、多くの人に関心を持ってもらうことで誰もが出自を知るという素朴で当たり前の権利を享受できる社会の実現に近づけるためにも戦っていきたいと考えています。
【寄付の使いみち】
①訴訟費用:弁護士費用や裁判に係る諸費用(コピー代、交通費、専門家の意見書作成費用等)について、100~150万円程度 。
②政策提言費用:本裁判を広く人々に知ってもらい、同種の赤ちゃん取り違え事件に対応するための政策提言等の活動、イベントやその広報費用について、50~100万円程度。
まずは印紙代やコピー代、交通費など提訴に不可欠な実費として50万円を募集したいと思います。目標金額を達成しましたら、ネクストステップで専門家費用や本裁判に関連する政策提言費用を集めたいと考えています。
社会から広く支援を得ることは、経済的にも精神的にも、原告や担当の弁護士にとって大きな支えとなります。どうかご支援頂けますようお願い致します。
【原告本人からのコメント】
私は1958年(昭和33年)4月10日に生まれたとされています。
幼少の頃から親族から「おまえは誰にも似てないね」と言われてきました。病院嫌いの母親は1997年10月頃、体調を崩し入院して初めて血液検査を行いました。私はもう39歳の大人になっておりました。A型の自分と、O型の父。母の血液型はきっとA型かO型であろうと思っていました。検査結果を見て誰もが驚きました。母の血液型はB型。予想もしてない答えでした。そこから色々な人に相談しました。ある新聞では「O型とB型との間で遺伝子の変化が起こりA型が生まれる可能性がある」という記事も見つけ、きっとこの可能性に当てはまってしまったと思っていました。この時点でも他人であるという疑いは全く持ちませんでした。月日が経ち、2004年5月にある法医学の教授と知り合い、ぜひ調べてみたいという事となり、家族全員のDNA鑑定をすることになりました。そして採血から2週間後に結果が。教授からの答えは、「あなたにはお父さんとお母さんの血は一滴も流れてない。」というものでした。
可能性としては生まれたときの病院での取り違えしか無いだろうと言うことになり、東京都に問い合わせをしました。しかし、自分が生まれた東京都立墨田産院は既に無く(1988年に閉鎖)、当時の資料も何も残ってないのでわからないと言う回答のみでした。
弁護士に相談し、2004年10月に裁判を行いました。一審では、取り違えが認められましたが、損害賠償については時効でした。直ちに控訴し、2006年10月、高等裁判所で逆転勝訴し、東京都が損害賠償を支払うように命じられました。しかし、その後東京都に何度問い合わせをしても、損害賠償で解決済みと言うことで一切対応頂けておりません。
それから私なりに努力して東京都や墨田区に話をしてきました。情報公開請求もしたのですが駄目でした。長い時間が経ってしまいました。私は今年で63歳、ホームで暮らす母は89歳になります。諦めかけていた真の家族に会いたいという気持ち。やっぱり諦める事が出来ません。自分の生みの親がどんな方なのか?兄弟がいるとしたらどんな方なのか?私たち、特に母には残された時間がございませんので、改めて裁判を起こして東京都に調査を求めることにしました。私たちのような目に遭う家族がいなくなるように制度を整えてほしいとも思っています。大変恐縮ですがもしご支援を頂けましたら幸いです。
【弁護団(海渡・小川)からのコメント】
トップ写真の親子は、血の繋がった親子ではありませんでした。そのことを両親も子どもも知らないまま長年、普通の親子として過ごし、子どもは成人して大人になりました。取り違えの事実を知ったとき、足下に突然穴が開いたようでした。
原告は、取り違えの事実を知ってなお、自分を育ててくれた両親に対しては深く深く感謝しています。本当の親だと考えています。それでも、生みの親のことを知りたいという気持ちを抑えることはできません。原告の育ての親も自分の生物学上の子を一目でも遠くからでも見てみたいと希望しています。それは人として当たり前の感情であり、自分の生みの親、自分がお腹を痛めて生んだ子を知ることは基本的な人権として保障されるべきであると考えます。
(育ての母と散歩をする江藏さん(2018年))
もちろん問題は単純ではありません。特に本件のように取り違え発覚まで長期化した場合、取り違えられた子とその育ての親の家庭の平穏や、その方達のプライバシーといった問題があります。しかし、現に取り違え発覚後に取り違えられた子と生みの親が再会し、建設的な関係を築くことができた例もあります。出自を知る権利、あるいは家族統合の権利の重要性に鑑みれば、上記の問題があるからといって、救済の道を一切閉ざすのは間違いであり、慎重な考慮の上で乗り越えるべき法的・社会的課題であると考えます。
原告は、生みの親に無理矢理にでも会いたいと望んでいるわけではありません。行政から生みの親が取り違え事件に巻き込まれたことを通知してもらい、取り違えられた子どもが生みの親に会いたがっているので連絡先の交換をして貰えないか、その意思確認をしてほしいと望んでいるに過ぎません。それでも生みの親が連絡先の交換を拒否するのならば、生みの親の意思を尊重して会うことは諦めると仰っています。そのような、ささやかな願いすら全く聞き入れて貰えない。こんなことが許されて良いのでしょうか。
この事件は氷山の一角であると言われています。もし自分が産院で取り違えられたと知ったとき、あなたならどうしますか?
[Baby mistake case]
Plaintiff Satoshi Egura (62) is a victim of a baby mistake. On April 10, 1958, an employee of Sumida Maternity Hospital mistakenly mistaken for two newborn babies. Since then, Mr. Egura has lived as a child of a "parent".
