野村ダム緊急放流による水害訴訟 Flood damage suit by urgent discharge in Nomura dam

2018年7月7日、野村ダムが緊急放流を実施。約650棟が浸水、5名が死亡した。原因は、国や野村ダム管理所の危機対応の杜撰さにある。2度と同じ悲劇が起こらないよう、野村の未来を守るため訴訟します。 TBA
1.はじめに
【普段の野村町の様子】
【災害時の野村町の様子】
愛媛県西予市にある野村ダムと鹿野川ダムは、全長103キロメートルの一級河川である肱川上に設置された洪水調整等を目的としたダムです。同ダムの管理事務所は、2018年7月7日の西日本豪雨を受け、ダム内に流入して溜まった水流を「緊急放流」しました。この緊急放流よって河川流域の市街地は激流に飲み込まれ、野村町では約650棟が浸水、5名が死亡するという甚大な被害が発生しました。
私たち原告団は、両ダムの緊急放流の被災者です。濁流にのみ込まれて死亡した者の遺族や、家屋等が損壊して生活や商業の基盤を失った人たちがこの裁判に参加しています。
この水害は天災ではなく、ダム管理事務所の管理主体たる国土交通省四国整備局(以下、「国」)が、同ダムを杜撰に管理していたことにより生じた「人災」だと考えています。そこで、私たちは、2020年9月9日、松山地方裁判所において、国を被告とした国家賠償請求訴訟を提起しました。
2.なぜ水害が発生したのか
私たちは、①急激な放流行為、②ダム操作規則の硬直的運用、③放流情報の伝達不備という点において、国の対応には落ち度があったと考えています。
①急激な放流行為について
本件ダムの主な設置目的は、洪水調整(治水)です。この目的のため、国は、豪雨等の影響でダム内に大量に水が流入した場合、ダムからの放水量を調整して河川流域の市街地が洪水に見舞われないよう措置を講ずる義務を負っています。しかし、国は、気象庁から大雨特別警報を受けていたにもかかわらず、ダム内の水が施設許容量の限界に達するまで放流量を増加させませんでした。そして、国は、ダム内の水が施設の許容量を超えそうになった段階で一気に緊急放流を行ったのです。この緊急放流によって、ダム流域の町が甚大な被害を被ったのは先に述べたとおりです。
②ダム操作規則の硬直的運用について
平成8年に野村ダムの操作規則が改定されました。これによって、野村ダムの操作規則は、それまでの大規模洪水に対応したものから、中小規模の洪水に対応するものに変更されました。これによって、新規則自体が大規模洪水を想定していないものに改変されてしまったのです。このことを理由に、国は、「いかなる場合にも操作規則通りにダム放流操作をすべき」であり、本件緊急放流を生じさせた操作について、国に落ち度はなかったとの説明をしてきました。
しかし、国土交通省は、昨今の異常気象を踏まえ、
野村ダム所長が西予市に対して「
③放流情報の伝達不備について
河川法48条及び特定多目的ダム法32条を受け、本件ダム操作規則26条は「ダム所長は放流によって生じる被害を防止するために必要があると認める場合に、関係機関に通知するとともに、一般に周知させるため必要な措置を取らなければならない。」と定め、流域住民への情報の周知を義務付けています。
ところが、野村ダム事務所は、どれだけの放流量で堤防を越えるのか、どこが浸水するかを把握していませんでした。そのため、切迫性を持った緊急放流に関する情報が河川流域の住民に伝えられることはなかったのです。実際、緊急放流の直前までに警報所から流されていた放送文の内容は、「川の水が増えますので十分注意してください」というものにすぎませんでした。
緊急放流がされたのは早朝の午前6時20分、
3.この裁判をとおして訴えたいこと
気象庁が前例のない記者会見をして未曾有の豪雨への備えを呼びかけていたのに、野村ダムや西予市の見通しはあまりにも甘く、ずさんな対応でした。ダム事務所も市もどれだけの放流量で堤防を越えるのか、どこが浸水するかを把握できていませんでした。野村ダムが異常洪水時防災操作を行うこと、つまり「命の危険が迫っている」ことを、ダム事務所と西予市は住民にすみやかに知らせなかった。もっと早く避難指示が出ていれば、少なくとも命が失われることはなかったはずです。
なぜダムの放流で町が壊され、なぜ人が犠牲になったのか?
ダムの操作規則は、下流域住民の生命や財産より大切だと言うことなのか?
多くの肱川流域の住民は、国には勝てないと思ってあきらめています。このままではあのひどい放流が”正しい放流”だったことになってしまいます。
【裁判所に向かう原告ら】
【提訴時記者会見の様子】
4.資金の使途
今回の裁判では、国のダム管理に落ち度があったことを証明するために、研究者などの専門家の協力も得ながら膨大な情報を収集しています。また、集めた情報を、やはり専門家の力を借りながら、綿密な調査・検証を行っています。
このような作業には多額の費用が必要となりますが、十分な資金は確保できていません。
今回クラウドファンディングを通して資金を集めようと考えたのも、今後十分な弁護活動を続けていくために必要な諸経費(裁判記録のコピー代、交通費、調査費、研究者・専門家に支払う報酬など)を賄う必要があったからです。
裁判の当事者や担当する弁護士にとっては、広く社会から経済的な支援が得られればとても大きな力になりますし、裁判を続ける上での精神的な支えにもなります。
今後、野村ダムで発生したような惨禍が二度と起こらないよう、全国の治水行政を正していかなくてはなりません。そのためには、今回の裁判をとおして、国による災害時のダム操作、ダム操作規則の内容及び運用方法、そして災害時の情報伝達に不備があったことを明らかにしていく必要があります。
原告、弁護士共に裁判に勝てるよう尽力していきたいと思っておりますので、皆様なにとぞご支援を賜りますようお願い申し上げます。
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