(Mr. Egura in his childhood (with his father))
Mr. Egura has been suffering from a sense of incongruity that he is the only person in his family since he was a child. Since the DNA test was conducted in 2004 and the mistake was revealed, I want to know "I want to know my" real parents "" and "I want to know my origin" for more than 15 years. I have lived with a wish.
Mr. Egura may be able to know his origin by examining the materials when the capital and country are seriously mistaken. However, despite Mr. Egura’s repeated requests, the city refused to investigate at all.
We have nowhere to go, angry about why we have to think like this, even though we have no fault.
[History so far-Tokyo's inhumane response]
(1) Discovery of misunderstanding-previous proceedings
Despite the fact that the results of the DNA test revealed that there was no parent-child relationship with any of the "parents raised", the hospital management headquarters in Tokyo, the person in charge at the Sumida Ward Office and the Social Insurance Agency said, "Make up. I didn't really deal with it.
Therefore, Mr. Egura and his "parents raised" filed a lawsuit for damages due to tort (previous proceeding) against the Tokyo Metropolitan Government.
Although he lost in the first instance, the Tokyo High Court granted the request of Mr. Egura and others and ordered the city to pay damages. In this 2006 decision to finalize the appeal, it was found that the mistake was a "basic error as a maternity hospital" and that the life of Mr. Egura and others was upset by a serious negligence in Tokyo.
(2) Background to this proceeding
Mr. Egura has repeatedly asked the city for more than 15 years to cooperate with his biological parents in finding the biological children of their "parents". However, despite the decision to finalize the appeal, which admitted that the Tokyo Metropolitan Government was liable for the mistake, Mr. Egura said, "It's already over." And "It is necessary to consider the privacy of the other party's family." We have continued to refuse cooperation and investigations without responding to the request of.
(Mr. Egura (2018) who visits the Tokyo Metropolitan Government many times and asks for parents)
However, it should be easy to at least investigate and identify the misplaced child and confirm the intentions of the other family member. Nevertheless, Tokyo has continued to ignore Mr. Egura’s simple request to "know his origin" and to ignore it. As a result, Mr. Egura has been forced into a situation where his life has been upset from birth to the present.
Mr. Egura is already 63 years old, and his mother generation is around 90 years old. There is little time left for the reunion of true parents and children. Since the Tokyo Metropolitan Government did not accept the negotiations, I thought that there was only a lawsuit to know my true parents in the remaining time, so I had to file this lawsuit.
[Significance of claiming "the right to know the origin"]
Article 7.1 of the Convention on the Rights of the Child (Convention on the Rights of the Child), which Japan also ratified in 1994, stipulates that "children ... have the right to know their parents as much as possible and to be raised by their parents". We guarantee the right to know. The origin is deeply related to the formation of individual identity, and it is considered that the right to know the origin is guaranteed by Article 13 of the Constitution of Japan.
In recent years, legislation has been amended in European countries and Victoria, Australia, to enhance the guarantee of the right to know the origin, especially in the field of assisted reproductive technology involving third parties. The universal importance of the right to know the origin is gradually being evaluated.
In this trial, Mr. Egura, who has suffered from not knowing his true parents and not knowing his origin, will be rescued, and everyone will know his origin by getting many people interested. I would like to fight to get closer to the realization of a society where people can enjoy their natural rights.
[How to use donations]
(1) Court costs: Attorney's fees and various costs related to trials (copy fee, transportation fee, expert opinion writing fee, etc.) are about 1 to 1.5 million yen. ..
(2) Policy proposal costs: About 500 to 1 million yen for activities such as policy proposals, events and their public relations costs to make this trial widely known to people and respond to cases of the same type of baby mistake.
First of all, I would like to raise 500,000 yen as actual expenses that are indispensable for filing a complaint, such as stamp fee, copy fee, transportation fee. Once the target amount is reached, we would like to collect expert costs and policy proposal costs related to this trial at the next step.
Getting widespread support from society is a great help to plaintiffs and their lawyers, both financially and mentally. Thank you for your support.
[Comment from the defense team]
The parent and child in the top photo were not blood-related parents and children. I spent many years as an ordinary parent and child without my parents and children knowing about it, and my child became an adult. When I learned of the fact of the mistake, it seemed that a hole suddenly opened under my feet.
The plaintiff is deeply and deeply grateful to his parents for raising him, even though he knew the fact of the mistake. I think I'm a real parent. Still, the desire to know the creator cannot be suppressed. Plaintiffs' parents also want to see their biological child at a glance or from a distance. It is a natural feeling as a person, and I think that knowing the parent who gave birth to oneself and the child who was born with a stomachache should be guaranteed as a basic human right.
(Mr. Egura taking a walk with her mother (2018))
Of course the problem is not simple. In particular, if it takes a long time to discover a mistake as in this case, there are problems such as the peace of the family of the mistaken child and the parent who raised it, and the privacy of those people. However, in some cases, the child and the creator of the mistake were reunited after the mistake was discovered, and a constructive relationship could be established. Given the importance of the right to know the origin or the right to family integration, it is a mistake to close the path of remedy just because of the above problems, and legal matters that should be overcome with careful consideration. I think it is a social issue.
Plaintiffs do not want to force their creators to meet. I want the government to notify me that my birth parent was involved in a misunderstanding, and I want the misunderstood child to confirm my intention to exchange contact information because I want to see my birth parent. I'm just there. If the creator still refuses to exchange contacts, he says he will give up meeting with respect for the will of the creator. Even such a small wish cannot be heard at all. Is it okay to allow this?
This incident is said to be the tip of the iceberg. What would you do if you learned that you were mistaken at the maternity hospital?
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